シングルソースサプライヤに対処する方法(牧野直哉)

前回シングルソースを次の3つに定義しました。ここからしか買えない!状況で、調達・購買部門に深刻な問題をおよぼす可能性が高い事態を想定しました。

・将来にも今と同じ状況が続く見通しがあること
・一回限りではなく、継続的な購入機会があること
・マーケットに存在するサプライヤ基準ではなく、自社の購入可否が基準であること

こういった状況下において、それでは調達・購買部門にどのような問題が生まれるのでしょうか。少し細かく問題点を分析します。読者の皆さんの中には、問題点は良いから、早く解決策を教えてくれ!といったお気持ちになられている方もおられるでしょう。シングルソースサプライヤの存在によって、苦しい立場に置かれたバイヤーは、一刻も早く事態を打開したい、そう感じているはずです。しかし、私が知る限りのシングルソースサプライヤにまつわる問題とその本当の原因は、多岐に亘ります。そして、いくつもの要素が複合的に原因となっている場合もあります。シングルソースサプライヤは、購入できるサプライヤが1社しかいない状態です。しかし、そういった状況に至り、かつ調達・購買部門が困った問題に直面するのは、サプライヤ側の対応と、調達・購買部門の対応が合わさっているからこそです。そして、複雑な問題を解決するには、複雑な問題を単純な問題へと置き換える作業が不可欠です。

1.シングルソースサプライヤによって生じる問題の本質を理解する

ここでは、まず自社のシングルソースサプライヤにまつわる問題を、解決へと導く手段を見いだすために、具体的にどのように困っているのか、将来的にどんな問題が生じる可能性があるのかを考えます。喫緊の仮題としてシングルソースサプライヤに困っているバイヤーの皆さんも、置かれた状況を一言「シングルソースサプライヤ」だからと片付けないでください。多くの場合、シングルソースサプライヤへの対応を誤った結果で、現在の悩ましい対応がある可能性も高いのです。

(1)日常時の問題

ふだんの購入時に生じる問題は、価格に代表される購入条件決定に際して、自社の希望がサプライヤに受け入れられない点が挙げられます。ここで、複数のサプライヤから購入できれば、競合によってより良い条件をサプライヤから引きだせるのに、と短絡的に考えていませんか。シングルソースサプライヤの悩ましい問題の中には、複数のサプライヤが市場に存在するにもかかわらず、購入先以外のサプライヤから見積書が提出されず、結果的に購入できないケースもあります。したがってシングルソースサプライヤの問題を考える場合には、そうなってしまった要因を、サプライヤの問題と、自社(バイヤー企業)の問題に分けて考えなければ、正しい分析にはならないのです。

シングルソースサプライヤとなってしまう自社(バイヤー企業)に起因する問題。これは、調達・購買部門が基点ではないと言いきっていいでしょう。購入要求部門の指示する機能や仕様が、特定のサプライヤの製品に結び付いてしまっているケースがほとんどです。iPhoneが欲しい!ではなくて、携帯電話が、あるいはスマートフォンが欲しいと言ってくれれば、購入製品の候補は多くなるにもかかわらず、なぜiPhoneなのか。この部分は、既に調達・購買部門のバイヤーも理解しているかもしれませんが、今一度改めて購入要求部門に確認します。シングルソースサプライヤからしか買えない購入品は、何らかの特殊性があります。その特殊性の採用せざるを得ない基点の確認です。できれば、この確認に際して、代替品の提案も合わせておこないます。何らかの特殊な部分を除去すれば、自社(バイヤー企業)に有利な購買が実現する証(あか)しを示すのです。代替案がない場合は、唯一無二のサプライヤです。購入要求の観点で代替案の有無は、対応策を検討する場合に重要なキーポイントとなります。この記事の連載の中で明らかにします。

違った観点でシングルソースサプライヤに至る原因を考えます。購入要求部門による特殊性によってメリットを受けるのは、サプライヤ以外にいるのかどうか。自社(バイヤー企業)の顧客なのか、社内関連部門なのか。シングルソースサプライヤを問題視している調達・購買部門ではないはずです。顧客要求を実現させるためには、採用しなければならない特殊性なのか、それとも社内の都合によって採用しなければならないのか。もし、具体的なサプライヤ名や、製品の型式の指定を顧客から受ける場合は、これは営業的な問題です。すぐには改善できない問題かもしれません。しかし、調達・購買部門へ購入を指示するのと同時に、顧客にも要求内容への代替提案をおこなって、特殊性排除の取り組みをおこないます。社内都合の場合は、もし代替品を採用すると、購入要求部門かその他の関連部門で何らかの不都合が生まれるはずです。調達・購買部門の不都合と、他部門の不都合を数値化(コスト化)して、どのように対処するかを見極めます。

(2)非常時の問題

非常時の問題は、東日本大震災やタイの洪水、4月の熊本地震といった天災や、先日もトヨタ系部品メーカーで発生した事故によって、シングルソースサプライヤからの供給が滞るといった問題です。この問題に対処するために、シングルソースサプライヤ状態を打破して、複数のサプライヤとの取引を実現させるといった解決策をお考えのバイヤーも多いと思います。しかし、非常時に発生する問題への解決策として、複数サプライヤからの購入を目指すのは抜本的な解決策にはなりません。4月末に公開して大反響を得た「知らないと生産が崩壊する!サプライチェーン震災からの教訓(坂口孝則と牧野直哉)」をお持ちの方は、3ページ~4ページには、次の通り書かれています。

災直後の2011年9月「大震災のとき!企業の調達・購買部門はこう動いた—これからのほんとうのリスクヘッジ」を日刊工業新聞社から出版しました。お持ちの方は80ページを御覧ください。東日本大震災直後の調達・購買の現場で二社購買体制が機能しなかったと紹介されています。原因は二つありました。
一つ目は、直接購入するサプライヤは二社であっても、サプライヤが購入する原材料や部品のサプライヤが1社だったケース。その1社が被災して供給がストップしました。これは、自社の購入先を増やしても、その先のサプライヤが限定されれば、実質的な一社購買と変わらない現実を我々に突き付けました。日本の産業構造が、ピラミッド=下の階層ほど広いと思っていたらダイヤモンド=下の階層で狭くなっていたのです。結果、震災後に供給構造を明らかにするサプライヤのサプライヤ、更にその先のサプライヤといった調査が活発におこなわれました。
もう一つは、二社購買体制であったにもかかわらず、どちらのサプライヤからも供給再開が早期におこなわれなかったケースです。これは、一社購買だったサプライヤの方が早期に再開したとコメントした多くのバイヤーが語る理由から原因を類推しました。早期に供給が再開された一社購買のサプライヤには、長期的な購入と、良好な企業間関係、一社購買状態をサプライヤ側も認識、この2つがありました。大規模な災害の発生によって、良好な関係でかつ自社からしか購入していない顧客への供給優先度を高める判断をおこなったのです。二社購買体制といっても、それは平時に構築された体制であり、供給力が限定された状況は、優先度を高める要因にはならなかったのでした。
今回おこなわれたアンケートで、震災後に二社購買体制を強化したと回答されたバイヤーは、東日本大震災後の混乱で顕在化した現実を直視しなければなりません。一社購買から二社購買へと移行した場合、一社購買と同じ関係をサプライヤと構築するには、サプライヤに対して、時間的にもコスト的にも従来の倍の関与が必要になるはずです。二社購買体制へ移行しただけでは安心など絶対にできません。二社購買体制は、災害による物理的な影響からは確かな回避策です。しかし、直面した事態で、どの顧客を優先するかを決めるのはサプライヤで働く人の意志です。この意志決定を自社に有利におこなわせて初めて、有事における二社購買は有効に機能する。これは東日本大震災後の混乱から、日本の調達・購買部門が学んだ一つのセオリーです。

シングルソースサプライヤによって非常時に発生する問題に対処する方法は、まず原因を①天災②事故の2つに分類して考える必要があります。具体的な対処方法は、1)生産を止めない 2)迅速な復旧の、これまた二つに分類されます。もっとも簡単で分かりやすい対処法は在庫の確保です。しかしこれまでに述べた想定が顕在化した最近の事例でも、工場の稼働を停止する結果になり、在庫を持つ解決策を採用していません。在庫のデメリットにフォーカスした結果です。

<つづく>

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