連載6・やる気のない社員の辞めさせ方~ほんとうは部下に仕事に立ち向かってもらうための(坂口孝則)
成績の芳しくない社員には、指導書・警告書を出してください、と前回まで説明しました。そして、指導書・警告書について、それぞれ、対象社員から改善計画書を出させるようにとも伝えました。これは一種の裁判対策です。不当解雇だと訴えられたとき、考えてもわかるとおり、会社側の資料だけが提出されても意味がありません。あくまで対象社員が書いた資料が必要です。
そこで、一般的には、
●正社員は辞めさせにくいけれど、
●パート社員は辞めさせやすい、
といわれます。しかし、あれは、ちょっと違った観点から解釈したほうがいい、と弁護士はいいます。というのも、パート社員は1ヶ月単位の契約で働いてもらっている。それにたいして、日本では習慣的に正社員は60歳までの40年間の契約で働いてもらっていると考えたほうがすっきりするからです。だから、会社がその契約期間の途中で契約を解消させようとしたら問題なのだと(これは皮肉でしょうが、某弁護士は語っていました)。
その際に、解雇の理由は大きくいって二つあります。
●成績が悪い
●態度が悪い
のどちらかです。その際に、前者(成績が悪い)のケースは、裁判になった際には、会社側はきわめて勝利が難しいとおぼえておきましょう。というのは、日本ではOJTで人材育成をするのが大半です。ということで、会社側が成長を促していないと判断されます。実際に多くの判例では、会社側の責任を問うています。
そりゃ無能なひとは何を施してもダメだろ、という議論はわかります。しかし、成績で解雇できるならば、満足な職業的な訓練や機会を与えない場合にも解雇し放題になります。また成績は配属された部門しだいの側面もありますよね。
ということで残るは後者(態度が悪い)しか事実上は残っていません。というのも、性格や、人間性は会社が変えられるものではないからです。裁判官も誰も、自分の性格は5歳から変わっていないと知っています。ですので、ほんとうに解雇させたいのであれば、態度で争うべきなのです。
ですので、理屈としては
1.指導書・警告書を出した
2.本人からは改善計画書をもらった
3.しかし改善の見込みがない客観的事実がある
4.それなら解雇も正当だよね
という道筋が必要です。3.のプロセスあたりで、途中から人事部のマネージャーが介在する会社があります。これは立場的に中間の方が介在することで、本人を可能なかぎりフォローするためです。一連の記録には、可能なかぎり主観を排して記載する必要があります。というのも、会社側の管理者が何を思ったかではなく、重要なのは裁判所が記録を見たときの「客観的事実」だからです。
これは皮肉なことですが。逆算して考えると、ほんとうに誰かを解雇したい際に重要なのは「改善の見込みがない」(性格的な)項目を選ぶことです。これは文末に「(笑)」とつけるべきでしょう。しかしほんとうです。だから、前述のとおり、「成績が悪い」ではなく、「態度が悪い」しかないのです。
では、ここからやや哲学的な話になります。
ならば「改善の見込みなし」とはどうやって判断するのでしょうか。さきほど私は、「裁判官も誰も、自分の性格は5歳から変わっていないと知っています」と書きました。たしかにそうかもしれない、でも、別に論理的な事実ではない。神が君臨して生まれ変わるかもしれません。冗談です。
証明は絶対的手法はありません。しかし、多くが見て「こいつは解雇されて当然だな」と思わせられるかにかかっています。どうすればいいか。ひごろから、本人の「」(かっこ)を収集することです。「」(かっこ)の意味は、文字通り、発言です。発言をそのまま記録し、「クソ野郎」と周囲にいっていた、などと記録するわけです。裁判でも、人格を記述する際には、そのような「」(かっこ)付きの本人の発言が引用されると強いとされています。まあ、改善要望書を繰り返しもらって、暴言を吐き続けるならアカンな、となりますよね。
それにしても、雇ったひとを解雇するのは大変です……。
<つづく>