連載23回目「購買はモノを買ってXXを売る」~調達・購買のブランド その1

「ある業種の視点で調達・購買業務を活性化する その4」で述べた「イメージ」で、「イメージは、ブランドとかなり重なったもの」と述べました。今回からは、このブランドについて考えてみたいと思います。ブランドという言葉は、調達・購買パーソンも良く聞く言葉だと思います。

私的な買い物をする場合も、製品などの種類によっては無意識にブランドを選んでして購入決定をしているのではないでしょうか。仕事では、調達・購買部門にとっては、自身が勤務する会社のブランドがあります。また、調達・購買の取引先のブランドも関係します。この二つは、すぐに思いつくのではないでしょうか。少し視点を変えて、皆さんが所属する調達・購買部門のブランドを考えたことはあるでしょうか。

いきなり、調達・購買部門のブランド語ると、ブランドのついての定義等の基本的な基盤が不明確なまま、具体論・詳細論に入ってしまうことになり、わかり難くなる可能性もあります。そこで、今回は、ブランドとは何かを述べてみたいと思います。詳細に述べるとかなりの量になってしまうので、目的である調達・購買のブランドに関連しそうな項目に絞ります。

1.米国マーケティング協会によるブランドの定義

次のように定義されています。「個別の売り手もしくは売り手集団の財やサービスを識別させ、競合他社の財やサービスと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはそれらを組み合わせたもののこと」

2.ブランドの持つ6つの意味

分かり易くするために、トップ自動車メーカーの高級ブランド車と低排気量中心の大衆ブランド車の例で説明します。ここでは、実際の社名・ブランド名を挙げるのは控えますので、ご自身で具体例を想定してください。

(1)属性

事物がもっている性質や特徴のことです。高級ブランド車では高い技術力と耐久性、高い価格と高い威信を連想させますが、大衆ブランド車では手ごろな価格と親しみやすさが連想されます。

(2)ベネフィット

属性がもたらす利益や恩恵のことです。高級ブランド車では耐久性により「長年にわたり運転できて買い替えの必用がない」という機能的利益、またその車の持つ威信感は「自分の社会的地位の高さが他の人から認識される」という感情的な恩恵となります。一方、大衆ブランド車では安価な価格が「経済的な負担が少ない」という機能的な利益、また馴染みやすさがあるので、「親しみやすい人柄で広く交友関係を築ける」という感情的な恩恵につながります。

(3)価値

メーカーの価値もブランドによって示されます。高級ブランド車は高性能、重厚感を表します。一方、大衆ブランド車は機動性の高さや手軽感を示します。

(4)文化

ブランドは、また、ある特定の文化(国・地域・企業など)を象徴しています。高級ブランド車は、例えば欧州車の場合は、その国の文化の象徴かもしれません。大衆ブランド車の場合は、創業者の精神を受け継ぐ、より多くの人に良いクルマを提供するという企業文化かもしれません。

(5)個性

ある個性をブランドが伝えます。高級ブランド車は、厳格な経営者・父親、建造物で言えば歴史のある堅牢なお城のイメージがあります。一方、大衆ブランド車は、近所の気さくな商店主、建物でいえば気楽に入れる公民館というイメージでしょう。

(6)所有者・使用者

購入や使用する人のイメージもブランドは伝えます。高級ブランド車を運転するのは、経験を重ねた企業の経営層の人であって、20歳代の経験が浅いビジネス・パーソンではありません。大衆ブランド車の場合は、この逆です。

3.ブランドを顧客に認識してもらうための活動(ブランディング)

(1)活動の種類

様々な販売促進もこれに相当する活動ですが、具体的には、報道機関に向けた情報提供、広告・宣伝ポスター、TVコマーシャル、キャンペーンなどがあります。また、CRM(customer relationship management)、という営業戦略手法の活用もあります。顧客それぞれの購入・商談の履歴、趣味、好み、家族構成などの情報を一括して管理し、全社で一貫した顧客対応ができるよう、情報システムを活用して情報の管理や分析を行う手法です。日本語では顧客関係管理と言われてます。

(2)効果

この活動(ブランディング)がもたらす効果には、①価格競争からの回避できること、②優良仕入れ先が有利な条件で取引をしてくれること、③優秀な人材の採用が可能となり、その定着率も高まること、そして④社員のモチベーションが高まり、会社への愛着心が強くなること等、が挙げられます。

次回からは、まず前のシリースでの説明を基に、サービス業でのブランドの基本的な考えを述べます。そしてその次に、そのサービス業でのブランドを踏まえて、「調達・購買のブランド」について考えてみたいと思います。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

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