連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)
*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。
<2032年①>
「2032年 インドは日本のGDPを超える」
すべてにポテンシャルがあり、かつ日本の友好国であるインドの成長
P・Politics(政治):日印間の経済協力が続く。
E・Economy(経済):インドは日本のGDPを抜き、さらにIT技術者などの排出国となる。また、スマホ機器類が浸透する。
S・Society(社会):中国も人口で抜き、巨大市場となる。ただインフラは脆弱なため整備が望まれる。
T・Technology(技術):インドをつなぐクラウドソーシングが発展し、言語差をこえてインド人材を活用できるようになる。
インドはGDPで日本を抜き、その人口増から世界経済のなかで中心となる。インドはスマホなどの普及率が低く、さまざまな商品でポテンシャルを有している。日系企業の進出は近年やっと進み始めたばかりだ。ただ、インドは日本と友好的な関係にあり、日本企業は有利といえる。とくにインフラ周りは、信頼性が求められるため、日本企業にとっても重要視すべき領域といえる。
・月光仮面のおじさんとインド人
かつて月光仮面のリバイバルを幼い私が見ていたころ、白黒画像よりも、おじさんは正義の味方と語る奇妙さよりも、そのターバン姿に衝撃を受けた。そこから30年後。たまたま月光仮面の原作者が、名曲「おふくろさん」の作詞者である川内康範さんと知って、当時の文化人たちのマルチぶりに驚かされた。
さらに私が興味深かったのは、30年前に驚いたターバン姿は、イスラムのターバンに影響を受けていたことだった。他国に対抗するために、日本とアラブを結びつけて考えた、壮大な叙事詩が月光仮面だったというわけか。
また、氏はそのあと、『レインボーマン』の原作に携わっている。主人公と死ね死ね団の戦いを描いた歴史的この作品は、いま考えると示唆的である。主人公はレインボーマンになるために、インドの聖者から教えを受ける。アラブはやや遠くても、アジアの東西で、日本とインドの組み合わせはどうか。そのアジア構想を、あまりに早い1970年代前半に提示していたのだ。
とはいえ、インドはまだ、関係が近いようで遠いように思われる。ただ、ここから人口の面だけ見ても、インドが最重要な相手国になるのは間違いない。
・インドと日本人
インドはフィリピンとおなじく、無条件の親日国だ。このインドとの蜜月は崩してはならない。とくに、現在、東アジアからアフリカに抜ける航路が注目をあびているが、地理的にインド(あるいはスリランカ)は絶好の位置にある。インドはアフリカに人的なつながりも多い。
インドは日本とずっと友好関係にある。極東国際軍事裁判で、インド判事のラダ・ビノード・パール氏がA級戦犯は無罪と主張したのは有名だ。また、沢木耕太郎さんの『深夜特急』を例にひくまでもなく、旅行者の聖地となってきた。
1998年にはインドの核実験によって日印関係は芳しくなかった。ただ、2000年に当時の首相だった森喜朗さんがインドを訪れた。このとき結んだ「二一世紀における日印グローバル・パートナーシップ」に合意したのは大きかった。インド人材は、これをきっかけに交流を開始できたからだ。
2008年にそれは「戦略的グローバル・パートナーシップ」になり、2014年には「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」にまで昇華した。
安倍首相は2016年11月にモディ首相を連れて川崎重工を案内した。新幹線の工場を見せるためだ。よく日本の製造業は、「品質レベルが高すぎるのはよいが、高価すぎる」といった批判を浴びてきた。しかし新幹線のようなインフラは別だ。家電と違って、万が一の不具合が大事故につながる。その領域では、日本の高品質は、むしろ高評価を得ている。
実際にムンバイとアーメダバードを結ぶ500キロは、日本が新幹線で協力すると決まっている。この新幹線がうまくいけば、きっと他の路線も日本新幹線が他国を凌駕するだろう。さらに安倍首相はアベノミクスが有名だが、モディ首相もモディノミクス、という経済政策で国内に喧伝している。
・ビジネス環境の整うインド
インドは汚職がさかんだった。ソチオリンピックの際には、IOCから加盟資格の停止を命じられていたほどだ。中国でもそうだが、現在ではモディ首相が汚職を摘発するために尽力している。
たとえば、汚職で使われる裏金は、多くの場合、口座や帳簿に記載がない。そこでインドでは現在、ブラックマネーの摘発にも力を入れている。2016年12月、高額紙幣である、500ルピーと1000ルピーを、モディ首相が発表からわずか4時間後に使用不可能にした。これは銀行口座にない高額紙幣が闇金融に流れているからだ。タンス預金や、マネーロンダリングに使われるアングラマネーを消し去りたかったからだ。脱税の目的で自宅に有していたお金は銀行にもっていくわけにもいかない。国民も大混乱に陥ったが、お金の流れを可視化した功績は大きい。
2014年からモディ首相が先導し、メイク・イン・インディアのキャンペーンを開始している。これは世界から製造業拠点として企業を誘致するものだ。対応し、ソフトバンクの孫正義社長も多額のインド投資を約束した。同年には安倍晋三首相と、官民あわせて3.5兆円のインド投資を行うと発表している。
インドで有名なのはIIT(インド工科大学)で、多くのエンジニアを生んでいる。同時に、ビジネスパーソンというか経営者層はIIM(インド経営大学院大学)だ。人材レベルの高さは世界が知るところとなり、マイクロソフトのサトヤ・ナデラさんをはじめとして、インド育ちの米国大学卒業の人材がIT企業等で活躍している。
また、日本企業や欧米企業から見て、インドの良さは、インドが民主主義国家である点だろう。時の政権は、最大の民意を反映した政権である。これは中国共産党の一党支配とは、大きく違う点だ。カースト制は、いまだに事実上は残るものの、憲法・法律では認めていない。
とはいえ、いまだにカースト制は人びとに影響を与えている。カースト内部での結婚はいまだに当たり前だ。それに、名字を見るとインド人は、彼/彼女が、どのカーストに属していたかを知る。
カーストを抜けるためには、単純で、宗教からの脱出を意味する。イスラム教に改宗すれば、ヒンドゥー教とは無縁となる。あるいは、仏教という選択肢がある。以前の人間関係のしがらみで、攻撃を受ける機会もあるようだが、それでもなお、強烈な差別から離脱できる。
<つづく>