連載「ファクト主義」(坂口孝則)
*世の中の思い込みが本当か検証する連載です。
「日本のイノベーションは進んでいる」
悲観論は常に楽観論にまさる
・日本の悲観論を超えて
このところ日本の悲観論がさかんだ。「日本はもうダメだ」「日本からイノベーションは生まれない」「日本発のサービスでユニークなものはない」……日本産業の衰退と、その先進性の欠如を嘆いてみせる。もちろん米国発のサービスは目につく。さらにITの世界でも米国企業の躍進はすさまじい。それに中国もBAT(Baidu, Alibaba, Tencent)がある。
ほんとうに日本だけがもうダメで、世界のイノベーションからは取り残されているのだろうか。
しかし、それにしても、米国と中国を別にすれば、その他の国ってどうだろう。たとえば、イタリア発、スペイン発、フランス発のイノベーションを答えられるだろうか。この日本「だけ」がダメ論というのは、どうしても信じるわけにはいかない。
また、私は海外に仕事で行く機会が多い。とくにアジアを旅した際の、あの、ひとびとの適当さ。乱雑、真面目さを欠き、無礼な人も多い。もちろん陽気でいい人が多いともいえるのだが、だからといって、これで日本が負けているとはとうてい思えなかった。
そこで、次のイノベーションランキングを見てもらいたい。
下がってきたとはいえ、日本は世界8位のイノベーション大国なのである。なお、悲観論はずっと前から存在したが、そのときには4位だった。客観視すると4位なのに、日本だけがダメとはいいすぎではないだろうか。また、日本「だけ」ではなくても、日本がダメとは判断しづらい。
このイノベーションランキングは、イノベーション度をふくめて、いくつかの指標で評価される。そこで、さらに、イノベーションだけに特化したランキング推移を見てみよう。
これも同じような推移だ。つまり、順位は落ちているものの、まだ日本は世界の9位にいる。
・地域別ではどうか
さらに、「日本」というくくりが大雑把すぎるという指摘がある。もう一つの指標に、「グローバル・イノベーション・インデックス(GII)」がある。これは、イノベーションの能力や成果を、各国の制度・人的資源・インフラ・市場親和性・企業適応度・知識と技術基盤などを総合評価するものだ。
これによると、日本は14位に甘んじている。しかし興味深いのは、この「グローバル・イノベーション・インデックス(GII)」が地域別に発表された結果だ。2017年で見ると、なんと、東京が全世界1位になった。正確には、「東京・横浜」が一位となったほか、「大阪・神戸・京都」が5位、「名古屋」9位だ。地域別で見ると、堂々たる結果になっている。
しかし、それにしても、なぜ日本人は、悲観論と、なぜかその裏返しのような「日本すごい論」が横行するのだろうか。きっと私には、コインの表裏のように思える。悲観論は、将来に不安になりたい、という気持ちである。間違いではない。将来に不安になりたい、という気持ちだ。人間は、むしろ将来は暗澹たる状況であるに違いない、という陰謀論を信じたがる。
それの裏返しで、「日本すごい論」が横行する。だから、テレビ番組では、外国人に日本のすごさを繰り返し語らせるのだ。私は「日本悲観論」にも「日本すごい論」にも与しない。しかし、現実的な事実を重ね合わせていくと、「うーん、日本って相当なマトモな国じゃない」と思うに至る。
(つづく)