バイヤー出張論(牧野直哉)
6.出張先で休日を過ごすとき
長期の出張やスケジュールによって、出張先に滞在したまま休日を過ごす場合、ふだんと変わらず、翌週に備えて英気を養ったり、めったに来ない場所だからと観光を楽しんだりします。頭の片隅に忘れずに置くのは、休日であっても会社の費用を使った出張中であるとの点です。ふだんと異なる環境下である「出張中」のベストな休日のすごし方を考えます。
① 週末を出張先で過ごさないスケジュールを設定する
バイヤーの出張目的は、サプライヤーの監査や購入条件の交渉、トラブル処理と多岐にわたります。調達・購買部門はサプライヤーからすれば顧客ですから、スケジュールの決定権は基本的にバイヤーにあると言っていいでしょう。したがって、まずは週末を出張先で過ごさないスケジュールの設定を心掛けます。一般的な企業の旅費規定では、宿泊費だけではなく日当といった費用も発生します。休日滞在によって発生する費用を抑制するために、訪問先でおこなう内容を、サプライヤーには事前かつ明確に伝え、スケジュールを立てます。予定通り消化し、週末には帰国して自宅で休息する日程を設定します。ふだんからサプライヤーとのコミュニケーションの精度を上げ、しっかりとした情報の事前収集による的確な現場掌握と、自分たちの意思の伝達をおこなえば、予定通りスケジュールの消化は可能です。結果的にスケジュールが伸びてしまったとしても、まずは週末を出張先で過ごさないスケジュール設定を心がけましょう。
② 出張によって遅れている作業を撲滅する
出張中であっても、オフィスでは出張者の不在は関係なく、業務が進んでいます。もし、出張によって止まる業務があったら、事によっては同僚や関係部門に迷惑をかけますし、影響の度合いによっては次回以降の出張に行きづらくなります。もちろんオフィスではないのでできることとできない事は明確に区別する必要がありますが、出張中であっても日常業務を止めない仕組みや体制は不可欠です。加えて、休日を挟んだ出張の場合、メールで解決できる内容はできるだけ休日の時間を活用して返信します。サプライヤーを訪問する場合、夜遅くまで残業する例は極めて限定されます。また、滞在場所と時間設定によっては、通勤時間分余裕が生まれるケースもあります。ふだんおこなわない移動や、なれない土地で仕事をするストレスもあるでしょう。しかし、出張中に数分で出来るメールの返信を対応しなかったために、問題が大きくかつ深刻になってしまう場合もあります。帰国後に対応するよりも、出張先で対処できれば効率的です。
こういった対応は、ふだんの環境設定が重要です。出張などなくても多忙なはずです。そんな中で、容赦なくやってくる仕事の優先順位を判断し、自分がやること、他人に依頼することを分類して、具体的な対処に要する時間を判断して、すぐにすべきか、後でおこなうかを決定する。こういった日常的な取り組みをおこなっていれば、同じことを出張先でおこなうだけで良いのです。
③出張に関連する業務を持ち帰らない
出張先で見たこと、聞いたことを、帰国後に出張報告書にまとめていませんか。一週間の出張の場合、月曜日の出来事を翌週まで詳細に記憶しているでしょうか。帰国後には、不在のためにできなかった仕事があるでしょう。そんな中、つい出張報告書の作成が遅れ、細かい内容が網羅されないまま、おざなりの出張報告作成は避けなければなりません。
パソコンを持参する場合、毎日「日報」の形で出張報告をメールで送信します。近年では、文章だけではなく、画像や動画も送信できますし、サプライヤーから入手した資料も、デジタルカメラで撮影して送信できます。海外主張報告を帰国後に作成する理由がありません。一日が終了したら、記憶が鮮明なうちにメモ化、文章化して関係者に送付します。日報の内容に関する質問やアドバイスがあれば返信もあるでしょうし、そういったコミュニケーションは出張の価値を高めます。
こういった取り組みは、ふだんのオフィスで「細切れ時間」をどのように使っているかが表れます。仕事が一段落して、打ち合わせまで5分あるときに、受信メールを確認して、一通でも返信しておくか。それとも、別な時間にまとめて処理するか。出張中は、業務の目的が限定されているので、多くの場合移動時間を含め、待ち時間が多くなります。そういった時間を活用すれば、出張先でもさほど時間をかけずに、報告書の作成が可能です。
日本企業の海外進出は、円安局面にあっても減速せずに拡大の一途をたどりました。企業の海外進出は、サプライチェーンの広がりを意味します。調達・購買部門が管理すべきサプライヤーが、より広く海外に広がってゆきます。国内の場合、サプライヤーを訪問頻度によって評価する考え方が、いまだ根強く残っています。「どんなサプライヤーが魅力的か」を社内でヒアリングすると「ちょくちょく打ち合わせができる」といった条件が多く見られます。
しかし「ちょくちょく打ちあわせできる」サプライヤーは、日本国内の近隣地域に限られます。海外サプライヤーには期待できませんし、海外のサプライヤーは多頻度の訪問を重視していません。日本では「年二回しか来訪しない」とサプライヤーは、評価が低いでしょう。しかし海外では「年に二回も訪問しているのに」と判断されます。この「しか」と「も」の違いは、とても大きな隔たりです。しかし、海外のサプライヤーとのビジネスでは「二回も」と考えるべきです。そうなった場合、一回の出張の意味が非常に大きくなります。あれもこれも、なにもかもやって来る意気込みと、実行が伴わなければなりません。機会の限られた出張の、効果の最大化が今、調達・購買部門に求められているのです。
(つづく)