ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・25のスキルと知識がバイヤーを変える

引き続き今回も、「調達・購買担当者として必要な25の知識・スキル領域」を使ってお話したい。この25を制覇すれば、相当の知識・スキルを身につけたことと同義だろう。この連載では、下図の25領域を制覇すべく、一つずつ解説している。

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今回は連載の6回目だ。この6回目も「海外調達・輸入推進」に特化したい。それは、もっともニーズが高いことと、円高のいま各調達・購買部門にとって海外調達が必須だからだ。

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これから述べていくのは、「海外調達・輸入推進」のCである「輸入コスト構造把握」だ。

・輸入コストの構造

まず、製品を輸入するときにかかるコストをざっと列記してみた。次の図のようになるだろう。

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「製品工場出荷価格」とは、製品そのものの価格のことだ。そして、「輸出国内物流費」「輸出諸経費」「(IPOマージン)」と続く。いうまでもないけれど、「(IPOマージン)」とは、IPO(International Procurement、あるいはPurchasing Office)が仲介したときに発生する。IPOとは海外の購買拠点のことだから、彼らの口銭だ。

そして、「海上運賃」「保険費用」「関税」「通関費用」「消費税」「国内物流費」がかかり、やっと納品される。

これだけのコストがかかっている。私の経験では、30%ていど安かったとしても(物量によるが)日本まで運ぼうとするとペイしない。40~50%ていどは安価でないと海外調達のコストメリットが捻出できないことが多い。

さて、この輸入コストは、詳細を見てゆくと、どのようになっているのだろうか。多くの契約では、調達・購買担当者がかかわるのは、「海上運賃」より下のところだ。つまり海外サプライヤーに、輸出のための手続きまでをやってもらって、それ以降のコストを支払う。もちろん、これは契約形態によるので一概にはいえない。この契約形態については、次回以降を説明する。今回は、「海上運賃」以降の中身を見ていこう。

・「海上運賃」コストの構造

「海上運賃」の中身をさらに見ていくと、このようになっている。

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「Base Freight」「CAF」「BAF」「THC」だ。「Base Freight」は文字通り、ベースとなる海上運賃のことだ。海運同盟が規定している。海運同盟とは、事実上の運賃カルテルだ。簡単にいってしまえば、各社が倒産することのない価格を一方的に規定している。船舶会社が倒産することは国家的損害であるために、例外的にカルテルが認められていると思ってほしい。

この「Base Freight」に「CAF(=為替変動に関する加算)」「BAF(=燃料変動に関する加算)」「THC(=コンテナやターミナル諸経費加算)」が加わる。さらに、船舶会社によっては、これ以外の加算項目もあるのでヒアリングが必要だ。

このようなコスト構造を知らずに物流会社から見積を入手すると、中身を教えてくれず、何が高いのか安いのかわからない。バイヤーならば、上記に従い、見積の明細を入手するようにしよう。そうすれば、各会社のコストを比較できる。

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また、海外から荷物を運ぶとき、それを積載するコンテナに20ftと40ftがある。参考までにその長さを上図に書いておいた。最近はより小さな12ftコンテナの利用が進んでいる。自分が利用するコンテナサイズにしたがって、船舶会社や物流会社から見積りを入手することになる。

ただし、いずれにしても、「20ftと40ftを満杯にするほど輸入はしない」ことが多いだろう(大企業であればわからないが)。そんなときには、混載で運ぶことになる。文字通り、他のモノと一緒に送ってもらうわけだ。そのときには、ftあたり見積を入手する。

このftは「エフティ」あるいは「フレートトン」と呼ばれるもので、特殊な計算をすることになる。もし読者が船舶会社や物流会社から見積りを入手できるなら、次のようにまとめてもらおう。

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伏字はご容赦願いたい。そこで、見ていただきたいのは、「上海・東京」間と「大連・東京」間のft価格だ。それぞれ、$20と$17とある。これはどう使うのだろうか。

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特殊な計算と書いたものの、複雑ではない。このルールとは、「容量とft(Freight ton)の大きいほうが価格適用される」というものだ。これは、貨物の立方メートルの絶対値と、トン数(重さ)の絶対値の大きい方を使う。上図に例題を書いておいた。

15立方メートルで8トンの貨物だから、もちろん絶対値としては15が大きい。だから、15に、さきほどの価格表であった$20を掛け合わせる。すると、$300が計算できる。

(ちなみに、1t以下の貨物を運ぶとき(極端に小さなものを運ぶとき)には別途費用が発生するので注意が必要だ。)

航空貨物輸送の場合は、容積重量と実重量の大きい方を適用するが、容量重量は6000立方センチメートルを1Kgとして扱うことに注意してほしい。これも同じく航空貨物業者から見積を入手してコストを計算することができる。

複雑だろうか?

しかし、この計算方法がわかっていれば、概算でも物流コストを試算することができるだろう。

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・ややこしい関税の話

次に関税だ。関税について、「よくわからんが、特定の貨物を輸入するときに取られる税金のことだろう」と認識しているひとは多い。そのとおりだ。正確には「貨物が経済的境界(多くの場合は国家間)を通過するときに課せられる租税」となっている。

(なお、JETROの「 World Tariff」 http://www.jetro.go.jp から各国の関税率を調べることができる。活用してほしい。簡単な登録をすれば、すぐに利用できる。)

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しかし、関税をわかりにくくしているのは、課税される額が「バイヤーとサプライヤーの契約金額」ではないことだ。堅苦しい法律文面ではん「現実に支払われた又は支払われるべき価格」としている。

又は支払われるべき価格」? ここで単純に説明すると、サプライヤーとの売買価格がどうであっても、その製品のもつ価値で申告しなさい、ということになる。

たとえば、こういう例を考えよう(わかりやすくするために円で説明する)。バイヤーが100円の部品を無償支給して、海外サプライヤーに製品を生産してもらった。当然ながら、海外サプライヤーは無償支給分の部品は見積に加算せずに、バイヤーに製品価格を請求する。しかし、関税の基準となる額は、その100円も加算した額になるのだ。

だから、ややこしい法律文面では「材料、部品、工具、鋳型」などを加算するように求めている。製造業であれば、チェックポイントは次のとおりだ。

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例でとりあげたように、無償支給した部品がないかどうか。そして材料は? 工具、金型は? とチェックしていく。もちろん、それらがあったとすれば、加算して申告することになる。

多くの企業では通関業者に通関を依頼しているから、脱税にならないように、「現実に支払われた又は支払われるべき価格」を伝えねばならない。

ややこしいが、海外調達を実施する以上は避けられない。

そして最後に消費税を支払う。これで税金関係は終わりだ(内国消費税を支払う品目は限られているが、念のために下図をご覧いただきたい)。

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また、海外調達を進める過程において、途中で価格が上がってしまった場合には、必ず追加納付する必要があることを覚えておこう。

・と、ここまで書いてきたけれど

このように輸入にはコストがたくさんかかる。だから、これらの中身を把握しておくことが重要だ。

というのも、海外調達のときに、輸入コストについてはバイヤーの査定があまりに甘すぎるのだ。これは商社経由で輸入してもらうときも同じだろう。相手のいいなりになって、そのコストを査定しようともしない。なぜ100円のものを輸入したら140円になるのか。その40円の内訳は何か。それらの確認が放棄されているのだ。

ここまでコスト構造を書いてきたけれど、暴論をいえば、完全に理解していなくてもいい。一つひとつのコストを確認する「しつこさ」だけを持っていればいい。サプライヤーや商社から出された見積りを鵜呑みにして輸入可否を決めるのであれば、脳がない。なぜそのコストになるのか? もっと安価にならないか、サプライヤーや商社がコストを必要以上に加算しているだけではないか、と突き詰めていく姿勢こそ大切なのだ。

細部を理解しているかどうか。これが個々人の価値を高めることにもつながる。

次回もお楽しみに

 <つづく>

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