【連載】調達・購買の教科書~インフラ、非大量生産系(坂口孝則)

今回の連載は色塗りの箇所です。

<1.基礎>
売上高、工事原価、総利益(粗利益)
資材業務の役割
建設業法の基礎
技術者制度
下請契約の締結

<2.コスト分析>
調達・委託品分類とABC分析
取引先支出分析
注文件数とコスト削減寄与度分析
労務単価試算、適正経費試算
発注履歴使用の仕組みづくり

<3.コスト削減>
取引先検索、取引先調査
コスト削減施策
価格交渉
市中価格比較
VEの進め方

<4.取引先管理>
ベンダーリストの作成
施工品質評価、施工納期評価(取引先評価)、取引先利益率評価
優良表彰制度
協力会社の囲い込み、経営アンケートの作成
協力会社への上限設定

<5.仕組み・組織体制>
予算基準の明確化、コスト削減基準の設定
現業部門との連携
集中購買
業務時間分析
業務過多の調整

・コスト削減施策

コスト削減の施策は、大きく四つにわけられます。

  • 技術的手法:文字通り、技術的に安価になるように作ることです。工事の場合はなかなか難しいかもしれませんが、部材の場合は、特殊なものを使うのではなく標準品を活用したり、材料のレベルを下げたりします。品質が確保される前提で部材の種類を共用化することも入ります。

  • 取引先変更:新しく調達するものについては、競合見積書を入手し最安価な取引先から調達するものです。継続調達品については、現場の意見を聞きながら、安価な取引先の切り替えを模索することです。また、類似品を多く調達している場合は、ある特定の取引先にまとめることも大きな交渉材料となるでしょう。さらに、これまで事実上の特命発注を行っているケースが少なくないのだとしたら、それを緩め競争案件に変更することでコストの低減を図ります。

  • 商業的手法:技術・仕様が変らず、さらに取引先が変わらなかったとしても、価格交渉等で価格を下げることです。あるいは、過去の調達単価と比較することによって、価格を引き下げることができるかもしれません。あるいは支払い条件を変更し早期に対価を払うことによって、その分のメリットを価格で享受できるかもしれません。または納入場所を統一、または、納入単位をまとめることで、取引先の効率を上げ、コスト低減を図ります。また、コストテーブルなどを活用し、原価積算によって見積価格を適正化する方法もあります。

  • 数量の見直し:数量の適正化です。とはいえ、不要なものを調達しているケースはほとんどありません。ただ、特定の数量やロット条件で調達している場合は、その条件を緩和することで、支出金額全体の低減を図ることができます。

・調達・購買部門の上流関与

なお現地調達部門の、工事や部材仕様への関わり方を「ゼロルック」「ファーストルック」「セカンドルック」と分けられます。

調達品の企画段階から関わっていくことを「ゼロルック」と呼びます。すなわち、一度も見たことがない状態から調達・購買部門が積極的に関わることです。そして「ファーストルック」は、調達仕様を書くタイミングから関わることです。さらに、「セカンドルック」とは調達品が決まりさらに、生産工程や工事工法なども決まった後から、調達・購買部門が関わることです。

言うまでもなく、企画段階でコストの8割が決まってしまいますから、「ゼロルック」でいかに関わるかが調達の腕の見せ所となります。

このゼロルックの段階で関わることは、製造業でいえば「開発購買」と呼びます。あるいは、業界を問わず「上流購買」「上流調達」とも呼ばれます。皮肉なことながら、これらの重要性は調達部門からしか聞こえてきません。皮肉とは、調達・購買部門以外は、この必要性を感じていないためです。

製品技術やで開発内容、あるいは工事内容やエンジニアリング仕様……。これらに精通していない調達・購買部門が上流に入ってきても、何もできないだろうというわけです。上流調達的なことはすでに現場でやっています。調達部門の力が必要なケースはなかなかありません。

よって、やはり上流調達を実現しようと思えば、まずは技術的な学習が必要です。近道はありません。そのためには高専レベルの教科書で学んでもいいでしょうし、あるいはひたすら取引先の現場に入り込んでいって技術的な摂取を重ねることも重要でしょう。

・現場部門との物理的接触

それに加えて、私が強調したいのが、現場との物理的な近さです。これまで私が見た組織の中で、上流調達がうまくいっているところは、例外なく現場と調達部門の仲が良い状態にあります。

考えてみれば当たり前で、現場と調達部門の仲が悪い状態で上流購買が実現するはずはありません。相談できるような雰囲気でないのに、いかにして技術と調達の融和が図られるでしょうか。

仲を良くするためにはどのような施策が可能でしょうか。残念ながら、絶対的な回答はありません。しかしながらここでは三つの方法を挙げておきたいと思います。

一つ目は、定期的なミーティングです。古臭い考えではありますが、やはり対面する方が良いでしょう。そこで、これからの案件、困りごと、コスト的に苦しい、などといった話をざっくばらんに意見交換するのです。それによって。お互いのメンバーの本音や人間性がわかりますし、気軽に相談できる土壌づくりが可能となります。上司が開催するのを待ってはいけません。担当者のあなたが旗振りをして場をセッティングしましょう。

二つ目は、働く場所を物理的に近くすることです。ある企業の調達部長と話していると、以前は、上流調達などという言葉を使わないまでも、お互いが相談をしながら案件を進めていたようです。ただ、組織が大きくなって別々のフロアで働き始めてから、その活発な相談は行われなくなったようです。この事実は示唆的ですね。そこでその企業は、特に若手を、現場の部門に机を間借りし、コピーから雑用を引き受けたようです。そうすると、現場の担当者が何を重要視しているかがわかりますし、何よりも人間的な密接性も高まります。調達・購買部門と、現場を、擬似的な同一部門のようにして、融合させたわけです。

三つ目は「調達月報」の発行です。調達月報とは、調達部門が毎月コスト削減や取引先の様子などをまとめたものです。PDFで構いませんのでメールで送付してください。コストをかける必要はありません。他の現場部門でどんなことをやっているか、違う現場の部門に伝達することもできます。部門が違うと、同じ技術職であっても、なかなか情報交換をしていないものです。調達部門がそれを介在する価値は高いと言えます。

・交渉の前に~要求項目ヒアリング

次に価格交渉の手法に移りたいところですが、重要なのは、その以前に社内関係者に要件をヒアリングすることです。要件とは価格交渉に臨むにあたって、どこを死守せねばならず、そしてどこだったら譲歩できるか、その基準です。

工事仕様書や開発仕様書、あるいは図面を受け取っているから、それさえ見れば大丈夫だと言うかもしれません。ただし、それらに書かれたものは、あくまでも皮相的な要件です。現場の真なる要件を表現しているとは言えません。そこでいわゆる「ほんとうのところ、どうなの」とヒアリングする必要があるのです。
私はコンサルティングの現場で、次を口癖にしてくださいと言っています。

「XXではなく、○○でもなく、なぜ□□ですか?」

たとえば、現場から出てきた要件に、「部材を2月までに搬入すること」と記載があったとします。先ほどの口癖に当てはめれば、「1月ではなく、3月でもなく、なぜ2月に搬入する必要がありますか」となります。そうすると「現場での試験が3月第2週から始まるため、念のために2月までの搬入を依頼していた」などと、明らかになるかもしれません。それならば、取引先には、もちろん2月までに搬入いただきたいものの、どうしても難しい場合は、3月の第1週までに納品してくれればいいと譲歩案を導けます。

これはあくまでも搬入を例にしましたが、重要な項目に関しては、この口癖でヒアリングをしておくべきです。とはいえ、すべての案件でこういったヒアリングは時間的に難しいかもしれません。しかしながら、高額な案件であれば、ヒアリングする価値があるでしょう。

取引先にとっては、あなたは調達部門の代表ではなく、会社の代表です。会社全体としてどのような条件がギリギリなのか把握しておくべきだからです。

・価格交渉について

価格交渉では、「交渉準備シート」といったような細部を記載し、1枚の紙にまとめるようなやり方が推奨されています。しかし私は、あまり実現的ではないため、その方法はとりません。なぜならば1日に何件も価格交渉するのが当然でしょうから、いちいち「交渉準備シート」にまとめる時間があるはずがありません。

そこで、現実的には、最低でも次の2つを用意しておくことです。頭の中でも構いません。

一つ目は目標値
二つ目は譲歩案

この二つです。例えば価格交渉であれば、いくらにしたいのか。そして、どんなに譲歩したとしても、限界はいくらなのか。あなたは、社内関係者にじゅうぶんヒアリングした後に交渉に臨んでいるはずですから、後者の情報もはっきりと認識しているはずです。

ふたたび、例えば、搬入の期日を交渉していたとしましょう。その時にも希望は2月末だが、どんなに譲歩しても3月第1週目であることはわかっています。それが強い交渉につながります。

そして交渉行為として重要な二つを記しておきます。

一つ目は、躊躇せずに要求することです。自分の希望をなかなか明確に言えない日本人は多いものです。しかしこれは業務効率、そして相手への優しさとしても、自分が何を望んでいるか明確化すべきです。それを断られたり、あるいは条件をつけられたりとしても、それは仕事なので当然です。

二つ目は、相手の要求が難しければ明確に断ることです。少なからぬ人たちは、最初から無理だとわかっているのに、「一度会社に持ち帰って検討します」といいます。しかしながら、検討した結果、あるいはちゃんと検討さえしていないかもしれませんが、やはり難しいと相手に伝えることになります。ただ、その結論がわかっているのであれば、これも相手への優しさとして、早期段階から明確に断るべきです。そうしなければ、両者の時間が浪費してしまいます。

そして調達担当者としての交渉に臨む際の心構えを二つ書いておきましょう。

一つ目は、はっきりさせたくない内容ほど、はっきりさせることです。「こういうことでよろしいでしょうか?」あるいは、「これは合意でよろしいでしょうか?」。この二つのフレーズで、できるだけ確認してください。言いにくいことではあります。しかしながら、曖昧な空気のままやりすごすよりも、軋轢が生じようが、お互いの主張を明確化するほうが、はるかに実りある交渉となります。「具体的にはどうすればいいのでしょうか?」「具体的にこう理解しましたがよろしいでしょうか?」「具体的な期日はいつまででよろしいでしょうか?」……。はっきりさせることは、他者への優しさだと私は信じています。

二つ目は、自分の意見を取り消す勇気を持つことです。これは、その都度、意見を変えろというわけではありません。以前に発言してしまった内容であっても、現時点で真面目に考えると、間違っている場合はよくあります。状況も変わります。情報も変わります。以前、不確実な状態でいってしまった内容が間違えだったことなんてよくあるはずです。あるいは単純な勘違いだったのかもしれません。

しかし、意地悪な人間はいるもので、「坂口さん、その発言は、以前にいっていた内容と矛盾しますよ」と揚げ足を取る人がたくさんいます。そのような場合には、真摯に説明をし、昔いった内容は間違いであったと謝って、さっさと先に進んだほうがいいはずです。その方がはるかに良い結果を生みます。

昔の意見と矛盾がないように取り繕っていると、そこにさらに矛盾が生じ、不整合が生じ、つじつまが合わなくなってしまいます。人間は、過去と未来の継続性を信じるものですから、なかなか昔の自分が間違っていたとは認められません。ただし、そこはこだわるべきではありません。「昔は間違いだった。ただ、それがどうかしましたか。今の考えを基に議論を進めましょう」と、潔くいえることが、私は交渉人として大切なように感じるのです。

(つづく)

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