ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
●6-10 サプライヤマネジメントの基礎 ~良好な関係の継続方法
バイヤ企業とサプライヤの意向(方針や戦略)が同じ方向性を持つ場合、両社の良好な関係が構築できる基礎的条件が整ったと理解します。今回はバイヤ企業にとって具体的なメリットを生む「良好な関係」を構築し、継続させる方法を学びます。
☆小さな信頼の積み重ね
基本的には、企業間関係も人間同士のそれと同じように「小さな信頼」の積み重ねが必要です。また、そういった取り組みがより明確に信頼関係の構築に繋がります。「小さな信頼」とは日常的におこなう「約束」が該当します。
企業間での売買では、QCD(品質の向上:Quality、低コストの実現:Cost performance、必要な時期に届ける:Delivery Date)をはじめとした様々な「約束」の積み重ねによって、最終的には「契約」が締結されます。契約書の記載事項以外でも、契約に至るまでの売買にかんする日常的なやり取りの中で、さまざまな約束が交わされます。電話します!メールします!といった連絡も、しっかり期日を守れているかどうか。
サプライヤが納期遅延を起こした場合、私はまず自社(バイヤ企業)側で、納期遅延に繋がるような行為がなかったかどうかをまず確認し、その上でサプライヤとの交渉・調整に臨みます。サプライヤに守らせる「納期」の到来以前に、バイヤ企業が「納期」を順守しているかどうかを確認するのです。購入仕様に関する連絡は、約束した期日までにおこなったか。調達リードタイムを確保したタイミングで注文書が発行できているかどうか。こういったバイヤ企業が先に守るべき約束を反故(ほご)していたら、サプライヤも約束=契約納期の順守が現実的に難しくなります。また納期遅延の遠因がバイヤ企業にあったとなれば、納期改善の取り組みにも大きな影響を与えます。納期改善に携わったサプライヤ側の担当者は、なんらかの「わだかまり」を抱えて対応するでしょう。こういった「わだかまり」は、バイヤ企業とサプライヤとの良好な関係の大きな阻害要因です。
良好な関係構築の第一歩は約束1つひとつの順守です。ときには守れない事態も想定されます。そんなときにも、事前に守れない事実を伝え、打開策を合わせて提示できるかどうかで、信頼関係が構築できるかどうかが決まります。両社の意向の方向性の一致が確認された場合、上位者同士の引き合わせ、結果構築される良好な関係も重要です。しかしバイヤと営業パーソンとの間、また関係する担当同士の良好な関係が基礎的な条件になるのです。
☆良好な関係で、何を実現するか
「良好な関係」とは、両社のただ漫然とした「安定」した関係ではありません。安定させるべきは、品質であり、納期であり、コストです。サプライヤとは良好な関係を構築しなければなりません。しかしサプライヤとの良好な関係の構築と維持が、バイヤ企業にとって最終目的ではありません。良好な関係を徹底的に活用して、QCDの維持と向上をおこない、自社の事業への貢献、具体的なメリットの獲得を実現します。
「サプライヤの営業パーソンとの面談は楽しく、穏やかな時間だ」
「QCDは、まぁソコソコやってくれている」
こんな状態は、安定を通り越して「安住」です。極論を言えば、サプライヤとの関係性は最悪で、営業パーソンの顔など見たくないけれども、QCDすべての面での貢献度は素晴らしいといったサプライヤであれば、関係性の構築は必要ないともいえます。ただし、得てしてサプライヤとの良好な関係は、QCDの日常的な評価や、突発的な事態にも、バイヤ企業にメリットある影響を及ぼします。重要な点は、過度にサプライヤにとって心地良い関係を作らず、良好な関係であったとしても適度な緊張感を保ち続ける姿勢です。
☆バイヤ企業とサプライヤの関係に不可欠なもの
両社の関係が有効であり続けるためには、適度な「緊張感」と「不安定」さが必要です。両社の関係の安定化を、双方にとって心地よい状態にしてしまうと、その関係の状態が「目的化」し守ろうとする動きが起こります。何か問題が起こっても、事を荒だてない。改善活動に消極的だ。こういった状況は、両社の関係が「安住化」した状態を表す典型です。
「緊張感」には、他のサプライヤからも購入できる状態がもっとも効果的です。複数の選択肢の中から、比較検討の結果、選ばれたとの事実です。加えて、他のサプライヤとも継続的にコンタクトをし、なにか問題があったら継続できなくなる可能性を確保します。こういった状況がないから「1社独占」はバイヤが苦労するのです。
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(つづく)