調達・購買担当者の意識改革~パート16「サプライヤの経営安定度を見る方法」(坂口孝則)

・調達・購買担当者が実務的に使えるサプライヤ経営チェック方法

解説:調達担当者は正しく見積書を入手せねばなりません。この連載でも繰り返し説明してきました。とくにRFQ(Request for quotation)のときにサプライヤに対して、明確な条件を与えるべきです。そしてそのRFQをフォーマット化しておきましょう。このフォーマット化に際してはいくつかの注意事項があります。まず、体制と調達担当者がモノを安定して調達せねばなりません。このとき、QCDの確保は当然として、サプライヤが倒産しないかどうかも考慮の一つです。これまでサプライヤの財務状態を把握する方法につてはいくつも紹介してきました。ここではもう一つ、サプライヤの借入金状態から安全度を把握する方法をご紹介します。使用するのはサプライヤの決算書のみです。サプライヤの借入金と支払利息を見るだけで、大胆にもどのサプライヤがマズい状態にあるかを見ていくものです。

意識改革のために:これまでサプライヤの経営状態を見るいくつもの指標を学んだり紹介したりしてきました。私たちは調達に関わるものとしてサプライヤの経営を把握する必要があります。とはいっても、私たちは財務部門でもないし、公認会計士でもないし、専門家でもないので、あまり事細かな経営指標の見方に時間を費やす必要もありません。あまりにオタクな知識は不要です。

目的は、こうです。あまり時間をかけずに、でも、あるていどの精度をもって、「どのサプライヤの状態がマズくて、どのサプライヤの状態は問題ないかを知りたい」というものです。もちろん、与信情報提供会社からデータを買っても良いでしょう。ただ、ここでは、お金もかけずにやる方法です。

結論からいいます。

私がたどり着いたのは、単純にサプライヤの決算書を見て、「短期借入金」「長期借入金」(時間があれば「手形割引高」も)を「総資産」と比較しようというものです。ものすごく単純な方法ですが、実務にはじゅうぶんでした。以下、その計算ファイルをご提示します。

http://www.future-procurement.com/syakunyuukin.xls

この計算式では、(短期借入金+長期借入金+手形割引高)÷総資本としています。直感的な意味では、じぶんの資本(資産)のなかのどれくらいが借金によるものかを計算しただけです。もちろん、あまりに高いと問題です。

このエクセル表では、3~4年分の決算データを並べています。左側が最新年度で、右側に移るほど古くなります。さらにここで参考になるのが中小企業庁が出している「中小企業の財務調査」です。これによると、借入金依存度が(たとえば建設業では56.3%を超えると平均以上=平均と比べると危ない)業界ごとに記されています。

ここで、借入金依存度とは、上式の(短期借入金+長期借入金+手形割引高)÷総資本が使えます。たとえば、みなさまのサプライヤが建設業に属するところで、エクセルの「借入金依存度」が56.3%を超過しているサプライヤを別色で塗ります。こうすると、明確に「危ないところ」がわかるのですね。

製造業でいえば、だいたい、借入金依存度は61%を超えない、とおぼえてください。単純な試算ですが、つまり、1億円の総資本があったとして、建設業では5600万円くらい、製造業では6100万円くらいの借入金ドブ漬け状態であればマズいですよ。そんな意味です。

こうサプライヤの色をつけていてわかったことがあります。おそらくみなさまの企業もそうであるように、前述したような与信情報提供会社からデータを購入しているかもしれませんね。そうしたときに、彼ら(=与信情報提供会社)が倒産の可能性あり、と提示してくるサプライヤ名と、私が試算した借入金依存度で上位になるサプライヤはほとんど一致しているのです。

与信情報提供会社は独自の計算方式をとっているはずです。ただ、結果からすると、倒産予知は、つまるところその企業の借金への依存度に左右されるのでしょう。

・単に借金の額ではなく、稼ぎとの比較を

さて、最後に注意すべきことがあります。

この説明では、借入金依存度が高いのはケシカランというトーンで話しました。しかし、必ずしもそうではありません。なぜか、理由は大きく二つです。

1.借金は必ずしも悪くない。借金はニュートラルな存在です。これまで無借金経営が美徳のようにいわれました。しかし、考えるにどれだけ借金をしても、その借入金を有効活用して、その利息以上のリターンを稼げば、むしろ借入金依存が高まるほど、そちらが美徳になります。したがって、その借入金依存とともに、稼ぐ実力を見るべきなのです。

2.利息が生じていないケースがある。大企業の財務諸表ばかり慣れている人には想像もつきません。ただ、実際に中小企業や零細企業の決算書、計算書類を見ていると、借金ばかりなのに借金の利息が生じていないケースが多々あります。損益計算書の営業外費用に利息が形状されるはずなのに、ほとんど利息を支払っていない企業ばかりです。なぜか、内情を訊いてみると、肉親から借りたり、経営者が貸し付けたりして、そもそも金融機関ではないのですね。肉親からなので、利息もほとんど生じていない。とすれば、最悪は、借入金を膨らませても良いわけです。

なので、最後に利息と稼ぐ力のチェックをしましょう。再掲しますと、損益計算書上の営業外費用に支払利息が載っていますから、その額をエクセルの支払利息の箇所に入力してください。そうすると、平均利息率が出てきます。これは概算ではありますが、一つの目安になります。よって、この利息率があまりに低いサプライヤは借入金依存度の見た目ほどはインパクトがないはずです。逆もしかりではありますが。

そこで、もし借入金依存度が高く、かつ利息率も高いサプライヤは、こう見てください。

たとえば、平均利息率が7%を超えているなどのケースは、その利息額(絶対額)と、営業利益額(絶対額)を比較してみましょう。これで何を見るかというと、営業利益のほうが、利息額よりも小さいケースがあります。あるいは、ほとんど変わらない場合です。これは悲惨です。というのも、営業利益とは本業の儲けを示しますから、本業で稼いだほとんどが、借金の利息で飛んでいるわけですよね。そうすれば、そのサプライヤは借入金利息のために働いているようなものなのですよね。ああ、無情。

あくまで倒産を考えれば、逆に借金はできるだけ少ない、あるいは利息支払いが少なく、営業利益が多い企業となります。

最後に追伸を。

この借入金依存度ですが、経営者を責めるわけではありません。というのも、経営とはバクチの連続。借入金を得て挑戦し続けねばならない宿命でもあります。逆に借入金がなければビジネス規模が小さくならざるをえない可能性が高いので、しかたない側面もあります。誤解なきように。

(了) 

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