調達・購買部門が不況に備える方法(牧野直哉)

「もうかっていますか?」
「景気はどうですか?」

私は、久しぶりにお会いする方には必ずこの質問を投げかけます。ビジネスパーソンであれば、日々どうやってもうけるかを考えながら仕事をしているはずです。会社と学校の違い、社会人と学生の大きな違いは、お金をもらうのか納めるのかですね。ビジネスパーソンであれば誰しもがもうかっているかどうかを毎日実感しながら仕事をしているはず。お会いする方のビジネスの事態がどういう状況にあるのか、を有意義な時間にする会話の「きっかけ」にしています。

2019年の1月、景気拡大期間が戦後最長になりました。「模様」とは、1月の経済活動に関してのデータが確定ではなく速報値、また「景気拡大」の幅が極めて緩やかであり、実感が難しい状況であるためです。本来であれば景気拡大期間が長くなったのは、ビジネスパーソンすべてにとって喜ばしい事態であるはずです。しかし今年に入ってからお会いした方に「戦後最長の景気拡大」を手放しで喜んでいる人はいません。喜ぶどころか、認識すらしていない方が多いのが実感です。私は、調達・購買部門で働く皆さんが景気に興味を示さないのは、大きな問題があると考えています。

この1月から2月の時期は、多くの企業にとって自社や取引先が4月からの新年度に備えて、様々な取り組みを行っている時期ですね。売り上げや資材費に関連する予算を設定し、予算を実現するための戦略や戦術、具体的なアクションプランを明確化し、経営者はマネージャーと、マネージャーは担当者と認識を共有化して、同じ目標に向かって足並みをそろえて進む準備するタイミングです。

そのような取り組みをするとき、少なくとも2019年度の景気がどのように推移するのかは、企業だけでなくビジネスパーソンにとっても重要であるはずです。私が「もうかっていますか?」とか、「景気はどうですか?」と質問するとき、相手の反応は大きく2つに分かれます。もうかっている、もうかっていないと、現状を明確に該当する人と、どうなんでしょうねぇ?と、よくわかりませんと回答する人です。

明確な回答してくれる方は、なぜそのように判断をしているのかまで認識しています。どうなんでしょうねぇとよくわからない該当する方は、なぜよくわからないのかその理由について言及する方は非常に少ない。この回答傾向から、私はビジネスパーソンとしての優劣を感じます。

確かに、近年の景気動向は非常に読みづらいのが実情です。今回の戦後最長の景気拡大にしても、景気拡大の幅は非常に小さく拡大傾向も非常に緩やかです。そして高度成長期ではなく成熟期となった日本経済における景気拡大は、どんな企業であってもどんなビジネスパーソンであっても、皆同じように景気拡大の恩恵を受けられるわけではありません。例えば、サプライヤーに景気動向を確認するとき、従来とは異なる回答が増えています。

高度成長期は、日本企業のあまねく全てが好景気に沸いていました。ところが近年では、企業ごと、同じ企業でも事業や具体的な製品によって、販売動向による好不況が明確に異なっています。例えば携帯電話業界を見ても、Appleは時価総額世界一になるまで成長を遂げました。同じ時期、日本の携帯電話メーカーは思うように売り上げを伸ばせず、現在ではスマートフォンを生産している日本メーカーは3社まで減少しています。またアパレルではユニクロやGUを運営するファーストリテイリングが、好不調はあったとしても成長を継続しているのに対して、グローバルに展開した海外メーカーは日本市場からの撤退を余儀なくされています。

このような産業動向をみると、マクロベースでの景気の波が非常に小さいのは、あらゆる業界で業績の良い企業と悪い企業が混ざり合っている実態があります。日本経済全体としては、好不況の企業の業績が合計されて、結果として緩やかな景気拡大となっているのです。

自社の近未来、あるいは中長期的な将来動向を見極めるためには、明確な戦略や計画とアクションプランに対して、市場がどのように反応するかといった見極めを、企業ごと担当者ごとに行う必要が高まっています。この点を認識している方は、自ら様々な情報やデータにアクセスし、現状認識と将来展望を独自に持つ取り組みを行っているのです。一方で景気をいまだマクロベースにしかとらえていない方は、自分たちの戦略や計画、アクションプランの市場との適合性を見極めていないどころか、そもそも戦略立案をないがしろにし、前年度と同じような計画を立て、実際のアクションはその場しのぎの取り組みになっている傾向があります。

今回の連載では、戦後最長とされた景気拡大が、そろそろ景気後退局面に陥るのではないかとの仮説に基づいて、調達購買部門として来るべき不況にどのように差があるのかについて述べます。と言うのも、社内で唯一BtoBビジネスの顧客であることが仕事であり業務になる調達購買部門では、マクロベースでの景気後退=需要の減退はチャンスになりうる可能性が高いのです。そういった千載一遇のチャンスを逃さず、自社の調達購買業務の改善や効率化を進めるには、何をすれば良いかをこれから語ってゆきます。

(つづく)

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