調達革新の限界

「何を確認したんだ!」

そのバイヤーは珍しく年下に声を上げた。

そもそも、教育という概念を信じていないバイヤーだ。

人に教える、という行為自体を胡散臭く思っていたがゆえに、年下に対して怒ったり強く指導をしたり、ということはしたことがなかった。

人は人だ。どうなっても関係がない。

学びたい人は学べばよい。仕事ができなければ頼まなければ良いだけだ。

そう思っていた。

しかし、そのバイヤーは後輩の相談に対して、思わずツッコミをいれずにいられなかった。

「どうしてもサプライヤーの価格が高いんです」という相談だった。

もちろん、そのような相談ならば分かる。

では、何をしようとしているのか。

先輩からサプライヤーに申し入れてもらう、上司に交渉に同席してもらう。コストドライバー分析やら、データ比較でその価格の「高さ」を証明し、サプライヤーにぶつける?今後はリバースオークションにかける?

そんな対策案をずっと語っている。

が、どうしてもそのバイヤーには後輩の言うそれらが本質とは思えなかった。

まず、バイヤーが訊いたことは「まず、図面を見て確認したのか」ということだった。

返ってきた答えは「図面なんて見てません」。

そこで、バイヤーは怒り出した。

「お前!何を確認したんだ!」。

・・・・

その怒りだしたバイヤーは私だった。

最近、購買領域が注目されるにつれて、悪しき風潮も同時に出てきていると思う。

私は古い購買のやり方に違和感を持っていたので、新しいツール(e-RFQとかリバースオークションとかコストドライバー電子分析とか)を宣伝してきた側面もある。

しかし、である。

古いやり方を批判するのは、その古いやり方を身につけた後だと思う。

確かに、工場の現場に行って、タイムウォッチ片手に作業時間を計測したり、コストテーブルで各要素を計算することばかりでは、進化がない。

だけど、そういうことも知らないで、「はい、リバースオークションで下げましょう」というバイヤーはバカではないかと思うのだ。

まずは、「図面くらい読めろよ」と言いたい。

図面も読めない、サプライヤーの工場の工程も知らない。

そういう状態で、古いやり方を批判して、「今の職場では、自分を活かせない」と嘆いて見せたりしても、笑われるだけだ。

いや、多分、年配者からは単なる阿呆に見える。

・・・・

これまで年配者ばかりを批判してきた私が言うのもなんだが、「若いバイヤーはもっとモノを知れ」と言ってやりたい。

どうも、最近は仕事はパソコンの前でやるものだと思って、エクセルと高尚な知識だけを振り回し、普段はおとなしいくせにメールだけでは威勢の良い人が増えてきている。

文句言うくらいなら、図面の読み方くらい勉強しろよ(2回目)。

おそらく、購買の昔のやり方を批判して、それに対する拒否感を醸成したという意味では、私はB級戦犯くらいの扱いだろう。

ごめん。

だけど、30歳以上を信用するな、といったロックミュージシャンであっても、実は30歳以上の音楽家に精通していたのだ。

同じように、 旧世代のやり方を超えるためには、その手法に愛すべきほど肉薄した経験が必要となってくる。

・・・・

愛が憎悪に鮮やかに変更するように、一つの壁を越えるためには、その壁に同質化するくらいにぶつかってみることが必要だ。

コストテーブルの使い方から、図面の見方、タイムウォッチでの秒数計測から、VA/VEの基本、泥臭い現場監査まで。

ときには、年配者の声に心をかたむけてみるのもいい。

年配者は、多くの場合ヒマで(余計だった)、若手が質問してくれば、何だって教えてくれる。その状況を使わねばもったいない、と思うくらいのズル賢さは持っていてもいいはずだ。

まずは学んでみる。

そして、その限界点を知り、新たな道の模索を始める。

そういうことが、見直されてもいい。

いや、見直すよりも、まずやってみろよ。

じゃなければ、「今の若手はすごいんだぞ」って自慢すらできないじゃないか。

「バイヤーは、ジジイから学べ!!」

 

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