バイヤー現場論(牧野直哉)

4.購入要求部門との関係

これまで直接材と呼ばれる生産に必要な部品や材料の購入を想定しました。企業では、業務遂行に必要なさまざまな製品を購入しなければなりません。そういった社員が使う購入品を間接材と呼びます。間接材の調達・購買部門からみた前工程は、社内すべての部門です。購入対象は広範囲にわたります。どの部分に調達・購買部門が網をかけ、適切な購買の実現できるかを考えます。

①購買力を発揮する方法と、集中化の重要性

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購買力は、サプライヤに「考慮せざるを得ない」と考えさせる影響力です。一般的には購入量(額)が多ければ、購買力があると判断できます。ここで、重要なのは「多い」と判断する基準です。

企業全体で購入量が多ければ良いとする基準だけでは、世の中の企業の99%以上に購買力がない、あるいは弱いとなってしまいます。自社の購買力をできるだけ大きくして、サプライヤへ影響力を行使するのも調達・購買部門の重要な役割です。まず、購入量(額)が多い状態を企業あたりでなく、購入窓口あたりの量(額)でとらえます。

自社よりも規模の大きなサプライヤを相手にしている場合、企業規模の比較だけでは、購買力が弱いと判断できます。しかし、サプライヤの企業規模が大きければ、製品種別ごと、地域ごとに営業組織を配置しているはずです。メーカーでなく販売代理店を経由して購入する場合もあるでしょう。購入窓口となっている組織や、代理店の売り上げ規模を調べます。法人であれば、信用調査会社へ依頼します。企業の一部門である場合は、財務諸表から類推したり、営業パーソンからヒアリングしたりしてデータを集めます。

営業パーソンあたりの売り上げ全体の10%を超える発注額があれば、営業パーソンレベルでは、無視できない存在になります。この「無視できない」が購買力による影響です。自社の意向には、なにか回答をしなければならないと思わせる力です。これが30%を超えれば、より影響力が増加します。企業レベルでは、一営業パーソンの売り上げが30%減少しても、さほど大きな問題にはなりません。しかし、営業パーソンの立場からすれば大問題です。

これは、窓口の組織でも同じです。営業セクションや営業所レベルの売り上げに占める発注額の割合が10%あれば、無視できません。30%あれば、そのセクションや営業所の存亡にかかわる事態です。当然、自社は営業窓口に対して購買力を持ちます。

自社とサプライヤの企業全体の対比では、購買力はないと判断する規模の差があるかもしれません。しかし、社長が商談するわけではありません。より小さく分解した上での判断と、行動が必要です。こういった考え方を踏まえて今、社内のどの部門から、どの程度外部に支払っているかも調べます。社内各部門から、調達・購買部門を経由せずにサプライヤへ支払いが可能な場合、サプライヤの集中化が進んでいないかもしれません。類似した購入品を、複数のサプライヤに分散して購入している場合は、調達・購買部門から推奨サプライヤを社内全部門に連絡します。サプライヤを推奨するには、サプライヤのQCD、量的および質的な能力の調査が不可欠です。また、複数のサプライヤから同じ製品を購入する場合は、入札をおこなって結果を社内へ公開します。このような取り組みは、最終的に購入権限の調達・購買部門への一元化へとつなげます。

②注力ポイントを変化させる

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どんな企業であっても、購入対象は広範囲におよびます。間接材は自社オフィス、オフィス用家具、工場建屋、工場内設備、IT機器、ネットワーク設備、社員食堂……企業運営には実にさまざまな購入対象があります。この購入対象範囲の広さと購入要求内容を明文化する手間が、購入要求部門が直接的にサプライヤと折衝し、発注先や価格を決定してしまう、やむを得ない理由にもなっています。

調達・購買部門がすべての範囲を網羅し、適正な購買を実現できるかどうか不安もあるでしょう。対応には人的リソースの確保も大きな課題です。人的なリソースが限られる場合、プロジェクト的に注力する購入対象を限定します。向こう5年間の注力対象カレンダーを作成して、購入範囲をどの程度網羅できるかを確認してみましょう。例えば、賃貸オフィスの場合、契約期間は2年間が一般的です。しかし、3年や5年といった期間も、交渉次第で可能となる場合があります。そういった購入対象によって発生する頻度を掌握するだけでも、注力するポイントが明らかとなり、数年単位での対応スケジュールの作成が可能です。毎年フォローする必要がない場合は、購入時期の調整によって契約時期を分散すれば、限られた調達・購買部門のリソースでも、効率的な購買が実現可能なのです。

③需要動向を共有してタイミングを提案

2015年以降、日本国内の建設工事は、建設会社と従業員の両方ともが減少し、高い操業度を維持しています。こういった環境下で新社屋の建設を計画するのは、得策でしょうか。やむを得ない理由や、制約用件がなければ、しばらく様子を見たり、一時的に賃貸物件を活用したりといった対応も選択できます。

社内設備の更新も同じです。あと1~2年で更新を迎える設備があるとします。設備メーカーに確認すると、手持ちの受注量も低迷していると回答があった。こういった場合は、1年前倒しで設備更新を検討します。同様の例では、社外向けの販促用のパンフレットや会社案内の印刷。今、納期によって価格が大きく異なります。急ぎの場合は、当日印刷、翌日印刷が可能となる一方、印刷設備の稼働が低い時期を選択したり、納入までのリードタイムを長くしたりすれば、安くなるプランの選択が可能になります。社内で発生する需用だからこそ、タイミングの確認が容易で、変更可能性も高くなるのです。

一般的に購入権限を調達・購買部門へ一元化すると、費用の外部支出は少なくなります。しかし、従来の仕組みを変更するのは多大な労力が必要です。将来的な一元化を目指す準備段階として、社内で購入するアイテムの需用情報を、購入要求部門提供します。需要の高低よって価格も変動するシンプルなセオリーを活用し、適切な購入時期を提案しましょう。

<つづく>

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