ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

サプライヤーマネジメント原論 3~関係断絶理論

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今回は、バイヤーにとって一番困難であろう現在取引のあるサプライヤーとの取引をやめる話です。どのように取引をやめて、関係を断絶するサプライヤーを選定するのでしょうか。

バイヤーがサプライヤーマネジメントをおこなう場合、最初に取引額のABC分析を用いてサプライヤーの個々の重要性を計ります。そして、取引額のABC分析を行って導き出される結果とは、

「サプライヤー数全体の2割の社数のサプライヤーで、取引額全体の8割を締めている」

といったパレートの法則によって語られる内容になります。17号でお伝えした、サプライヤーと取引を行う基礎的条件となる口座維持に費やすコストの観点からすれば、最初に行ったABC分析の結果で見いだした、取引額の2割に過ぎない全体の8割の社数を締めるサプライヤーを、まず関係断絶候補とするのが妥当です。しかし、企業によってその総数がまちまちであることは容易に想像できる8割のサプライヤーから、具体的にどのように関係断絶をおこなうサプライヤーを見いだすのか、です。8割のサプライヤーについて、自社にとっての有意性を見いだす必要があります。

私は過去に機械メーカーでバイヤーをしていました。その時にサプライヤーマネジメントの議論になると、必ずぶつかる問題がありました。それは、たとえ一つ構成部品が不足しても、製品が完成しない。ということは、取引額の大小で、サプライヤーの重要性を決定することはできないのではないか、という内容です。年間1000台製作し販売する機械、仮に1台の資材費を100万円するとします。同じような製品を数十種類もっている企業であれば、仮に製品のラインナップが50種類だとすると、

100万円×1,000台×50種類=5,000,000万円(500億)

500億円もの資材費になります。そして、どの機種にも使用される1円の構成部品を、その1円の部品しか供給しないサプライヤーが存在するとします。製品台数は、

1000台×50種類=50,000台

となります。1個1円ですから、そのサプライヤーからの総購入費は5万円です。総資材費の0.0001%に過ぎません。購入金額のみを判断基準に持つ場合、このようなサプライヤーは重要とは判断されません。

提示した例は、ちょっと極端なケースです。ビジネスの金額的には、非常に少額であっても、その少額の構成部品が不足しているが故に、自社の製品の供給に影響を与えることは、一般的に想定されるケースです。問題はこの先です。先に提示した例から、だからどのサプライヤーも重要である。従い、サプライヤーマネジメントへの取り組みを、どのサプライヤーにも変わらずにおこなうことは本末転倒です。サプライヤーマネジメントの実践に際して、取引金額の大小は一側面に過ぎないと理解をすべきなのです。
もう一2つ、総取引金額が5万円の例を示します。

先ず一つ目です。新製品の開発に伴って、自社の従来から取引のあるサプライヤーでは製作不可能な構成部品を購入しなければならなくなったとします。バイヤーは、製作可能である新規のサプライヤーを一生懸命に探し、製作可能なサプライヤーをいくつか見いだしました。そして最初は試作なり、サンプルの発注をおこなうはずです。ここで、最初の試作発注の費用が5万円であったとします。

そしてもう一つ、数年間全く取引をおこなっていないサプライヤーで、過去には大きなボリュームの取引をおこなっていたサプライヤーがありました。そして数年ぶりにお客様よりメンテナンス用に部品供給の打診を受けます。バイヤーも久々に連絡を入れて、供給可否と可能な場合の見積金額を確認します。すると、幸運にも供給可能でした。そして提示された見積金額は5万円です。お客様には購入金額である5万円をコストとして、相応の管理費、利益を踏まえ見積を提示します。お客様は見積金額を了承して正式に注文します。そして数年ぶりに5万円で発注されるのです。

これまでに提示した3つのケースが、同一会計期間である一年間に起こったとします。もし、サプライヤーマネジメントの判断基準に、購入金額をベースにしたABC分析しか持ち得ていないとすると、この3つのケースは年間5万円の取引実績として、すべて同じように判断されます。しかし、それぞれのケースでの5万円の持つ意味は全く異なっています。サプライヤーマネジメントをおこなう上では、その金額に意味づけをおこなって、重要度を測る基準と照らし合わせて判断することが必要になってくるのです。

それでは、どのようにその重要度を測る基準を設定するのでしょうか。

ここで、ある資格試験の受験勉強で、マーケティングを学ぶ際に一般的なサマリーを以下の通り示します。


<クリックすると拡大して表示されます>

これは、製品のライフサイクルの各ステージにおけるマーケティング戦略のセオリーをサマリーしたものです。全く同じ製品であっても、そのライフサイクルの位置づけ、ポジショニングによっては、販売を促すためにおこなう戦略がここまで変化するわけです。

上記の表の中では、製品のライフサイクルを4つのステージに分割しています。

1. 導入期

2. 盛況期

3. 成熟期

4. 衰退期

先に示した3つの例を、上記の4つのライフサイクルにあてはめてみます。

(1) 1円の部品を5万個のケース:ライフサイクルすべてに関与

(2) 試作・サンプル品1個を5万円で発注のケース:導入期

(3) メンテナンス用部品を5万円で発注のケース:衰退期

仮に、この3つのケースに登場する3社のうち、1社を選んで関係を断絶するとすれば、どのサプライヤーを関係断絶先として選定しますか。言うまでもなく、私は(3)を選定します。そして、今回の例で示した中で(1)の持つ大きなリスクについて考えるとき、サプライヤーマネジメントの観点での(1)のケースの持つ重要度は、最上位にランクされます。

年間5万円の取引をおこなうサプライヤー。そのサプライヤーの売上全体の中で5万円がしめる度合いにもよりますが、一つ確実にいえることがあります。それは、そのサプライヤーが5万円のビジネスの中で得ている利益は、かならず5万円以下になるのです。5万円以下の利益額が持つ意味について考えてみます。自ずと、サプライヤーにとっての重要度が低いのではないか、との仮説が成り立ちます。

一方、1円の構成部品を5万個購入しているバイヤーの所属する企業にとってです。年間500億円の資材費を費やして生み出される500億円以上の売上を、年間の発注額の0.0001%を締めるに過ぎない購入額のサプライヤーに握られているという状況です。もし、やんごとなき事情で供給がストップしたときにどのような影響が及んでくるのか。ちょっと考えてだけでも恐ろしくなります。

すこし本論とは外れましたが、関係断絶するサプライヤーを選定する場合、自社の製品・サービスそのもの置かれたライフサイクルが一つの判断基準となります。衰退期における製品・サービスに占める割合が多いサプライヤーを関係断絶の最優先候補として位置づけるのです。

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