サプライヤー戦略的関係構築論(牧野直哉)

第3回目の「サプライヤー戦略的関係構築論」。今回はサプライヤーの戦略的関係4つのタイプと、それぞれの関係の活用の方向性について述べたいと思います.

●サプライヤーとの戦略的関係 4つのタイプ

サプライヤーとの戦略的な関係は、次の4つに分類されます。

(1)完全な競争市場の優位性で決定
PCR~Pure Competitive Relationship

この状態は、単発、不定期及び限られた期間の購入で発生する関係です。また、複数のサプライヤーがマーケットに存在し、サプライヤー同士が競争している状態も必要です。「入札」でサプライヤーを決定すると考えるのが一番わかりやすいでしょう。したがって、提供されるモノやサービスも標準化が進み、基本的にはどこのサプライヤーから購入したとしても、その品質が同じである、あるいは極めて違いが少ない購入品でなければ実現できません。

実際のマーケットで、このようなサプライヤーが多く存在するケースは、極めて少ないでしょう。特に、生産される製品の直接材を購入する場合は、標準化された材料や部品以外実現が難しいでしょう。しかし、こういった考え方が適用できる購入品は、サプライヤー同士の競争実現を目指した環境設定の構築が、調達購買部門の最も重要な課題です。

(2)完全な競争市場で既存サプライヤー優先
CBIR~Competitively-Based Incumbent Relationship

このケースでは、PCRに加えて、取引の実績をベースにしたバイヤー企業とサプライヤーの信頼関係が必要です。しかし、この関係では引き続きすべてのサプライヤーと公平に取引をしつつ、取引を継続していくのか、あるいは取引関係を終了させるのかを見極める状態です。

この関係は、最も一般的なサプライヤーとの状態です。よりサプライヤーのリソースを広範囲かつ深く活用するためには、この段階でのサプライヤーのパフォーマンスの見極めが重要です。購入頻度やボリュームをアップさせたり、共同開発や納入・在庫面での提携を進めたりといった形で、さらなる関係強化を図るかどうかを決定します。

(3)特定のサプライヤー関係
PSR~Preferential Supplier Relationship

サプライヤーとの関係性構築を更に進めた状態が、このPSRです。この状態は「重要なサプライヤー」です。調達購買部門とサプライヤーの営業部門の関係だけではなく、設計・開発部門や、品質保証部門、製造部門やロジスティクスまでを含め、更に担当者レベルだけではなく管理者、経営者まで含めたあらゆる階層での関係性の構築が必要です。

どんな企業であっても、他社に開示できない情報を持っています。そういった情報についても、サプライヤーとの関係性構築に役立つ場合には、開示を検討する状態です。例えば、自社製品の開発の方向性や、新たな事業展開の計画など、戦略的な部分について、対象のサプライヤーと共有できないかどうかを検討します。

当然ながら、このような関係を構築するサプライヤーは、品質面や納入面での実績に問題があってはなりません。仮に問題が発生した場合、自社から見て最優先の対応がとられているかどうかがポイントになります。事業を進める上では、ときには問題も発生するでしょう。本来的には問題の発生をゼロにするのが望ましいのは言うまでもありません。しかし、発注領域やボリュームが拡大すれば、それだけ問題が発生する可能性も高くなります。したがって迅速かつ的確な事後対応が行われているかどうかが、この関係を維持するかどうかの重要な判断基準になります。

(4)ビジネス戦略の共有化
SBA~Strategic Business Alliance

サプライヤーとの戦略的な関係の最上位に位置するこのSBA。基本的な関係性はPSRで構築し、更に強固な関係性を必要とするサプライヤーに適応します。バイヤー企業の視点では、よりサプライヤーのもつリソースを自社に有利に活用する場合に必要となってくる関係性です。

この場合の大きな特徴は、バイヤー企業がサプライヤーの見積金額や、購入金額を問題にするのではなく、サプライヤーがどの程度の利益を上げているかに注目する必要があります。そのためには、サプライヤーのコスト構造を掌握した上で、サプライヤーの事業が持続的に継続、かつ発展できるだけの利益を管理する必要があります。サプライヤーにとって重要な顧客とは、売り上げと利益の確保が必要です。コストではなく、サプライヤーの利益をどのようにマネジメントしていくか、発注金額を決定していくかが課題になります。

さらに、この関係性の次のステップは、事業提携やサプライヤーの買収といった形で存在します。日本企業ではなかなか想定されない状況ですが、自社にとって重要性の高いサプライヤーのリソースは、突き詰めれば自社の中にあった方が事業運営には好都合です。もちろん、費用対効果や、サプライヤーを買収によって生じる、キャッシュフローの観点での十分な検討が不可欠です。そういった検討を行っても、メリットがある場合にはサプライヤーのリソースを自社に取り込むといった選択肢も検討します。

●戦略的関係活用法

ここまで、4つのサプライヤーと構築する戦略的関係の「状態」を見てきました。皆さんが実際に取引を行っているサプライヤーさんは、この4つの状態のどこに当てはまるでしょうか。ここで述べる戦略的関係の活用法とは、すべてのサプライヤーをSBAにする必要はありません。購入品の性格や頻度、ボリュームと、自社の事業の発展性によって、この4つの状態のサプライヤーを使い分けるといった取り組みが必要です。

過去10年間を見ても、多くの日本企業はコスト削減を最重要課題として、サプライヤーに要求してきました。私はこれを「短絡的コストダウン」と呼んでいます。しかし、サプライヤーからの購入品はコストだけではなく、品質や納期といった内容にも注目しなければなりません。結果的にコストも品質も納期も全て重要であるといった考え方に基づくと、こういったサプライヤーの分類は難しくなります。すべてのサプライヤーをSBAとして扱うのは、バイヤーのリソースの側面から不可能です。またすべてのサプライヤーをPCRとして扱うのも、すべての購入品が標準化されておらず、実質的には不可能です。

GE/BOEINGといったグローバルに展開する企業では、サプライヤーを明確に分けて、その状態に応じた対応を行い、リソースを投入しています。関与すべきサプライヤーには徹底的に関与し、関与が必要のないサプライヤーにはその都度対応するといったメリハリが利いているのです。1つあえて多くの日本企業が直面する課題を挙げるとすれば、極度のコストダウン要求の結果、重要であるはずのサプライヤーとの関係が薄くなっている傾向が見られます。したがって、自社の事業に貢献できるリソースを持つサプライヤーを選定し関係性の強化が、今後ビジネスの発展には必要なのです。

 
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皆さんが重要と認識しているサプライヤーを、果たしてこの4つのどの状態に該当するのかを確認してみましょう。こんな例です。


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上の図は、実際に私が実務の中で活用したサプライヤーの位置づけと、将来的な関係性構築を矢印で示しています。ピンクの矢印で競争環境強めようと言っているサプライヤーが4社、青の矢印で関係性を強化しようと思っているサプライヤーが2社あります。ピンクの矢印て示しているサプライヤーは、すでに競合できるサプライヤーが存在したり、新しいサプライヤーの開拓が比較的容易にできたりするため、より競争環境を強化しようと考えています。一方で、関係の強化を目指しているサプライヤーは、代替えサプライヤーの存在が極めて少ないケース、またこれまでに長い期間徹底的な競争を重ねてきたサプライヤーの合計2社を設定しています。

私の分析もそうでしたが、多くの企業で、CBIRかPSRに集中するはずです。CBIRかPSRの状態を一言で表せば「そこそこ」になります。確かに、使い勝手の良いサプライヤーかもしれませんが、グローバルでの競争が激化する中、調達購買部門にはサプライヤーのリソースを徹底活用する戦略や戦術が求められています。すべてのサプライヤーでなくても構いませんので、できるだけ手がかからないPCRや、積極的にリソースを投入するSBAのサプライヤーを設定して、より自社事業へ貢献する方策の検討が必要です。

ここまで、サプライヤーとの戦略的関係について述べてきました。サプライヤーとの関係は、どのサプライヤーでも公平に扱うレベルから、自社事業に必要なリソースを持つサプライヤーを不公平に扱うレベルへと発展させる必要があります。どんなサプライヤーでも同じように扱うのではなく、重要なサプライヤーには、相手に重要に思っていると認識させると同時に、ビジネスの結果を示して、将来的な展開へ役立てる必要があるのです。

 <おわり>

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