ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

物流の話をしよう 4

前回は、物流費の妥当性を判断するために、2つのプロセスが必要であることを述べました。

1.支払いっている物流費そのものの妥当性 

2.(1)短納期化(2)多頻度化(3)小口化という物流費にとってプラスとなる費用と、マイナスとなる費用の見極め 

2は発注する財がいったいどのような性格かに依存します。ここで利用すべき情報は、調達・購買部門で主体的に決定する「発注方式」です。 

発注方式とは、どんな調達・購買本でもその具体的な方法が明確に定義されています。ここで最初に必要となってくるのは、経済的な発注数の求め方です。ここで、比較的どのような文献にも次のように定義されている発注費用と在庫維持費用から導き出す経済的発注量の算出方法について述べます。

これらの式で求めるべき経済的発注量のセオリーは次の通りです。

1. 発注量を少なくして、発注回数を多くすれば、在庫量は減少し、在庫維持費用は減少する。

2. 発注費用が増加すると、発注に要する費用が増加する

3. 上記1.2の相関関係から、総費用が最小となるような最適量を求める

ここで求められた経済的発注量をベースに

(1) 定量発注方式

(2) 定期発注方式

の大きく二つにわけ管理をしてゆきます。しかし、最近ではこのような分析はなかなかおこなわれません。その理由は2つあります。

1つは、Just In Timeの一般化です。先に提示した数式に基づいて経済的発注量を算出し、その発注量をベースにサプライヤーへ注文する機会が実質的に減少しています。自社の生産計画をベースとして、必要な時に、必要なモノを必要な量だけ注文することが一般化しているのです。これは、どんな根拠であれ、在庫を「悪」とし、罪庫とする風潮も影響しています。

もう一つは、マクロベースによる物流費用の下落です。

日本ロジスティックスシステム協会が毎年発表している「物流コスト」の調査結果を見てみます。最新の2010年の調査結果によると、売上高に占める物流コスト比率も、マクロベースの物流費(輸送コスト、在庫コスト、管理コストの総計)でも下落傾向を示しています。同じ報告書の中で、米国が増加を続けている結果とは対照的です。

この2つから、現在の多くのバイヤーの置かれた物流費の関わりを推し量る事ができます。この資料を読むと、2006,2007年と物流費用の総額には、それまでの下落から一転して上昇に転じる傾向が読み取れます。しかし、2008年にはリーマンショックの影響で総額は再び減少しています。この状態はなにを示しているのでしょうか。

ここまで述べたことを整理します。

① Just In Timeの一般化によって、経済的発注量を検討すること無く、自社のニーズによって発注量と関係なく注文のタイミングを決定している

② 物流費は総額で下落傾向を継続しており、過去20年で見たとき、過去との対比で発注単位あたりの物流費は上昇していない

この2点により、バイヤーが物流費にあまり関与しなくて良い状況が生まれているのです。あまり気にしなくても、過去との比較ではそんなにおかしい=高い物流費が請求されることはないわけです。

しかし製造業において、売り上げにしめる物流費の割合は、5%台後半から6%台中盤を推移しています。これは主要製造業の平均値です。自社の物流費がこの平均値に比してどのような状況にあるかを掌握することはバイヤーとして必要です。理由は、多くの「普通の」バイヤーは物流費用に全く関知していません。それは所属企業の仕組みとして、物流費用に関与しなくてよい取引条件を設定した結果でもあります。バイヤーとして取り組む仕事としてはラクですね。購入する財のコスト分析に集中すれば良いのです。しかし、バイヤーとして生き残るために、そんな状況は好ましくありません。

同じ報告書に、米国の例が掲載されています。マクロ物流費は一貫して上昇しています。全業種平均での売上高物流コスト比率は、日本が4.79%であるのに対して、米国ではここ数年下落傾向にあるとはいえ、8.28%(いずれも2010年の実績)にもなります。日本がすぐ米国のレベルになることは考えづらい。しかし、グローバルで調達リソースを求める場合、見積金額に占める物流費の割合が日本と比較して高いことは、前提条件として理解しておくきです。サプライヤーとバイヤー企業の物理的な距離が遠くなれば遠くなるほどに、物流に費やすコストは高くなるのです。

今回は4回に渡って、バイヤー的物流費への取り組みをお話ししました。今の「バイヤーは物流への関与が少ない/まったくない」そんな状況は、これから生き残ってゆくバイヤーとしてはふさわしくありません。この点をご理解いただければ幸いです。

<終わり>

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