ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・海外調達における社内説得

どのようにユーザー部門に、こちらを向いてもらえばいいのか--。

いまさらではあるものの、これは調達・購買部門でいまでもテーマであり続ける。調達・購買部門がいかに標準化を叫んでも、ユーザー部門が聞いてくれない。安価なサプライヤーがあるといっても、ユーザー部門は聞く耳をもたない。

ユーザー部門とは、設計者であったり、研究者であったり、さまざまだろう。そのユーザー部門が調達・購買部門のいうことをきいてくれないのである。

前回、契約だとか海外調達の話をし始めた。そして順番は入れ替わるけれど、ここで社内説得の話をしたい。というのも誰と話しても「社内説得」の困りごとが話題にあがる。おそらく、日本組織が行き着く最後の問題は「人間関係」と「社内関係」なのだろう。

調達・購買部門における、最大の問題を簡単にいうと、「ユーザー部門(設計部門とか)が勝手に調達品を決めてしまう」ということだ。タテマエではサプライヤーは調達・購買部門が決定することになっている。しかし、多くの場合はサプライヤーどころか、価格まで設計者が決定したあとに調達・購買部門にその見積書のコピーを横流しする事態が頻発している。

ただし、このことはあまりに幼稚な問題だからか、正面から論じたものがない。「設計者がいうことを聞いてくれない? それはお前の努力不足だろう」とい精神論になっていく。私の「調達力・購買力の基礎を身につける本」が日本で最初の、社内説得に困っているバイヤーと、その解決策を模索した最初の本だった(これは自慢ではない。なぜ、そのような問題を述べようとしないのか私には疑問だったからだ。ちなみに、海外の本でもこの問題に触れたものはない。あったら読みたいから教えてほしい)。

さて、私はこのような問題と直面した際に、因数分解して考えるという癖を持っている。理想を単純化すれば、「ユーザーが何らかの決定をなすときに、こちらに声をかけてもらい、そして相談してもらい、こちらの意見を汲んでくれる」ということになる。

ここで、因数分解すれば、こういうことだ。

1.認知・こちらの存在を知ってもらう
2.解決・こちらに声をかければ問題が解決するとわかってもらう
3.容易・こちらに声をかけやすくしておく

まず、1.については繰り返し書いている通り、私は社内の設計者に対して、他部門の成功例(VA/VEの成功例)をまとめたpdfを毎月勝手に配布していた。自分が情報発信源になることで、自分というバイヤーの認知を高めた。pdfを転送してもらえる「面白さ」を持つことで、勝手にpdfが自分を宣伝してくれる。

そして、2.だ。これを読んでいるバイヤーは次の三つを考えることをオススメする。これらに明確に答えることができれば、社内のユーザー部門はあなたに声をかけだすだろう。

1.社内のユーザー部門は何にたいして「夜も眠れない悩み」を抱えているのだろうか
2.社内のユーザー部門は何にたいして「夜も眠れない怒り」を抱えているのだろうか
3.社内のユーザー部門は何にたいして「夜も眠れない不満・不安」を抱えているのだろうか

この三つである。というのも、よく「調達・購買部門が、ユーザー部門にたいして、安価な商品やサプライヤーを紹介しても、まったく聞く耳を持ってくれない」というバイヤーがいる。それは、当たり前だ。というのも、それはユーザー部門の「悩み」「怒り」「不満・不安」をつかまえることができていない。ユーザーは価格ではなく、既存の品質やスピードに悩んでいるのかもしれない。そうすれば、あなたがユーザーにたいして提供すべき商品やサプライヤーは、「品質の良さ」「スピードの速さ」を備えたものでなければならない。

価格はそのあとだ。そのあとでも、「悩み」「怒り」「不満・不安」を解消してあげれば、ユーザー部門を籠絡することができる。他者の「悩み」「怒り」「不満・不安」を解消するところから、すべては始まるのである。

・社内説得の次の展開

海外調達を推進するとき、どうしてもサプライヤーの「安価さ」ばかりを社内に提示してしまう。しかし、それがユーザー部門の「悩み」「怒り」「不満・不安」にヒットしていなければ、心に響くことはないだろう。

稚拙ながら、私の経験を述べておきたい。

私は、毎日のように意味もなく設計者のフロアをぶらついていた。もちろん、設計者と仕事をするためもあったけれど、それよりも一緒にタバコを吸うためだ。そうして喫煙所で話していると、さまざまな情報が集まってくる。

「あのプロジェクトはどうだ」とか。「あいつがいま、こんなことで困っている」とか。「あのサプライヤーの製品はもう使いたくない」とか。

もちろん、それが正式なルートでは流れてこなかった「本音の」情報だった。私は、そこからそれを解決するための案を流し続けた。「この人は、以前同じようなプロジェクトに取り組んでいたので、いろいろ知っていると思いますよ」「その問題はこの製品を使えば解決すると思いますよ」「あのサプライヤーの製品じゃなくて、こんな製品もありますよ」……。

それがどれだけ設計者に役立ったかはわからない。ただ、少なくとも「あいつに聞けば何らかの反応はある」とウワサにはなったし、私も「悩み」「怒り」「不満・不安」をつかむことができた。

要するに、そのあとだと思う。調達・購買部門の戦略を売り込むのは。

彼らの「悩み」「怒り」「不満・不安」もわかっていない状態で、安価なサプライヤーを売り込んでも届かない。戦略に従ってくれといわれても、ユーザー部門は動きようがない。

しかも、これらの活動はタダでできる。

1.社内のユーザー部門は何にたいして「夜も眠れない悩み」を抱えているのだろうか
2.社内のユーザー部門は何にたいして「夜も眠れない怒り」を抱えているのだろうか
3.社内のユーザー部門は何にたいして「夜も眠れない不満・不安」を抱えているのだろうか

おそらく、これは「モノを販売する」ときにも使えるはずだ。「自分が言いたいこと」ではなく、「相手が欲していること」を伝える。おそらくそれはユーザー部門を真に説得する内容にもなるはずだ。

海外調達からだいぶ話がそれてしまったとお思いだろうが、私が伝えたいことの一つはこのようなことである。そして、社内展開から、いよいよ話は続きに入っていく。

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