連載1・やる気のない社員の辞めさせ方~ほんとうは部下に仕事に立ち向かってもらうための(坂口孝則)

コンサルティングをやっているんですが、もっとも相談が多いのは、「部下が思い通りに働いてくれない」というものです。これは、いつの時代もそうかもしれません。というのも考えていただいてわかるとおり、コスト削減だとかサプライヤマネジメントなどはもちろん、悩みの一つとはいえ、やはり旧来からの問題としてみんなが抱いているのは、人間関係ではないでしょうか。

そして部下あるいは同僚が思い通りに働いてくれない問題が大きいと思われます。

しかし考えてみると面白い話で、その社員はあくまでも自由意志によって、その会社に面接を受けに来て、そして働きたいと言って、今その場にいるわけです。なので、その人が働きたくないのはやや論理矛盾のように感じます。もし理想の職場と違っていたらやめてもいいと思うのですが、なかなか辞めない。これが現実ではないでしょうか。生活もありますしね。

ところで、一部に誤解されているようですが、日本企業は社員を辞めさせることが難しいと言われているものの、不可能ではありません。例えば社員が窃盗したり、あるいは横領したり、という場合というのは一発解雇で問題のないケースが大半です。

ただし窃盗や横領といっても社内であれば一発解雇で問題ないものの、社外の場合というのは必ずしもその企業にとって悪影響を及ぼすとは限りませんから、解雇が難しいケースがあります。さらに矛盾するようですが、難しいのは、その社員の属性です。例えばあなたの会社が本屋だとしましょう。社員が他の本屋で万引きをしたとします。その場合は、社外とはいえども、同業者としてあなたの会社に影響を及ぼすのは明確ですので、その人の職業や立場によっては総合的に勘案し一発解雇でもOKの場合があります。

しかし実際はそのようなケースでクビにしたい場合というのはさほど多くなく、能力不足だとかあるいは協調性に欠けるとか、あるいは態度が悪いといったケースが多いはずです。私たちはマネージャー(あるいはこのような文章を読んでいるくらいですから、能力が高く将来の幹部候補である人たち)は、解雇というものを二つの側面から知っておかなければなりません。

1.手続きとしての正当性
2.その解雇そのものが第三者が見て客観的かつ合理的かつ社会的に正義にかなっているか

もうイマドキ、こんなマネージャーはいないと思いますが「お前もう二度と会社に来るな」とか「お前はクビだぞ」と言ったら、発言した人の方が危ういと思って間違いありません。なぜならば労働者というのは労働基準法や労働契約法で守られています。

会社の経営者からすると、労働者ばかりが守られている気分になるかもしれません。しかし実際、労働者が権利が厚く保護されている事実を前提に我々は接しなければいけません。

中小企業には労働組合がないから大企業に比べて有利だろうと思う人がいるかもしれません。しかしながら中小企業であっても合同労組といって、中小企業で労働組合のない人たちが加入できる組合もあります。そうするとその会社に対して団体交渉に応じなさい、という要求が届きます。

さらに中途半端な解雇宣告をしてしまうと、地位確認の訴えがやってきます。地位確認の訴えというのは何かというと、自分はまだ社員としてその会社に属しているか、と文字通り確認するわけです。そうすると例えば一年後にその地位確認の訴えによって、継続された身分が認められたとします。その場合にめんどくさいのはバックペイと言って、その期間の給料の未払い分をしっかりと払わなければいけないことです。さらに不当な解雇だと慰謝料も払わなければなりません。 

なんだかここまで、社員の人がなかなか辞めないから、いかにやめさせるべきかというお話ししてきました。しかしながら、実際にはその社員がやる気を見せてくれたり、あるいは前向きに改善に取り組んでくれたりした方がいいに決まっています。

大人になってしまうとなかなか人間というものは変わりません。しかし、それでも可能性がゼロではありません。ということでこの連載では基本的には社員に更生を依頼するものの、しかしながらどうしても難しい場合には、いかにその職場から去っていただくかを論じます。かつ合法的という点からお話ししていきたいと思います。

そこで重要なのは感情ではなく記録によって事実をしっかり伝える点です。日頃から上司やマネージャーは、不良社員に対して、しっかりとイエローカードを出しておかなければなりません。そのイエローカードの存在によってしっかりと状況を双方で把握することができます。

そのイエローカードとは何でしょうか。文字どおり、業務指示書や警告書などで、これは次回以降お話します。ただ、ここでは、それ以前に考えてもらいたいことがあります。何かというと、「ある社員の能力が不足している」「ある社員はレベルが低い」などという際に、なぜ、その「レベルが低い」「能力が不足している」事実を証明できるかです。定義が重要なのです。

その定義と比較すると、明らかに違っている場合は、確かにそのような言い方ができるでしょう。しかしながらそもそも、定義がない場合は、「能力が低い」などとは論理上言えないのです。したがって、まずは部員にたいする、KPIの整備が重要です。

<つづく>

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