連載21回目「購買はモノを買ってXXを売る」~ある業種の視点で調達・購買業務を活性化する その4

サービス業のリチャード・ノーマの「サービス・マネジメント・システム」の5つの要素のうち、前回は2つの要素「マーケット・セグメンテーション」と「サービス・コンセプト」について調達・購買部門での例を挙げて説明しました。今回は5つの要素の残りの3つについて、調達・購買部門の視点から述べたいとおもいます。

1. サービス・デリバリー・システム

サービスの提供方法で、計画したサービス・コンセプトを実現するために、具体的なサービスを提供するシステムのことです。製造業で相当する機能は、生産と販売になります。リチャード・ノーマンは、人材、技術、そして顧客の三つを、主要な要素としています。人材については、以下の3.(3)「人的資源への投資」で述べることとし、ここでは「技術」と「顧客」について述べます。

(1) 技術

技術革新はさまざまなサービス業が提供するサービスの内容を大きく変えてきています。頻繁に利用している交通機関をみれば、技術革新が与えた変化を実感できるとおもいます。レストランの厨房やクリーニングの設備の技術進展がサービスの効率・効果を向上させています。サービス組織としての調達・購買部門にとっての技術とは、情報技術が大きな働きをしています。

この情報技術は、サービス活動の支援機能の強化・拡大につながっています。例えば、医療サービス業務では、医療診断の精度が情報技術により高められているのです。同様に、情報技術の進展により、調達・購買部門のサービスでは、他部門へ提供する取引先情報や調達・購買部材のQCD関連の情報の提供が、それらを必要とする他部門へ効率的に提供できるようになっています。

(2) 顧客

顧客がサービス・デリバリー・システムの一部である大きな理由は、サービスの共同生産者であるからです。これは、調達・購買部門の他部門へのサービス提供ないしは、会社の顧客に向けての連携活動でもいえることです。ノーマンは顧客がサービス生産に関与する機能いくつかを指摘しています。ここでは、そのうち調達・購買部門でのサービスに重要な、「品質管理」と「マーケティング」の二つについて述べます。

①品質管理

このシリースのその1でのべたサービスの特徴の一つである「生産と消費の同時性」により、顧客はサービスの提供をサービス提供者と同時に体験します。そのためサービスの提供者は顧客の評価を意識することになります。そのことが品質管理となっているのです。調達・購買部門のサービスを他部門に提供する場合でも、言葉やデータの分かり易さ、態度などが観察されているのは、実務を通じて理解されるところです。

②マーケティング

サービス活動の販売では「口コミ」が重要です。顧客がサービス提供者のマーケティングを行っていることになります。不満を持った顧客の方が満足した顧客より、多くの人にその評価を話すといわれています。顧客の感情に悪い影響を与えるような不満をもたせないこと、また適切な苦情処理を素早く行うことが大切です。これは、調達・購買部門のサービスを他部門へ提供する場合でも同じと言えます。

2. イメージ

ある会社の調達・購買部門が提供するサービスの内容と質が、社内部門や取引先により想い浮べられるものがこのイメージです。長い年月の中で強まり保たれるものです。例えば、「常に先端技術を取り入れて業務効率を高めている」、「次工程である他部門の利益を常に考えている」、などです。また、「返事が遅い」、「高慢な態度をとる」、などあまり良くないものもあるでしょう。

調達・購買部門で働く人たちから判断すると、「その通りだ」、「そんなものかな」、「それはひどい」などの反応になるかもしれません。その調達・購買部門で働く人たちからすれば、「返事が遅いことも時にはあるかもしれないが、質問の内容が複雑で検討に時間がかかるからで、ほとんどの場合は、その場で回答しているし、即答ができない場合でも24時間以内に返事をしている。」等、反論をしたくなるでしょう。

いずれにしても、単純化されて他の部門や取引先の人たちから持たれているのが、このイメージです。このイメージを良くするためには、品質の良いサービスを地道に行ってゆくことが最も手堅い方法です。また、このイメージは、ブランドとかなり重なったものといえます。このブランドについては、別途説明します。

3. 組織理念と文化

調達・購買部門で働く人たちの考え方や行動の仕方を決めるもので、五つの要素のなかでも、とりわけ重要なものです。調達・購買部門で働く人たちが行動の妥当性や適切さの判断基準となるものです。この判断基準は、世界の人類に共通のもの、日本人全体に共通なもの、そして地域社会など様々な大きさのグループに存在するものです。

この全体像を論じるのは紙面の制限上から不可能なので、ここでは、企業やさらに絞り込んで調達・購買部門での判断基準を述べます。企業の場合、理念のように明文化されたものだけではなく、社風のようにその会社で自然に共有されたものもあります。電機業界では、日本を代表する総合電機メーカーの一部である某三社は、以前はそれぞれ「お殿様」、「野武士」、そして「商売人」と言われたことがありました。これも社風の一種といえます。

さて、調達・購買部門の具体的な組織理念と文化について考えてみたいと思います。

ノーマンは、サービス業の組織理念と文化においてこの重要とおもわれるものを示していますが、そのうちの①品質と卓越性への指向性、②顧客志向、そして③人的資源への投資の3つについて、例を挙げたいと思います。

(1) 品質と卓越性への指向性

サービスを提供する部門として、優れた評価を受ける部門を目指すことです。これには結果としての提供サービスが高品質というだけではなく、提供する過程で最高の水準を志向するということです。例えば、調達・購買部品・材料の高い納期遵守性を提供するということだけではなく、それを実現するさまざまな過程である取引先選定、納期の長期化の察知方法、安全在庫の所有提言などを含めたリスクマネジメント、関連他部門とのコミュニケーション等で最高水準を目指すことです。

(2) 顧客志向

顧客志向は「顧客第一」、「お客様は神様」などの理念が企業で唱えられていることも多いと思います。これらの言葉を前面に出している企業は沢山ありますが、組織文化として社員一人一人、特にサービス業では顧客と直接接する社員のサービス業務に根付いたものになっていることが重要です。調達・購買部門でいえば、このシリースのその3(前回)の1.で述べた顧客に向け、2.で述べたサービス内容を提供するための内部顧客関係を重視する基本的な考えと行動のパターンを作り上げ、すべての調達・購買パーソンが次工程部門や会社の顧客に関して、顧客志向を実際の業務のなかで実行することが必要です。

(3) 人的資源への投資

サービス業でのエクセレント・カンパニーでは、社員を重視して、社員への投資を継続していると言われています。同様に、優れた調達・購買サービスを提供するには、調達・購買で働く人たちの人的資源を最も重要な資源とする必要があります。能力や性格という個性を重視して、そこに部門のヒトの活動源を見出して集中して動かすことが成功の鍵といえます。

次回は、サービスのマーケティング・ミックスを基に、ここまでに述べた「サービス・マネジメント・システム」の考え方も参考にして、調達・購買部門が提供するサービスを高める方法をなるべく具体的に考えてみたいとおもいます。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

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