「持続可能な調達」を最低限正しく理解する 5 (牧野直哉)
今週も、H&Mとキャップが製品を生産しているアジアの工場における性的虐待の問題が、海外メディアによって日本語で報道されていました。では、日本のマスコミは無視しているのかと言えば、少し風向きの変化を感じています。
最近自動車メーカーにおける運用の問題が指摘されている「外国人技能実習制度」です。この制度にまつわる問題としては、事態の深刻で2つの問題の「程度」が存在します。
1つ目の問題は、最近自動車メーカーでも明るみに出たが「実習内容とは異なる仕事の現場で働かせていた」です。企業の現場では、需要や環境、従業員の出勤状況の変化によって、労働力では不足する職場は一定しません。今日、労働力が不足していた職場が、明日も同じように不足するのではなく、需要動向や生産の進捗状況によって、日々労働力不足が顕在化する職場が違っているのが、現場で起こっている問題です。
そういった問題に対応するためには、フレキシブルに汎用性のある労働力を確保する、あるいは従業員を多能工化して、稼働率の高低に合わせて異なる職場でも対応できる体制を整えるのが理想です。しかし、現在はそもそも労働力の絶対数が不足している職場が多くなっています。そういった労働力の絶対数不足による影響を少しでも和らげる効果を狙った制度が「技能実習制度」です。そして、技能実習制度は「技能実習制度 運用要領(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/0000211267.pdf )」の第1章で次の通り規定されています。
第1章 技能実習制度の趣旨
技能実習制度は、我が国で開発され培われた技能、技術又は知識の開発途上国
等への移転を図り、その開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的とする制度であり、これまでは「出入国管理及び難民認定法」(昭和 26 年政令第319 号。以下「入管法」という。)とその省令を根拠法令として実施されてきました。今般、技能実習制度の見直しに伴い、新たに技能実習法とその関連法令が制定され、これまで入管法令で規定されていた多くの部分が、この技能実習法令で規定されることになりました。
ただし、制度の趣旨はこれまでと変わりがなく、その趣旨をより徹底するために、基本理念として「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」(法第3条第2項)と明記されています。
制度の建前としては、日本国内の労働力不足に資する前に、日本で開発され培われた技能、技術または知識の開発途上国等の移転」がうたわれています。制度では、「人手不足の解消のために技能実習制度を活用する」といった勧誘・紹介を、制度の趣旨に合わないとして規制しています。従って、あくまでも日本の技能や技術、ノウハウの開発途上国への移転が目的です。
そして「研修制度」ですから、事前に実習実施者に「技能実習計画の審査・認定」といったプロセスが存在します。必要な時に必要な職場で便利に活用できる人材ではありません。今回自動車メーカーで明るみに出た問題は、あらかじめ提出され、審査を経て認定された「技能実習計画」に含まれていない職場で働かせていたのが問題化したのです。
2つ目の問題は、テレビ東京で放送されている「ガイアの夜明け」で何度も特集されている問題です。このページ(http://search2.tv-tokyo.co.jp/pc/?enc=UTF-8&q=%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E6%8A%80%E8%83%BD%E5%AE%9F%E7%BF%92%E5%88%B6%E5%BA%A6 )を参照すると「絶望職場」といった言葉が目に入ります。そして技能実習制度を活用して来日した外国人が年間5,000人失踪している事実を伝えています。1つ目の問題が、制度の運用に違反した職場で働かせているのに対して、2つ目の問題、ガイアの夜明けで特集されているような実態は、まさに人身売買の結果で行われた強制労働に該当するケースです。
VICE Media(https://jp.vice.com/)をご存知でしょうか。「若者のBBC」といわれるように、最大の特徴は若者カルチャーに特化した切り口です。現在では、国際問題や社会問題、音楽、フード、スポーツ、カルチャーなど世界中のニュースをウェブやテレビで配信する複合メディア企業に姿を変えています。このメディアで日本の外国人技能実習制度が取り上げられました。題名は「The Worst Internship Ever: Japan’s Labor Pains(https://www.youtube.com/watch?v=wt__lHCuH5g&feature=youtu.be )」です。
もちろん、外国人研修制度を活用して、本来の目的に合致した活動を行っている企業や管理団体も存在するでしょう。しかし「ガイアの夜明け」で登場するような悪質な企業も存在します。そして、テレビに登場するような規模の小さな会社ばかりではなく、2015年には外国の通信社であるロイターが次のようなリポートを発表しました。
〔スペシャルリポート〕「スバル」快走の陰で軽視される外国人労働者
https://jp.reuters.com/article/idJPL3N1082T220150728
これまでにお伝えしたような報道をご紹介するまでもなく、我々の日常生活はすでに、日本国内における外国人労働者の存在なしには立ち行かなくなっています。少し注意して周囲を見渡せばご理解いただけるはずです。昨日、私が立ち寄った東京都内のコンビニエンスストアや居酒屋では、外国人の店員が働いていました。同じように皆さんが注文書を発行しているサプライヤーが、外国人を活用している可能性はかなり高いと認識すべき状況にあるのです。
今回ご紹介した海外メディア以外で、こういった日本企業にとって不都合な事実を伝えている日本メディアは、今のところテレビ東京、東洋経済新報といった一部に過ぎません。しかし段々と国内の大手新聞社やテレビ局で批判的に扱われるその日が近づいているのではないかと感じています。例えば先ほどご紹介したVICE Mediaのような、従来のマスコミとは異なる方法で報道される場合や、海外のメディアが東京オリンピックや、ラグビーのワールドカップ開催に合わせて、日本のダークサイドとして報道する可能性は高まっているのです。
こういった現実に対して、調達・購買部門の対応は、サプライヤー管理を通じて実践します。サプライヤーが外国人労働者をルールに沿って雇用し、ルールに沿った待遇を提供しているかどうかを確認するのです。次回、具体的な確認方法について述べたいと思います。
(つづく)