独身、結婚、そして失意(坂口孝則)

・おひとりさま、と、結婚したい症候群

このメールマガジンの読者のうち、独身:結婚の比率は1:1ではないかと思う。震災後は、未婚男女に結婚の機運が高まっているらしい。私は、「無縁社会」だったはずのものが、3.11をキッカケに「家族主義」に移行していることは、何の不思議も感じない。それは、どちらにせよ、個人主義が形を変えただけのものだからだ。

それはいいとして、結婚できない男女の話である。上野千鶴子さんが「おひとりさまの老後」を爆発的なヒットにしたのは2007年のことだった。これは、これまで「負け犬」と称されていた独身男女を、新しい生き方として描いたことに新しさがあった。いっぽうで、「といっても結婚したい」という素直な声の系譜も途絶えたわけではない。

小谷野敦さんが「もてない男」という身も蓋もないタイトルをヒットさせた1999年から無数の非モテ本と、男女の出会いを求めた書籍が多数出版されてきた。なぜか私はその多数を読んでいるけれど、衝撃的だった作品をあげるとすると、大学教員がネットで知り合った男性との性交渉を披瀝した「ドット・コム・ラヴァーズ」。同じく大学教員の樋口康彦さんの書いた、あまりにも酷い描写に笑うしかない「崖っぷち高齢独身者」。そして、最近、話題となっている「婚活したらすごかった」だろうか。

とくに2つ目の「崖っぷち高齢独身者」に関しては、著者のサインを持っているからいうわけではないけれど、記述のあまりの男尊女卑ぶりや、セコすぎる内容が抱腹絶倒なので、まずはお勧めしたい。

統計によると、結婚適齢期の男性のうち未婚率は50%にものぼる。もちろん、結婚適齢期をどこに設定するかで恣意的な数字になるため、この正確さは問わない。ただ、傾向は見て取れる。

最近の優良サイトといえば、GREEだろうけれど、隠れた大人気サイトは「match.com」のようで、「顔出しの会員」がたくさんおり、女性も多い。先日の報道を正とするのであれば、有料会員数は150万人を突破したという。私は、ここで、「ほらね、『おひとりさま』っていうのは、強がっていただけでしょう。結局、みんな結婚したいんでしょう」といいたいわけではない。もちろん、強がりもあるだろうけれど、結婚しないで良いという人たちの一方で、結婚したい人たちもたくさんいる。それだけのことだ。

・希望年収と実際年収の径庭

ただ、これらの本やサイトを見ていると、一抹の不安がよぎる。女性が男性に求める年収が高すぎるのだ。これがわからない。私のまわりの未婚女性に訊いてみると、「生活ができればOK」と答える。人事院が発表する二人世帯の標準生計費は16万円だから、年収200万円の男性で良いことになる。

しかし、多くの結婚サイトを見る限り、女性が男性に求める年収の平均は600万円だ。この400万円の差はどうやって生じるのだろう。もちろん、「生活ができればOK」が600万円を意味すると考えることもできるだろう。ただ、私がヒアリングするときに「600万円なければNGか」と訊いても「そんなもらっていなくても大丈夫」と答えるのだ。ということは結婚サイトに登録する女性が強欲なのだろうか。

答えはそのどれでもないだろう。きっと、「相手の年収、そうねえ、どっかなあ、600万円くらいかなあ」と記載しているに違いない。

ただ、現実は厳しい。都内の結婚適齢期の男性のうち、その年収600万円以上の比率はなんと3.5%しかいない。現在では派遣社員として働く男性も増えてきた。そうなると、派遣社員の60%が200万円以下といわれている現状では、もっとも考えるべきは「低年収の男性で妥協すること」と「低コストで生活すること」の二つになってくる。

これは男性を代表する意味でいっているのではなく、ほんとうにそうなのだ。

・生活戦略とは何か

「おひとりさま」希望者の増加により、結婚のハードルはあがっている。しかも、希望年収どおりの異性もいない。苦しい生活を前提で人生設計を組み直す必要がある。

さらに悪しき経済状況としては、正社員の給料も下がっていることと、不動産の価格も下がり続けていることがあげられるだろう。1955年から1990年を見てみると、不動産は一貫して上がり続けていた。こうなれば、戦後日本人が土地を買い求め、借入金比率をあげていったことも理解できる。マイホームと郵便貯金。バブル期の郵便貯金は年利が6%以上であり、10年預けておけば誰でも貯金額を倍にできた。

いまでは、不動産は一貫して下がり続け、バブル期に3万円を突破した日経平均は8千円台となり、預貯金の年利は0.1%すら割っている。

しかし、これらは憂うべき事態かもしれないが、けっして絶望する必要もない。マクロは変えることができない。ただし、ミクロを変えることはできる。

おそらく、冷たい事実だけを述べれば、

・住宅は買わず賃貸とする(子供がいる家庭はなおさら)
・給料の25%を貯金する
・お金は、現金の預貯金か国債などの安全資産のみとする
・生命保険には入らず、子供が成人まで不安であれば掛け捨ての共済保険に加入する

ことになるだろう。もちろん、結婚までに考えることは多い。ただし、もっと必要なのは結婚してからの生活戦略なのである。

ところで、三流のファイナンシャルプランナーの言うことを聞かず、ちゃんと自分で計算すれば(エクセルでできる)、「子供の教育費・養育費」は「マンション一軒分」と等しいことがわかる。つまり、年収の平凡な家庭における選択は、「子供か家か」となる。私は賃貸を勧めているけれど、それでも一軒家がほしい人は、子供を諦めることになるだろう。

しかし、日本の常識は、「子供が生まれたら、一軒家を買う」ことになっている。そして、多くの人がそれを実践している。その結果、多くの家庭が債務超過に陥っている。借金した金額と現在の資産価値を比べて、資産価値が優っている家庭などどれくらいあるだろうか。買った瞬間に家と不動産の価値は下がり、貯金を切り崩し、子供を育てている。

私は各人の趣味やロマン(家を持つことは、ある種の人たちにとってロマンそのものだ)を否定するつもりはない。しかし、低所得時代の生活戦略はあるはずであり、一度、計算することを勧めたい。

おそらく、この関係の計算表でもっとも信頼できるのは橘玲さんのものだと思う。橘さんはFPではないため、生保等とのつながりもない(ちなみに、保険会社やFPの提示する人生設計シートは無理がたくさんある)。それは、ここからダウンロードいただける。

私はだいぶ前にこの計算表で自分の人生のコストを試算し愕然としたことがある。これほど人生がコストにまみれたものだとは知らなかった。しかし、人生の戦略とは冷静に数字を見つめることと、周囲に流されず淡々と考えることからはじまるのだ。

繰り返すけれど、結婚までに考えることは多い。ただし、もっと必要なのは結婚してからの生活戦略なのである。

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