設計との人間関係よりも重要な社内リレーション(牧野直哉)

調達購買部門では、製造業における開発購買といった取り組みにもあるとおり、社内関連部門との人間関係、特に設計部門に代表される購入内容を決定する部門が重要とされてきました。しかし、サプライヤーが本当に欲している情報やバイヤー企業として必要な社外のリソースを考えると、製造業であったとしても調達購買部門にとって重要な関連部門は設計部門だけなのか、との疑問が生まれます。

私の最新刊である「図解入門ビジネス 最新調達・購買の基本とコスト削減がよーくわかる本」では、社内関連部門と良好な関係を持つための具体的な方法論を書きました。本文中も、設計に代表される購入要求部門を、特別に際立たせて「重要」とはしていません。円滑な調達購買業務を実現させるためには、製造業における設計部門だけでなく、どのくらいの量を購入するのかを決定する生産計画部門や、どのレベルの品質を確保すべきかを、顧客の要求内容から判断する品質保証部門も、同じレベルで重要です。かえって設計部門にのみ注目してしまうと、購入時に意識を向けなければならないQCDがおろそかになってしまう可能性も高くなります。

加えて、管理職の方には、調達購買部門にどのような人材を確保するかも、非常に重要な課題です。確かに調達購買部門への配属後、一流の調達購買パーソンへ育てる取り組みも必要です。しかし、一般的に企業の人事部門における調達購買業務の理解は、残念ながら浅いのが実情です。調達購買部門での業務が決まったサプライヤーから見積を入手して、形ばかりの価格交渉をおこなっていれば済んでいた時代ではありません。私は定期的に人事部門の管理職とも話をして、必要な人物像やスキルを伝えています。人事部門との良好な関係も重要と考えているのです。

サプライヤーの担当者や、管理職の方と話をしていると、彼らがもっとも興味を持っているのは、

「将来どうなるのか」

この言葉に集約されます。現在の発注量は増えるのか、減るのか。将来的に今の技術レベル、品質レベルで良いのか。そもそも将来的に現在の製品やサービスを買い続けてくれるのか。そういった細分化してゆけば、さまざまなテーマに落とし込みが可能です。果たして、こういった情報を社内で一番持っている部門はどこでしょうか。

それは営業部門であり、マーケティングや企画を担当する部門です。どんな企業でも、社内全体の業務プロセスを明文化すると、調達購買部門と営業部門は少し遠い存在になってしまいます。しかし、将来的にどうなるのかについて、もっとも時間と労力を費やし、自社の戦略や、どの顧客からどの程度の売上を得るのかを日夜考えているのは、マーケティングや企画を含めた営業部門なのです。

調達購買部門がなぜサプライヤーからモノやサービスを購入するのか。それは、顧客あっての話です。お客様のニーズに答えるために、われわれも購入元の無理難題をなんとか解決しようと日々努力しているのです。もちろん、社内関連部門、すべて境遇は同じです。しかし、それでもあえて私は営業部門と直接コンタクトして、定期的に情報を入手しています。私は基本的に会議が嫌いですが、営業パーソンが多く集まる営業会議には、最優先で出席しています。管理者から方針が伝えられ、各営業パーソンからおこなわれるさまざまな報告は、調達購買部門にとってもいろいろな示唆を与える貴重な情報源です。顧客のもっとも生に近いニーズに触れられる場なのです。こういった取り組みをおこなうのには、もう一つ理由があります。

調達購買部門に購入仕様や要求事項としてもたらされる情報は、社内関連部門を経由した二次以下の情報です。「以下」と書いたのは、顧客からもたらされた情報が、自社の営業→設計を経由した場合は、三次情報になるためです。もちろん、社内における円滑なマネジメントを実現するためには、業務プロセスを順守した仕事の進め方が必要です。しかし、情報収集のセオリーからすれば、三次情報に甘んじて意志決定をおこなうのは、あまり褒められた話ではありません。より、上位の情報ソースへのアクセスを目指すべきです。そういう意味では、調達購買部門とは社内プロセス上、情報の発信源から遠いところで仕事をしなければなりません。一方、顧客のニーズを実現するサプライヤーとは直接的に大きな接点をもっています。このギャップを解消するには、ニーズを顧客から直接入手している営業部門から直接話を聞くしかないのです。

私がセミナーでお話しするテーマにサプライヤーミーティングがあります。これまでいろいろなテーマで開催してきました。開催したサプライヤーミーティングでは毎回アンケートを採っていますが、マーケットの状況を営業担当者から説明させると、出席するサプライヤーの担当者からの評価が上がります。普段、サプライヤーの営業パーソンは、顧客の営業とコミュニケーションの機会はありません。したがって、残念ながら私が調達購買部門として話すよりも、より興味をもって聞いてくれるのです。

そして、営業との接点を多く持つと、こんな効用もあります。営業パーソンの商談確度の違いです。顧客からは価格を安くとの要求しかない!そんな営業パーソンはダメですね。優秀な営業パーソンは、価格以外の顧客ニーズをしっかりつかんでいます。大きな声では言えませんが、私は営業からの受注見通しの情報を判断する際に、どの営業担当者かを基準にしています。もっともこれは副産物ですが、営業とのコミュニケーションの重要性をさらに高める結果になっています。

では、どんなきっかけで営業との強いリレーションを作るか。私は、調達購買に関係する問題が起こった場合に、みずから出向いて説明をしたり、営業担当者とともにおわびをしたりして、一緒に顧客に対処する時間を作りました。もちろん、一筋縄ではいかないケースもありますが、直接情報を入手できるのはメリットにはかえられないのです。

<了>

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