ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

決定版!サプライヤーマネジメント 12

~新規サプライヤー開拓を、既存のサプライヤーで実現させる方法

前回(72号)では、新規サプライヤー開拓の際に必要な情報確認についてお伝えしました。サプライヤーの「できます!」という言葉をバイヤーとして信じることは必要です。しかし、それだけでは不十分です。必要な情報確認を行なって、バイヤー企業として必要なリソースの有無を確認することが重要なのです。今回は、最初にサプライヤーの「リソース」に関するお話をします。

サプライヤーの事業内容を確認する場合、重要なポイントの一つが、単一事業サプライヤーか、それとも複数事業サプライヤーかとの点です。サプライヤー側から見れば「事業」となりますが、バイヤーとしては「事業」を「リソース」と読み替えてください。バイヤー企業側からみて、複数のリソースを有するのか、それとも単一なのかを見定めることが必要です。さて、この「見定め」するには「なに」が必要でしょうか。

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上記の例は、製造業に必要な部品を、製造業であるサプライヤーA、Bから購入する場合の、サプライヤーの持つ「リソース」を比較したものです。この例で、サプライヤーA,Bから製品としてのアウトプットに差は存在しません。かえって、価格だけを比較するとサプライヤーAの方が安価です。しかし、なぜかバイヤー企業の技術部門はサプライヤーBばかり指定する。いろいろ調べてみると、サプライヤーAには、必要な部品の図面をバイヤー企業側で製作して提示しなければならない。しかしサプライヤーBには、完成した部品の仕様と、制約条件だけを連絡すれば、サプライヤー側で作図して、ものづくりをおこなって納入してもらえるわけです。設計機能というリソースの有無で、サプライヤーが選定されていたことになります。

このケースは、単一製品における全工程に対して、カバーする割合が狭いか広いかといった問題です。このような情報を確認するためには、前号でもご説明したとおり、購入する製品が、どのような製造工程をもって生産されるのかをあらかじめバイヤーが理解していることが必要です。

もう一つの例は、以下の通りです。

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この例では、サプライヤーAが5つの製品ラインを持っています。しかし2つの製品ラインからしか購入していない場合です。

先の例では、まったく同じ製品の製造を生業としながらも、その全行程の一部である設計、ここでは生産設計機能の有無によって、サプライヤーが選定されていました。次の例では、サプライヤーの持つ製品ラインナップの一部しか購入していません。先のケースでは、購入する製品に必要な「リソース」を、サプライヤーがどこまでカバーしてくれるかを掌握すれば、自ずと次のアクションが決まってきます。設計する工程を中に取り込めないのか。また、設計機能のみを外部から調達できないかといった形です。後のケースでは、製品C、D、Eも対応可能であるという情報を掌握します。その上で、製品C、D、Eを他のサプライヤーから購入している場合、集約への取り組みといった将来的に必要となった場合に活用するといったアクションへと繋がるわけです。

このようなリソースの掌握には、つぎのような利点があります。

まず、一つ目のケースでは、サプライヤーの持つ強みを読み解くことが可能です。同じような製品を異なる2つのサプライヤーから購入する場合、それぞれの持つリソースに着目して、どちらにどのような優位性が存在するのかをあらかじめ掌握することが可能です。仮にまったく同じ製品を、ダブルソースで購入する場合は、どちらにどのような強みがあるかと同時に、どんな弱みが存在するのかも理解することができます。また、二つ目のケースでは、既に取引のあるサプライヤーで、異なる製品ラインナップを、新たに購入する場合は、既存の取引によってサプライヤーとバイヤー企業側に蓄積された取引諸条件に関するノウハウがそのまま活用できます。これは、ある意味で新規サプライヤーの開拓と同じ効果があります。しかし、前号から説明している新規サプライヤーの開拓から採用の過程で発生する作業は、多くが不要になるわけです。

さて、それではサプライヤーの開拓プロセスに戻ります。

これまでの情報収集で得られたことをベースにして、対象サプライヤーの初期評価をおこないます。評価内容と基準は、バックナンバーの62号、63号をご参照ください。自社の事業に沿った評価基準、既存のサプライヤーと同じレベルで評価して、採用できるか否かを判断します。ここでは、必要に応じてサンプル評価をおこないます。時には、バイヤー企業側でサンプル購入費用を負担して行なうことも必要です。実際の購入物での評価をおこなって、結果が良好であれば、最終的に社内の関連部門へ新規サプライヤーの監査を要請します。最近では、採用するまでの評価機能を、調達購買部門に持っている企業も存在します。そのような然るべき存在の最終的なチェックを受けて、晴れて新規サプライヤーの採用となるわけです。

<つづく>

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