バイヤの「超」基本業務(牧野直哉)

前回お伝えした「超」基本業務。今回は「見積依頼」の3回目です。この記事では、読者の皆さんが日常的に、既に確立されたルーチンの中でおこなわれている業務=基礎的業務を、

1.より「確実化」する
2.より高度な業務を進めるための「足がかり」を確固な状態にする

の2点を目的にします。

前回までは、見積依頼に必要な各プロセスの実行内容をお伝えしました。今回からは、見積依頼の全体プロセスを俯瞰(ふかん)します。例えば、

・見積依頼と価格交渉の関連性
・見積依頼とサプライヤマネジメントの関連性

について述べます。また、話の途中で示される内容についても、深く言及します。それでは、次の見積依頼を構成する4つのプロセス(項目は5つ)をご覧ください。

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最初のプロセスが調達購買部門と、購入要求部門で異なった取り組みが必要なため、最初のプロセスは2つに分けて表記しています。まず、調達購買部門でおこなう「見積依頼候補サプライヤ選定」です。

(1)プロセスの定義:バイヤ企業の見積依頼に対応できるサプライヤの一次的見極め(選定)

(2)実行内容

①情報入手~入手すべき情報は次の通りです。
サプライヤ企業情報(社歴、従業員数、所在地、売上、主要顧客)
質的供給能力~リソースの種類と範囲
量的供給能力~生産/供給能力
品質マネジメントシステムの概要(ISO/AS/TS)
信用調査(支払い能力)
担当者情報(連絡先)

②供給可否の判断
上記①の情報によって、バイヤ企業の欲する製品やサービスが供給可能かどうかを判断します。重要な点は、上記赤字で示している質的、および量的な供給能力の確認です。量的な能力判断は、1)過去の自社および他社への納入実績 2)製造業であれば、持っている設備や売上規模によって判断できます。しかし、質的な能力を保持しているかどうかの判断は、特に新規サプライヤの場合は、慎重な確認が必要です。この部分は、見積依頼のプロセスで具体例を挙げて説明します。

確認の結果「供給可能」と判断した場合は、取り扱う製品の性質に応じて、機密保持契約(NDA:Non Disclosure Agreement)は最低限締結して、来るべき見積依頼に備えます。

ここで、果たして「見積依頼候補サプライヤ」は何社必要か、について考えてみます。これは、カテゴリ/製品/購入規模等、さまざまな要因にも左右されますが、私は「3社」と決めています。この3社には、次の4つの理由があります。

Ⅰ:選択肢が多すぎても迷ってしまう

「対応可能なサプライヤが多い」は、果たして好ましい状況でしょうか。もちろん、そういった標準化が進んだコモディティな購入品もあります。しかし、あまりに候補となるサプライヤが多い=選択肢が多くよりどりみどりを継続するのも問題です。毎回入札して最適サプライヤを毎回決定する、あるいはある程度サプライヤを絞り込む形で最適解を求めなければなりません。一般的に、選択肢が多すぎても、選んで決めるのは難しくなると言われています。もし、あなたが多くのサプライヤから売り込みを受けているのであれば「3社に絞り込むとしたら、どのサプライヤを採用するか」と考えてみてください。これは、注文先の絞り込み、集中化の効果を目的とします。あるいは、候補となるサプライヤが3社に満たない場合は、新しいサプライヤの開拓に挑戦してください。これは、発注の分散化による競争原理の活用を目的とします。

Ⅱ:調達購買部門/バイヤのリソースは限定される

実際にすべてのカテゴリで3社取りそろえるのは非常に困難です。全世界に目を向ければ、無数のサプライヤが存在します。しかし、そのすべてにバイヤとしてコンタクトできるかといえば、それは不可能です。ただ、バイヤが担当分野/カテゴリで「サプライヤが限られている」との認識は、調達環境としては好ましい状況ではありません。戦略的にサプライヤを絞り込むのは「あり」ですが、意図せずサプライヤが限られる状況は避けるべきです。供給ソースの少なさは、バイヤ企業よりもサプライヤに有利に働くためです。したがって、限られたサプライヤしか存在しない状況でも、同じように限られたバイヤリソースの中で「3社」というあるべき姿を設定し、目指す姿勢をバイヤとして持ち続けるのが重要と考えているのです。

Ⅲ:購入価格と品質/技術レベルが「トレードオフ」する現実
Ⅳ:3つの異なるキャラクターのサプライヤを準備する

この2つのポイントは、あわせて解説します。私は、品質や技術レベルと価格はトレードオフの関係にあると考えています。したがって、品質レベルや技術レベルはある程度、サプライヤから提示される価格で判断できると考えています。

私が理想的と考える「3つのサプライヤ」の構成は次の通りです。

◎チャンピオンサプライヤ

文字通り、QCDに代表されるサプライヤ評価項目で最高評価を得るサプライヤです。見積依頼をおこなう、あるいは購入要求に対応して注文書を発行する場合に、まず候補として頭に浮かぶサプライヤです。

○対抗サプライヤ

チャンピオンサプライヤの対応馬です。サプライヤ評価ではチャンピオンサプライヤに劣るものの、最低限の要求内容には応えてくれるサプライヤです。

「チャンピオン」と「対抗」のサプライヤは、競合関係とします。「競合」は、常に競い合って、より良い購入条件の獲得に機能します。したがって、両社の「棲み分け」化に陥る事態は避けます。避けるための具体的な手段として、次のユニークサプライヤを活用します。

△ユニークサプライヤ

この「ユニークサプライヤ」は、総合評価では他の2社に劣るものの、際立つ特徴を兼ね備えたサプライヤです。例えば、品質・納期といった面での管理レベルは低いけれども、ユニークな技術を持っているとか、技術開発力は劣るけれども、量産力向上に特化して価格が安いとかそういったサプライヤです。これは、バイヤ企業として、サプライヤに求めるリソースの種類をベースに設定します。

「チャンピオン」や「対抗」に位置づけられるサプライヤは、いうなれば優等生サプライヤです。しかし「ユニーク」サプライヤは、優等生ではなく、どこかに必ず問題点を抱えています。その問題点が、バイヤ企業からのアプローチによって軽減もしくは解消されるのであれば、もともともっているユニークさを最大活用すべきです。

前段で「品質や技術レベルと価格はトレードオフの関係にある」と述べました。上記でチャンピオンに位置づけられるサプライヤは、品質管理や技術や技術力向上にリソースを投下しているからこそ、そのレベルが高度に維持されています。そういったサプライヤも、もともとチャンピオンとしての管理レベルを持っていたわけではありません。顧客ニーズなのか、大きな不良により問題を発生したとか、そういった事例に苦しむ他社を見たのか、いずれにしてもなんらかのきっかけがあって、そのような高度な管理を実現させました。ユニークサプライヤは、そういった「きっかけ」に巡り合っていない若い企業か、もしくはそういったステレオタイプな優等生でなくても市場で生き残れた特徴を持つサプライヤかのどちらかです。そういった際だった特徴を持ったサプライヤを、必要な場面に応じて活用するのです。したがって、ユニークサプライヤは複数社となる可能性も高くなります。量産能力に長けた、あるいは技術開発に特化したといった特徴があるサプライヤを、発注先候補として確保します。新規案件には技術開発に特化したサプライヤを、チャンピオンあるいは対抗サプライヤにぶつけ、コスト削減活動を加速させたい場合は、量産能力に長けたサプライヤを活用するのです。ユニークサプライヤとは、次なるチャンピオンあるいは対抗サプライヤ候補でもあります。サプライヤに向上したい意思が確認できたら、バイヤ企業として支援して、競合環境の活性化に活用します。

(つづく)

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