Q&A(坂口孝則/牧野直哉)

Q1:アラフォーバイヤーの今後生きる道としてお二人の考える方向性を伺いたいです。例えば、本メールマガジンの購読を含め、さらに専門性を身につけるべきとか、バイヤースキルより今後はマネージャー寄りの知識習得を優先すべきとか。 

【坂口の答え】

私が繰り返し述べている言葉に「LCB」というものがあります。Low Cost Buyer(安価なバイヤー)のことです。安価に調達できるという意味ではありません。給料が安い意味です。アジアの安価な労働力は日本人バイヤーの職を奪いつつあります。外資系企業では、すでに日本人バイヤーからLCBに移行しているのは以前も書いたとおりです。

さて、私は他人にキャリアのアドバイスをするほど偉くはありませんけれど、ここから導かれる道は二つだろうと思います。すなわち、「管理職として生きていく」か「LCBが追従できないような先端の調達を行えるバイヤーとして生きていく」か、です。私はおそらく、前者はムリだと思います。これは個々人の性格や希望にもよるのでしょうね。

ここで前者の指南書はたくさん出ていますから、後者の説明に特化したいと思います。これから、バイヤーに求められる知識や能力は次の三つだと考えています。

・原価計算や管理会計などの、コスト計算
・法律(CSR含む)やダイバーシティーへの理解
・デリバティブ(金融派生商品一般)など、市況商品への理解

というのも、調達・購買の段階は、次のように発展すると思うからです。

1段階目:注文書の処理、納期の追いかけ
2段階目:調達戦略の構築とその実行
3段階目:部門最適ではなく全社最適での調達の実行

おそらくLCB勢は1段階目と2段階目まではいっています。しかし、周辺知識までを保有する人は少ない。だから、逆にLCBに対向するにはここを強化するしかないと思うんですよね。

プライスではなくコストを理解し、契約だけではなく法律トレンドやステークホルダーの多様化を理解し、かつ金融などの他領域にも積極的に介入していく態度……。これこそが、新たなバイヤー像ではないかと。

答えが長すぎました。失礼しました。ここで、何冊か将来を考えるヒントをくれるものをご紹介しておきますね。気になったらお手にとりください。日本の将来と、個人の将来を考えさせてくれるものです。

ハーバードの「世界を動かす授業」
未来改造のススメ
日本の近代化と社会変動(今こそ読みたい本。歴史が俯瞰できる。でも、長いし難解なので、気になった方のみ) 

【牧野答え】

ゼネラリスト・スペシャリストの取捨選択論とお見受けします。

この取捨選択に関する認識の前提条件を以下の通りとします。

・ ゼネラリストとは、部下の人事権と予算権をもって目標、業績達成を課せられるライン管理職・役職処遇のための制度
・ スペシャリストとは、専門的知識・技術者、熟練技能者やいわゆるその道のベテランといわれる人たちを処遇する制度

個人的には、ゼネラリスト・スペシャリストをあまり二者択一的には捉えていません。私は、バイヤーとしてはスペシャリストで有りたいと考えています。常々、バイヤーとしてスペシャリストであるためにはどうすれば良いかを考えて行動しています。

一方、私は一企業のサプライチェーンを司る組織のマネジメントも行なっています。では、ゼネラリストとしてマネジメントを行なうかといえば違います。上記に提示した前提で言えば、ゼネラリストになる仕事でも、当然スペシャリストであるバイヤーとしての自分が大きく影響しています。そして、組織運営という観点では 、マネジメントでもスペシャリストになりたいとも考えています。

なにか、かなり欲張りですね(笑)

私が欲張りなのは原因があります。

例えば、スペシャリストですね。医者、弁護士、公認会計士といった資格を持っている方は、確かにその道のスペシャリストであるといえます。そして、イチロー選手であったり、石川遼選手であったりといったプロスポーツの選手も、スペシャリストです。そういった「スペシャリスト」という際のレベルと、私のスペシャリストというレベルは違うんです。私は、今更イチロー選手や石川遼選手のレベルに達することはできない。けど、バイヤーとして業務を遂行していく中で、例えばバイヤーの組織のマネジメントをやってほしいと言われた場合には、これまでの経験を生かして、スペシャリストを目指してやっていこうと思えるし、実際になることができる、到達可能と思えるんです。スペシャリストとしての到達点の違いです。

例えば、こんな本も有りますし。

ただ、ゼネラリストを軽んじるわけではないです。

私は、過去に中小企業診断士の受験勉強をしたことがあります。残念ながら診断士の資格を得ることはできなかったのですが、企業経営に関する全体一通り学ぶことができたという意味では、バイヤーとしてのスペシャリスト志向にも大きく影響しています。受験勉強をしてもたらされた自分への大きな変化は、関連部門の担当者と、対等に話ができるようになったと実感できた点です。裏を返せば、経験で有る程度の域にまでは達することはできる。しかし、そこから一歩抜け出すためには、体系的な知識の習得によって実現されるわけです。中小企業診断士の勉強は、¥6,000/月で通信教育の受講が可能です。

結論としては、スペシャリストを目指すのであれば、机上の空論でも良いので、一度は何らかの手段を講じて、会社全体を学ぶことをオススメします。その上で、スペシャリストを目指しても、アラフォー世代だったら遅くないですよ。

Q2:同僚のバイヤーが採用するサプライヤーの見積が高いなと思っていました。先日、たまたま同じ図面の見積を、私が最近見つけたサプライヤーに見積してもらうと、約半値の金額でした。この値差の根拠を同僚バイヤーに確認すると、
「図面には描いていないスペックがたくさんあるんだ」
「そんなわけの分からないメーカーに発注できるか」
と、逆に怒られました。お二人であれば、同僚バイヤーにどのように対応されますか?

【坂口答え】

殴ります。冗談です。

それは絶対値がいくらのものかどうかで判断が変わるはずですよね。というのも、10円のものが5円になったとしたら、それは「ありうる」けれど、「優先順位が低い」ものかもしれません。逆に10億円のものが5億円になるのであれば、ほんとうに殴ってでもサプライヤー変更させるべきですよね。

わざとひねった答えをしますけれど、世の中で「問題」というとき、ほんとうに考慮すべきものは次の二つしかないと私は思います。

・これまでの歴史上の事実からしても、おかしなことが起きているとき
・他の国・企業・個人と比べても、おかしなとき

たとえば、100歳以上の高齢者が不明になったときも、「日本ではこれまで、高齢者が行方不明になったことはないのだろうか」「他の国と比べても、ほんとうにおかしなことだろうか」という観点は必要だと思ったのです。

私は佐賀県出身ですけれど、近くには「いつの間にか消えてしまった近所の高齢者」がいました。ふらっとどこかへ消えてしまったんですね。そのまま戻ってこない。これは笑い事ではありません。ただ、「そんなことはあるだろう」という感覚を、私は持っています。この話をすると、私の知人たちも「(親類ではないにせよ)高齢者がいなくなった」経験があるようです。

これとサプライヤーの見積りを同列に論じるのは、そりゃ乱暴ですけれど、それが「問題」なのか、という視点は持っておきたいと思います。もしかすると、あなたの企業では、そのような「もしかすると半額になるような調達品」にあふれているのではないか。そのバイヤーだけではなく、他のバイヤーのコスト妥当性チェックも必要ではないか。個別の問題ではなく、それは恒常的な状態を象徴的に示しているだけではないか。

答えを逸らしてしまいました。

私が言いたいことは、個別対応ももちろん大切だけれど、「その調達品の金額」と「全体の状況」を確認してから、そもそもそれが「問題」かどうかを設定せねばならないと思いますよ。

ではそれが「問題」だった場合の解決策は、牧野先生から(笑)

【牧野答え】

ああ、私の勤務先とご一緒ですね。今度、個人的に対応策の検討会を行ないたいくらいです(笑)

ご質問をされた方の、社内的なお立場がどのような状況に置かれているかまではわかりません。なので、私がそのような状況に遭遇したらどうするか、で御回答します。

まず、例示していただいた同僚の方の発言について、詳細を確認して事実を掌握します。

「図面には描いていないスペックがたくさんあるんだ」

こういった発言は、長年ずっと同じ製品やサプライヤーを担当して、あ・うんの呼吸でサプライヤーとコミュニケーションをしているバイヤーに多くみられます(当社調べ)で、ほんとうにそうなのでしょうかね?この発言の主は、その図面に明示されていないスペックをすべて掌握しているのでしょうか。そして、ご質問 について、あなたはいかがですか。

では、その図面に描かれていないスペックはどうやって既存のサプライヤーに伝わって、製品に反映されるのでしょう。設計者や要求者とサプライヤーが直接打ち合わせを通じて、発注者のニーズを伝えているかもしれません。もし、そうであれば、いや、その可能性が少しでもあれば、そういった打ち合わせの場にバイヤーとして同席する。そして、打ち合わせの内容を議事録として残すことで、ナレッジマネジメントでいうところの暗黙知を形式知にはできますよね。

「そんなわけの分からないメーカーに発注できるか」

そしてこの発言。これは簡単です。この発言のバイヤーにわけをわかってもらえば良いのです。具体的には、会社案内や、見積書を渡して、内容を評価してもらう。そして、興味を持ってくれているようであれば、実際にサプライヤーと面談して貰ったり、訪問して貰ったりすればいいのです。また、あなた自身も、同僚のわけのわかっているサプライヤーをより知る努力をしてはいかがでしょうか。

頂戴した二つの発言の主。なぜあなたを怒ったのでしょうか。怒りを買ってしまった部分はどこなんでしょう。私の予想ですけど、それはサプライヤーでなく、あなた自身への反感ではないでしょうか。

人は三人集まると派閥ができるそうです。私が知っている例でも、わずか5名の会社で、三人対二人の派閥抗争が起こっています(現在進行形)。とっても残念なことですね。同じ会社にいる同僚とは、同志です。今回のケースでは、ある調達品についての行く末を決める船頭争いにみえます。初めて遭遇した例であれば、相手にすべてを委ねてみてはいかがでしょうか。そもそも、同じ船に乗り、同じ目標へと向かっているのです。内輪揉めなど、もっとも避けねばならない事態と考えます。

そして、その同僚と社内を注意深く見回しましょう。このような事実が他にもあるのではないか。そして、関連部門からあなたが気づいた事象が指摘されたとき、事は重大です。そもそも、図面に明示されていないことが諸悪の根源です。例えば、設計部門から疑惑の目が向けられたら、調達部門としての善処を行なうことと引き替えに、すべてを形式知にすることをお願いしてはいかがでしょうか。

Q3:私の上司が最近iPhone4を購入しました。嬉しそうなのは微笑ましいのですが、最近「どんだけiPhone4がすごいか」について、こんなアプリも、あんなアプリも仕事に役立って、こんなに効率化したんだぞ」という話を毎日聞かされます。しかし、はた目ではまったく効率化の効果が見えないし、かえってiPhoneをいじっているため、私の価格承認が遅れ気味で困り始めています。

(1)その上司に「効率化してませんよ」って言うべきでしょうか
(2)お二人は、iPhoneとかiPad、ブラックベリー等々、スマートフォンの類をお使いになられていますか?
(3)使ってみて、世界は変わりましたか?

ちなみに上司に散々「世界が変わるぞ、買ってみろよ」といわれています。そろそろ携帯を変えようかとは思っていたのですが、その上司を見るたびに、スマートフォンがまったく意味がないように思えてならないのです。

【坂口答え】

使っていますね。iPhoneもiPadも持っています。世界が変わるかどうかまではわかりませんけれど、便利だとは思います。

(1)言わない方がよいと思います。理由は後述。
(2)使っています。
iPhoneとiPadです。
(3)不変です。

私は(1)は強調して言いたいのですけれど、年配の人がほんとうに使いこなせるまでにはもうちょっとお待ちになったほうがよいですよ。だって、iPhoneなんて、いちいち「どのwifiに接続しますか」って聞いてくるのですよ。知るか。もうwifiなんて切りました。それに、アプリだって私も使いこなすまでに時間がかかっているのですから、上司の方の場合は、気長に待ちましょうね。

これはデジタルデバイドではありません。単に習熟にかかる時間の問題です。

ただ、あえていうのであれば、iPhoneアプリの「i文庫」は便利ですよね。私は坂口安吾の文章に大きな影響を受けているのですが、いまさら再読し始めました。かなりマイナな文章までも読めるのですよ。すでに多くの文章を再読しました。

坂口安吾は、志賀直哉を痛烈に批判しており、「i文庫」を通じて知ることができました。その意味では読書生活に変化しました。おそらく電子書籍は予想よりも売れない代わりに、古典を読む利便性は急速にあがるのでしょうね。

もう一つ注目しているのは、「ユメモバ!」というビジネスです。これは今回のご質問とは直接関係がありません。ただ、モバイルを利用した新ビジネスなのですよ。といっても、内容は劇的に新しいものではありません。しかし、ある意味「!!」と思いました。

内容は、毎月315円を支払うと、アイドルから直接メールが届くというものです。もちろん、一斉配信ですけどね。アイドル一人あたり315円です。AKB48のメンバーなどのメールが届くようで、隠れた大ヒットビジネスになっています。日経新聞などは絶対に報じないでしょうが(笑)、すごい商売ですよね。AKB48の全員に当サービス加入したらどうなるんだ。315円×48=15,120円ですよ。これなら、払えなくもない(笑) しかも、実際に一万人が登録したら、それだけで1億5120万円の売上規模になります。メールだけです。コストはかかりません。凄まじい利益率になります。

モバイル端末を持つことは、個人と個人のつながりを直接化させました。現在では、「メールが届くこと」イコール「その人と友だち」です。その人間心理を利用し、アイドルとファンが(幻想とはいえ)直につながることでビジネスが成立する。これは恐ろしいアイディアだと私は思います。直接性と、他者とのつながり。これがお金に換わる時代になったということです。

後半は回答ではなかったのですが、思惟のきっかけになるかと思い、追記しておきました。

【牧野答え】

(1)反面教師にしましょう。なので、言うべきではありません。
(2)iPhoneとiPadの両方を使用しています。
(3)変わるわけないでしょう(笑)

私は、過去に直属の上司に書類を投げつけたことがあります(笑)怒り心頭で「こんな会社辞めてやる!」と、心から信頼していたかつての上司に「お世話になりましたが、これから辞表を出します!!」と挨拶に行きました。すると、かつての上司は、私を会議室へと連れ込んでこんなことを言いました。

「上司にたてついても、決して良いことはない」

上司といえども人間で、新入社員でない限り、そんなに大きな差はない……と蕩々と諭されました。 私は、上司であれば自分よりも優秀であるはずだ、と思いこんでいたんですね。優秀でない方もいるんだ~それでいて人事権という権力を持っているんだ~ということに気づかされました。今回のケースでは、書類を投げるまでの程度ではないみたいですね。で、あれば、上司も人間で完璧ではない、と暖かく見守ってあげるのが一番です。

現在、iPhoneとiPadの両方を使用しています。iPadを持つようになってからは、パソコンを持ち歩くことが減りました。iPhoneとiPadとパソコンの違いは、私にとってはインプットとアウトプットです。インプットがiPhoneとiPadで、アウトプットはパソコンになります。

例えば、iPhoneとiPadを持ち歩くようになってから、パソコンでメールを読むことが少なくなりました。ちょっとした時間でも一通のメールを読むことができます。そういう細切れの時間の活用には、iPhoneとiPadは非常に有効なツールといえます。メール以外にも、Twitterで皆さんのつぶやきを見るには最適のツールです。

世界が変わったかといわれたら、別に変わっていません(笑)iPhoneとiPadで世界や自分が変われたら、どんなに素晴らしい……というか、ちょっと怖いですね。そんなに簡単には変わらないでしょう。

iPhoneとiPadが秀悦なのは、アプリの存在に依るところが大きいでしょう。例えば、iPhoneとiPadには、いろいろな辞書のアプリがあります。何十種類もの辞書を搭載した電子辞書も、実際に活用するのは数種類……であれば、アプリで十分です。それ以外に、私が使っているアプリは

Sleep Cycle

これは、寝るときに枕元にiPhoneを置きます。すると、iPhoneに搭載された加速時計によって、人のレム睡眠とノンレム睡眠の状態を判断します。眠りの浅いときに、穏やかな音楽で起こしてくれます。同じような腕時計もありましたけど、爽やかに朝を迎えることができます

Mind Wave

これは、一定の音を聞くことで、耳から脳に刺激を与え、リラックス効果や集中力を促すアプリです。今のこのアプリを聞きながら書いています。

上記のアプリ以外にも、アプリの定番的としてSugarSyncEvernoteなんかも使用しています。世界が変わる……というよりも、自分の生活のいろいろな場面において、助けて貰っているとの感が強いですね。ちょっと極端な例ですけど、例えば幕末にiPhoneやiPadがあったからといって、明治維新がiPhoneやiPadのおかげで成し遂げられるとは思えないんです。世界を変えるのは、iPhoneやiPadを使う人の意思だと思います。

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