連載「調達・購買戦略入門」(坂口孝則)
連載の続きです。
・個別原価分析
原価の話で最も重要なのは「この製品は、おおむね何円くらいだろう」と調達担当者が理解できることです。というのも常に相見積もりを取らないと価格が分からなければ、業務に支障が出てしまうからです。
一言で原価といっても多様な分け方があります。
・材料費
・加工費(労務費)
・加工費(設備)
・輸送費
・電力費
・保管費
それらを100点とはいわなくても「概ね70点」ぐらいは、ぱっと計算できる必要があるのです。それは製品設計時点でコストを正しく見積もる利点があるばかりではありません。例えばコスト削減の活動などで、仕様を変更するアイデアが出てきたときに、それによっていくら下がるかが分かるようになるからです。
どんぶり勘定でも構いません。さきほど、さまざまな原価の分類をお話ししましたが、簡単にいうと、製品のコストは
「使っている材料」+「加工費」
を計算できれば、相当な部分は終わりです。後はそれに、サプライヤの粗利益率を加算すればいいからです。
では、材料費とは何でしょうか。言わずもがな、製品の材料のことです。ところで、皆さんに不思議に感じてもらいたいのですが、その材料はなぜ価値がつくのでしょうか。需要と供給によって価格が決まるのはみなさんご承知だと思います。しかし、元々は地下に埋まっているもののはずです。それが、何らかの価格がつくわけですが、その正体は人件費に他なりません。
つまり原材料を掘るので、その費用は労務費の塊にほかならないのです。この話をすると反論が聞こえてきそうです。例えば「人が掘るだけではない、機械を使うのだ」とか。それは、その通りです。したがって 加工費が存在します(設備などの加工費をここでは指しています)。
しかし、考えてみましょう。加工費とはいったい何でしょうか。前述のとおり、機械(設備)などです。設備を分解すると一つ一つの部品になります。部品をさらにもっと細かく考えていくと、その部品の材料と、加工した設備になります。これをずっと繰り返していくと、すべての原価の行き着く先は労務費であることがわかります。これはレトリックではありません。人間の経済活動の基礎は、ほぼすべてが労務費だとは驚くべきことではないでしょうか。
そこで、ここでは人間が動いたらどれくらいのコストになるのかをまず計算してみたいのです。 私が以前から申している計算式は作業車のコストを、1秒=1円で計算しましょうというものです。
1秒=1円
ここから下の二つの式が導かれます。
計算式1→1×60×60×7.5×22=594,000
計算式2→(290,000+60,000)×1.5×1.1=577,500
計算式1の説明をしましょう。まず1秒=1円なわけですから、60を2回掛け算することで、時間当たりいくらのコストになるかが求められます(3600円です)。加えて、1日7.5時間働き、さらに毎月22日稼働だとするとこの答えになるわけです。つまり、計算式1は月あたりの作業者一人コストです。
それに対して、計算式2は検算という位置付けです。まず実際の工場作業者の平均月給である29万円を元にします。そこに加えて6万円としている箇所は賞与のことです。製造業では、年間70万円ぐらいの賞与ですので、月当たりに計算するとさほど変な数字ではないでしょう。それに対して1.5倍を掛け算しているのは、「社会保障費」と「福利厚生費」と「退職準備金」を指します。労働者に払っている給料や賞与だけではなく、その他の費用がかかることは理解できると思います。もちろんこの読者の会社はもっと高いのかもしれませんが。
最後に、1.1倍をしています。工場の作業者は、サプライヤの決算書における製造原価の中の労務費に相当します。ただ直接原価に入るものであっても、実質的には直接作業ではなく、間接作業に従業なさっている方もいます。実際にモノを作るのではなく、例えば作業標準を書いたり、メンテナンスをしたり、といった人たちがいるわけです。例えば工場に100人いるとすると、92人が直接作業に従業しており、残り8名がその他の間接業務に従事していると考えられます。したがって残従業員の計算する必要があるわけです。説明をやや丁寧にすると、92人×1.1≒100人になるからです。
本当は、計算式1と計算式2の答えがイコールであれば美しいのですが、イコールにはなっていません。あくまでニアリーイコールです。しかしながら、二つの式を見ると、1秒=1円で考えたときと、実際の値を当てはめた時の計算式が、意外に近いことはお分かりいただけたでしょう。
これをベースに工場作業者の査定をすると面白いでしょう。ちなみに、私が以前関わっていた会社では、1秒=1円と1m=1円という二つの尺度を持っていらっしゃいました。工場で作業改善をするときに、1メートルの改善が可能であれば、1円のコスト改善と同じ意味であるというわけです。なぜならば1メートルを動くにも1秒ほどかかるだろうからです。
このあと、またざくっとした見積り力の話を続けます。
<つづく>