今どきのサプライヤー訪問を考える(牧野直哉)
私は比較的、サプライヤーに足しげく訪問していました。それは、サプライヤーを訪問する度に、能動的にサプライヤーの変化が体感できる何物にも代えがたい大きなメリットが存在するからでした。しかし近年では、調達・購買部門のバイヤーがサプライヤーを訪問するにも、いろいろな阻害要因が登場しています。例えば、こんなケースです。
①「ワンベスト」/費用対効果
「ワンベスト」は、さまざまな意味で使用される言葉です。「A41枚」で書類を作成する場合にも「ワンベスト」は使用できます。バイヤーが使用する、あるいは他人から言われる場合は「出張(サプライヤー訪問)に1人で行くのがベストである」といった意味合いで使用されます。
2人やそれ以上で出張すれば、目に見える経費や、目に見えなくても人件費を費やしています。目に見える/見えない双方を含めて、総発生費用対比で効果の確保必要です。
②オフィスでの仕事が忙しい
バイヤー都合としては、こういった実態が、サプライヤー訪問から足が遠のく原因ではないでしょうか。特に現在は、サプライヤーの能力確保や短納期対応が激しくなり、1日オフィスを不在にしただけでさまざまな仕事が山積してしまうバイヤーも多いでしょう。
しかし、だからといってサプライヤーの状況を適切に掌握する必要性が減るわけではありません。また、納期調整といった格好のネタがあるともいえます。今では、社外でもスマホでメールの確認が可能で、電話の転送設定によって、オフィスに居なくても、ある程度の業務が可能であるはずです。そういった環境を駆使して時間の創出を行ってサプライヤーを訪問してください。
③あまり外に出たくない
私の知るバイヤーでも、こういった考え方をもっていると感じる方は少なくありません。確かに、調達・購買部門のバイヤーは、サプライヤーの営業パーソンが出向いてくれます。サプライヤーの来訪に対応するだけでもバイヤーの業務はこなせます。
しかし、来訪するサプライヤーの営業パーソンは、基本的にバイヤーに聞き心地の良い話しかしません。もしくは、問題が顕在化した場合です。問題の火種を積極的にバイヤーへと伝えるサプライヤーの営業パーソンは極めて貴重な存在です。したがって、バイヤーは定期的にサプライヤーの営業パーソン以外とコミュニケーションの機会を設けて、サプライヤーの実態を掌握する必要があるのです。
1.バイヤーが工場訪問をする意味
こういった阻害要因が山積する中でも、時間を捻出してバイヤーがサプライヤーを訪問するのは確実に意義があります。
(1)サプライヤーを評価する
まず、サプライヤーの取引の状況によって、発注するに足るサプライヤーかどうかをバイヤー自身の目で確認できます。これは、何にも代えがたいサプライヤー訪問の根拠であり、サプライヤーに対しては「表敬」として訪問目的を伝えても、サプライヤーの最新状況を確認は、必ず行わなければなりません。
評価には、次のツールが必要です。
①サプライヤー評価基準
どのようなサプライヤーを求めるのかをバイヤー企業として明確に設定した「評価基準」が欠かせません。サプライヤーマネジメントでお伝えしていますが、今お持ちの評価基準で良いのです。もし評価基準をお持ちでない場合は、次の三つのポイントだけでも、事前に調査します。
1)納期順守率(D:納期の評価)
バイヤー企業の要求納期に対する順守率です。要求納期通り納入していれば100%です。
2)良品率(不良率)/クレーム発生率(Q:品質の評価)
どちらの数値でもかまいません。納入した部品/製品に問題なければ良品率は100%になるはずですし、不良率は0%になります。
3)コストダウン実績
できれば、過去3年までさかのぼって、コストダウン実施状況を掌握します。値上げにさいなまれていれば、この評価はマイナスになるケースもあります。
②前回のサプライヤー評価結果
この内容は、訪問結果の評価でも書類上の評価でも構いません。初回の訪問や、過去に取引した実績のない場合は、当然ながら無くてもやむを得ません。前回評価がある場合は、評価結果が良くても悪くても、今回訪問時の評価内容との変化した部分が重要です。改善していた場合は、改善活動について質問すれば良いし、できれば改善結果の数値を確認します。不良発生率が××%改善したとか、歩留まりが○○%改善したとかいった具合です。そしてサプライヤーの社内改善が、評価の変化に表れていないかどうかも合わせて確認します。
また、前回評価と対比すると悪化しているケースもあります。その場合は、まず理由や根拠の確認をおこないましょう。いきなり悪い評価を突きつけられるのは、誰も気持ちの良い話ではありません。まず、前回このような評価があるのですが、今回は少し違っていますね、と理由を質問しましょう。たとえ過去の評価者が自分であったとしても、当時と今と100%同じレベルで評価できているとは限りません。サプライヤー訪問時の評価は、問題ある部分をみつけて最終的に改善が必要です。指摘した後、スムーズに行動してもらうためにも、指摘するのではなく、サプライヤーの気づきを促す姿勢をもちましょう。
前回との対比で発生する変化の原因は、ほぼ「人」の変化に起因します。現場の担当者であれ、管理者であれ、人が変わればアウトプットも変わります。品質保証とは、品質を確立する取り組みと、確立した品質を維持する取り組みに大別されます。品質確立も重要ですが、確立した品質をどうやって維持するのか。この点がもっとも重要です。サプライヤーにとって、バイヤーの訪問は緊張感を生みます。しかし、バイヤーが受注できるわけではありません。もし、気になる点があれば、訪問後も「どうですか?」とフォローして、改善と品質維持の継続をうながします。なお、変化への着目は、次回おこないます。
③納入実績の状況
サプライヤー評価、QCDにまつわる内容だけではなく、納入アイテム数や金額について、過去3年分の推移について報告します。サプライヤーの納入実績と自社の購入額の推移を合わせ確認します。次の表をご覧ください。
赤と緑の2種類で表示しています。緑の場合も全く問題がないわけではありません。しかし、赤の場合はその理由をサプライヤーとバイヤー企業の双方で確認が必要です。
緑の場合は、バイヤー企業の発注額とサプライヤーの購入額の推移が、前年度対比や過去数年間同じトレンドを示している場合です。赤の場合は、バイヤー企業の発注額全体と、サプライヤーへの発注額のトレンドが異なっている場合を示しています。例えば、バイヤー企業の発注額が維持、または増加しているにも関わらず、サプライヤーの発注額が減少している場合は、その理由を確認します。バイヤー企業の主力商品と、サプライヤーの供給製品にミスマッチが発生していれば、将来的にバイヤー企業としてどうするのかを決めなければなりません。成り行きで良いと判断するのか、それとも何らかのてこ入れをおこなって、発注維持をおこなうのか。これは、サプライヤーの意向を合わせ確認します。こういった総発注額と、サプライヤーへの発注額のトレンドが異なっている場合、双方が認識の共有化を図っていれば、問題ありません。気づかないままに、トレンドが異なっている場合は、将来的に対象となったサプライヤーをどのように扱うのかが課題となって浮き彫りになるのです。
また。バイヤー企業の総発注額が維持、もしくは減少しているにもかかわらず、サプライヤーへの発注額が増加している場合も注意が必要です。サプライヤーへの発注額の増加が、サプライヤーの優位性に起因しているなら良いのです。バイヤー自身が「何でだろ?」と思ってしまうような場合は、優位性の有無を確認します。なぜこのサプライヤーに発注が増加しているのか、その理由を明確にして、従来とは異なる対処の必要性を明確にします。
(つづく)