連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)

*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。

<2032年②>

「2032年 インドは日本のGDPを超える」
すべてにポテンシャルがあり、かつ日本の友好国であるインドの成長

P・Politics(政治):日印間の経済協力が続く。
E・Economy(経済):インドは日本のGDPを抜き、さらにIT技術者などの排出国となる。また、スマホ機器類が浸透する。
S・Society(社会):中国も人口で抜き、巨大市場となる。ただインフラは脆弱なため整備が望まれる。
T・Technology(技術):インドをつなぐクラウドソーシングが発展し、言語差をこえてインド人材を活用できるようになる。

インドはGDPで日本を抜き、その人口増から世界経済のなかで中心となる。インドはスマホなどの普及率が低く、さまざまな商品でポテンシャルを有している。日系企業の進出は近年やっと進み始めたばかりだ。ただ、インドは日本と友好的な関係にあり、日本企業は有利といえる。とくにインフラ周りは、信頼性が求められるため、日本企業にとっても重要視すべき領域といえる。

・日本と中国を抜くインド

かつてゴールドマン・サックスは、2032年にインドのGDPが日本を抜くだろうと予想した。ここからは仮定の話にしかならないが、これから日本が年率1%の経済成長を遂げたとし、いっぽうで、インド経済が5%強の経済成長を実現すれば、たしかに2032年にはインド経済は日本を超えることになる。ドルベースで見ると、これまで2011年から2015年にかけて年平均5.2%の経済成長の実績があるから、それほど荒唐無稽ではないだろう。

2025~2030年ごろには、インドは中国の人口も抜くだろう。14億人を超え、さらに2050年ごろに向けて、17億人に近づこうとしている。


圧倒的な数だ。その事実だけでも、さまざまな市場ポテンシャルを感じる。たとえば、携帯電話加入者数で約10億人いる。そのなかでスマートフォンはまだ1億人ていどで、しかも格安現地メーカーのMicromax、LAVA、Karbonnなどだ。日本には馴染みがない。インドはプリペイド携帯が流行している。これは、銀行口座すら持てないひとに絶好のサービスだったからだ。ただ、スマホを使ったEC事業などはいくらでも余地がある。

・インド人という愉快なひとたち

私はかつて自動車メーカーの研究所で働いていた。そのときに聞いたインド開発者の優位性は、やはり先端の論文を英語で読める点にあった。その後、タイでインド人の技術者を雇用する経営者とも話したときに出たのは、英語論文を摂取できる優位性だった。現在では、翻訳のスピードも速くなったものの、小説や映画などもダイレクトに見られるのは強みといっていいかもしれない。

言語はきわめて多く、公用語だけで21あり、ヒンドゥー語を話す人口を累積しても、全体の40%にしかいたらない。だから、共通語として英語がある。ただ個人的には、ちょっとインド人の英語は日本で過大評価されている気がする。あれは、たぶん、聞き取れない。インド人の計算能力についても、そうだ。インド人は、二桁の掛け算を暗記しているという。しかし、実際のインド人にあったひとなら、それが都市伝説か、あるいは誇張であるとわかるだろう。たしかに十前半の掛け算を諳んじるひとはいるけれど、それも全員ではない。

ただ、英語も計算能力も、とにかく自分をアピールする。

それにしても、インド人はわかりやすい自慢をする。わかりやすい豪奢な着飾り、あるいは、自宅。成功者はこういうものだ、と喧伝する意味がある。ムケシュ・アンバニは27階の自宅を建築したことからも、それは明らかだ。

インド人とビジネスで触れ合ったひとはわかるとおり、どこか妥協を嫌うというより、自分の意見を曲げたら負けという人生観がこびりついている。私は、ビジネス相手というより、自社のインド拠点にいる社員と議論したのだが、「こんなに些細なことも譲らないのか」と呆れたものだ。もちろん、自己を主張する点では日本人が見習う点がある。しかし、私の実経験では、本質ではないところで時間を浪費しすぎだ、というイメージがある。

インド人のそのしつこさだが、笑ったのは「7回死んでも忘れません」という言葉だ。7回くらい生まれ変わっても、あなたへの恩を覚えています、の意味らしい。生まれ変わりをどれほど信じているか知らないものの、長いよ、と思った記憶がある。

・遠くて近い、近くて遠い国

インドに日本企業が進出していたかというと、さほど歴史が深くない。日系の進出企業数も2008年にたった438社だったところ、2016年には1305社と3倍に拡大している。逆にいえば、まだ1300社ていどだ。インドがIT技術者の多さで目立ってきたのは、ここ20年にすぎない。

以前、東アジアで日本の家電が売れなかったのは、現地のニーズを捉えていなかったからだ。たとえば、洗濯機には、泥だらけの野菜を洗う機能が必須だったが、日本家電メーカーの技術者にその発想すらなかった。日本の腕時計がムスリムにうけなかったのは、方位磁石がなく、礼拝の向きがわからなかったから、とされる。おなじく、インド向けの冷蔵庫には、鍵が必要だった。それは使用人が勝手に冷蔵庫をあけて食するのを禁じるためだ。

インドに進出する企業は、インドの文化などを理解したうえで、生半可な気持ちでは失敗する例が多い。成功事例を見ると、やはり真摯に取り組んでいる企業が多い。

たとえば私はスズキ自動車を尊敬している。同社がインドに進出したのは1982年のころだった。インド人をたんなる労働力と考えず、教育を施し、おたがいに成長するパートナーと考えた。諸外国では、出資比率が外資の場合、制限されるのが常だ。しかし、スズキは出資比率を1992年に40%から50%へ。そして、さらには54%、インド政府の株式売却をうけ、全面的な大株主として民営化が開始された。さらに雇用拡大をすすめ、同社は、インドで圧倒的なシェアをもつようになった。

このスズキが有名だが、ホンダのような同業者やパナソニックのような製造業者以外にも、若年人口の多さに注目したコクヨなどの文具メーカー、ユニ・チャームら生活用品メーカーも進出している。また、ヒンドゥー教は食の戒律が厳しいものの、ヤクルトはデリバリー事業を展開し奮闘している。

・インドのインフラ事業

ただ私が注目したいのは、やはりインフラ事業だ。インドの道路は日本の4倍ほどある。その長さは、米国に次いで世界2位だ。インドは自動車の登録台数が伸びており、前年比10%ていどの伸びだ。いっぽうで、道路は3~4%ていどしか伸びていない。

インドの場合、国道と高速道路の比率が全体の1.9%にしかないのにたいし、交通量は40%にいたっている。東南アジア共通ではあるものの、あの交通渋滞はひどい。現在も官民連携で整備を急ピッチで進めている。日本企業はインフラまわりのビジネスが展開できる。実際に日印経済協力の枠組みで、鉄道、運輸、道路など、さまざまなプロジェクトが進行している。戦略的に円借款額も増やしている。

また、インドでは2012年に国の大半が停電に陥る事件が有名だ。改善はされているものの、まだ農村部などでは中国と同様にまだ整備が完全でない。発電、送電、配電の分野のみならず、小型発電の領域でも日本の活躍余地がある。

・インド成長の裏で

それにしてもインドが成長し、先進国なみのエネルギー使用量になったらどうなるだろう。米国とカナダはエネルギー使用量が多いことで知られている。一度でも同国にいったひとなら気づいているに違いない。自家用車で通勤に片道1時間をかけ、ガソリンなどをがぶ飲みしている国民はなかなかいない。インドはその十分の一にすぎない。それがインドの経済成長に伴って縮まってしまえば、それは世界環境に大きな影響を及ぼす。

ここでも新興国と先進国でのギャップを埋めるのは大切だが、なかなか騅逝かない状況が見て取れる。ただ、ここでも省エネルギー技術などの需要は間違いない。日本はこれを好機ととらえるべきだろう。

・製造業だけではない、インド活用

私は現在、企業のサプライチェーンについてコンサルティングを請け負う機会が多い。BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)とは、いわゆる企業の業務プロセスの外注で、主要はコールセンターや事務処理などがある。

世界中のコールセンターはインドとフィリピンに集中している。それは、英語の対応ができる人材が揃っているからだ。私が笑ったのは、セックス電話といわれる、いわゆる猥褻な会話を楽しむ有料サービスも、インドに外注されている。

しかし、私がインド英語を過大評価しすぎだと書いたとおり、「outsourcing phone sex India」などと検索してもらえば、「アクセントがおかしくなかったか」とか欧米人たちの”真面目な”議論を確認できる(なお、このところ企業にヒアリングすると、Rの発音ゆえにコールセンター業務はフィリピンに移行しているらしい)。

とはいっても、人材がそうじて優秀なのは間違いない。現在、企業が外注を探す際、日本ではクラウドソーシングといわれるマッチングサービスが有名だ。しかし、それらはあくまで日本語圏で閉じている。実際にオンライン秘書サービスなど、日本人はなかなか言語の壁で活用できずにいる。英語圏に広げれば、一気にインド等の人材バンクにアクセスできる。

ただし、2032年までには自動翻訳サービスが一般的になっているはずだ。そうなると、インド人材の活用という点からも有利になるし、また、インドをハブにして中東に販売していくという戦略も容易になるだろう。

<つづく>

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