買わないバイヤーとは実現可能なのか(牧野直哉)
先日、関東購買ネットワーク会に出席してきました。2014年を読み解く拡大版が開催され、私も少しお時間をいただいてお話をしました。
会が終了してからの懇親会で、ある参加者から次の様なコメントをいただきました。それは、日本企業における買わないバイヤーの実現性に関する内容です。日本国内における購入作業が将来的に減ってゆく中で、実務としての「買い・購入」を知らない場合でも、買わないバイヤーは成立するのかといった内容です。振り返って考えてみれば、私が調達購買部門で働き始めた当時は、毎日買い・購入をおこなっていました。大手企業からも規模の小さな地元企業からも購入して、その実務の中でさまざまなノウハウを学んできました。現在でも、当時の仕事を思い出し、学びを得ています。そのような、実務としての買い・購入が少なくなって、果たして実際の買い・購入を知らない「買わないバイヤー」が、業務として成立するのでしょうか。
こんな例を考えてみます。調達購買部門を機能的にサプライヤー選定(Sourcing)と、発注業務(Purchasing)の2つに分けて、実務を進める方法です。この場合、重要なのは業務内容や現在の状況の相互理解です。ある時点で、サプライヤーを選定したら、その選定した根拠・内容は徐々に陳腐化が進みます。当初は、さほど大きな問題にはなりません。しかし、陳腐化が進んで、発注内容と選定したサプライヤーのミスマッチが顕在化するタイミングがかならず到来します。実務では、そのようなタイミングの到来前に、2つの部門の担当者同士がコミュニケーションをして、予見される事態への対処をおこないます。
また調達購買部門を2つの役割に分割して、こんな問題も起こります。日本企業では、SourcingもPurchasingも同じ担当者がおこなうケースが一般的です。したがって、機能分割をおこなった後で、サプライヤーから「どちらの担当者にコンタクトすればいいのかわからない」といった指摘を受けるのです。この場合も、情報の授受がメールでおこなわれる場合は、両方の担当者に送ってもらって対処可能です。しかし電話の場合、果たしてどっちなのか。私は、基本的に日々の日常業務で発生する事象の窓口はPurchasing側に置いています。これは、日々発生している事象のなかから、重要な問題の「きざし」をPurchasing側で察知し、サプライヤーの担当者でなく、Purchasingの担当者からSourcingの担当者に問題点の指摘をおこなってほしいと考えるためです。
これまでの例を踏まえて考えます。私は「買う・購入」実務経験をともなわない「買わないバイヤー」は成立すると考えています。さまざまな環境変化起こっており、調達購買部門もその役割や機能を環境変化に対応しなければならない、買わないバイヤー化は対応策の一つなのです。買わないバイヤーを出現させる企業の動きの一つに、日本企業の海外進出が挙げられます。日本国内での「買い」は減少しますが、現地側では「買い」がおこなわれているはずです。「買い」の実務経験を積むのであれば、進出先で経験を積めばよいとの考え方もあります。しかし、日本人が駐在するコストを考えると、その辺は多くの企業によって現実的ではないでしょう。そこで、日本の買わないバイヤーにとって、現地での「買い」がどのようにおこなわれているかを掌握するためのヒアリング能力が重要となり、ヒアリングをおこなうための英語能力が必要になってくるのです。
ここで問題となるのは「実感」です。「買う」行為を実際におこなわないと理解できない部分をどうするのか。しかし、既に日本の調達購買部門も、かなり「買う」実感の乏しい業務内容になっています。個人で生活するための「買う」と比較すれば、その差は歴然です。システムが進み、工場に勤務する大手企業のバイヤーは、どのように支払いが実現させるかとか、どうやって納入されるかといった部分で、実感がともなわないはずです。社内関連部門に役割が分けられ、部門と部門は仕組み(情報システム)がつないでいます。既に「買う」行為の多くは、実感を得られなくなっているのです。
これから「買わないバイヤー」が、成立するためにはどうすれば良いか。それは、過去に経験のない仕事であっても、実際の担当者からのヒアリングを通じて、理解を深める。的確な質問をおこなって、理解する力を向上させなければなりません。直面した環境変化に対応しなければ、バイヤーも企業も生き残れないのです。これは、旧態依然としたバイヤーには、もっとも難しいかもしれません。少し極端な例かもしれませんが、旧態依然とした日本のバイヤーであれば、問題点はサプライヤーに押しつければ良かったわけです。しかし、買わないバイヤーは、サプライヤーと同じかそれ以上に、社内の同僚とのコミュニケーションが求められます。具体的には、質問力や、聞く力が問われます。買わないバイヤーとは、これまでと違った形のバイヤーの姿です。であるならば、求められる能力も異なってくるのは、当然なのです。そして、できるのだろうか、よりも、やらなければ、対応しなければならないと捉えて、変化に対応しなければならないのです。