日本人と睡眠(坂口孝則)
NHK放送文化研究所が2015年に行った「国民生活時間調査」は、日本人の平日睡眠時間が長くなっているとして衝撃を与えました。これを引用して、夜の消費活動が減ってしまうと結論づけるものがあります。しかし、これは注意が必要です。年代別を見ると、30代の男性はむしろ短くなっているなどバラつきがあります。さらに、全体で見ても、20年前、30年前とくらべると大幅な減少傾向にあります。
実際にOECDが実施した調査でも、日本と韓国は睡眠時間が短いと指摘されています。日本人は睡眠時間6時間未満が約4割とされ、短睡眠国家ぶりが伺われます。それにしても怖いのは、バス運転手の25%が睡眠時間5時間としており、驚くのは1%が3時間未満としていることです。「忙しいのにこんな調査に答えさせるなよ」とデタラメを書いたならまだ救われますが、大丈夫でしょうか。トラック運転手の睡眠不足もかねてより問題とされてきました。鬱やメンタル不調など、睡眠時間5時間の支障が指摘されています。
睡眠不足は、脳を飲酒状態のようにするとされています。仕事の効率低下は明らかです。
私のかねてからの提案は、まず上場企業からでもかまわないので、従業員数とともに、従業員総労働時間を有価証券報告書に記載することです。残業時間数ではなく、総労働時間数。まずは善し悪しを評価する前に、実態を明らかにしてもらう。そこから一人あたりの労働時間がわかれば、投資家の判断も変わってきますし、新入社員が会社選択にも役立つはずです。そこから他企業にも展開すればいいでしょう。
またインターバル制度を設ける企業があります。これは、帰宅時間と出社時間に、一定の時間を確保させるものです。しかし、時間があるからと考え事をしては眠れません。そこで、現在では快適な睡眠を実現する書籍も次々とヒットしています。寝はじめの90分が重要だとするもの、やはり長さが必要だというもの、パジャマやベッドの大切さを説くもの、寝だめは無意味だから早く寝ようと勧めるもの、さまざまです。なかでは講演にひっぱりだこの著者もおり、睡眠時間を心配してしまうほどです。
ビジネス界でも、スマートフォンと連携し、睡眠時間から健康状態を推測し、商品を提案するものも出てきました。スマートフォンでSNSを眺める時間を減らしたら、一時間くらい長く寝られそうですけどね。家中にセンサーを張り巡らせ、睡眠に適した温度や湿度等を提案するものもあります。同時に高齢者向けの監視サービスとしても注目されています。呼吸の乱れなどを察知して、シニアの状態を遠方の家族に伝えるものです。
誰かの名言で「生きることなど、誰かに任せておけ」がありますが、私は「代わりに誰か寝てくれないかな」と思っています。ところで、睡眠不足は脳を酩酊した状態にすると書きました。私などは睡眠時間が短いのみならず、実際の飲酒も毎日です。ということは、一日じゅう酔っ払っていることになります。ははは(酔っ払うと無意味に笑いたくなる、あれです)。
<了>