連載24回目「購買はモノを買ってXXを売る」~調達・購買のブランド その2
今回は、前のシリーズ「ある業種の視点で調達・購買業務を活性化する」での説明を基に、サービス業でのブランドの基本的な考えを述べます。
1. サービス業でのブランドはイメージ
ブランドというと、私たちが生活のなかで電気製品などの買い物をするときに目に入る製品に印刷されたり、刻まれたりしているネーミングが思い浮かびます。サービス業では、そのような形のある製品を提供するわけではありません。
前回のシリーズ「ある業種の視点で調達・購買業務を活性化する」のその2で述べたサービス・マネジメントの全体像の一つの項目である「イメージ」がサービス業ではブランドと同義です。このイメージは単純化され、強化され長い間保持されます。例えば、皆さんご自身が利用している理髪店や美容室が多店舗展開しているような会社組織であった場合、その理容店や美容室はどのようなイメージをもっているでしょうか。そして、そのイメージは、10年前と比較してどのように変わっているでしょうか。
2.サービス業の特性を認識したブランド形成
前回のシリーズ「ある業種の視点で調達・購買業務を活性化する」のその1で述べたように、モノと比較して4つの特性があります。すなわち、①形が無い(無形性)、②仕様、品質等が同一とは限らない(変動性)、③在庫は不可能(継続性)そして、④生産と消費のタイミングが同時(不可分性)の4つです。
つまり、サービスには形がなく、品質なども一定ではなく、また事前に他社との違いを認識するのが難しいのです。つまり、サービス業でのブランド形成では、顧客市場での認知度を高め、好ましい印象を認識してもらい、その好ましい印象を強化し続けることにより、さらに認知度を高めて、良い印象を生み出すという、好循環を生み出すことがブランド形成の活動になります。
3.サービス業でのブランド形成の成功要因
上記2.でのべた「ブランド向上の循環を生み出す」ことは容易ではありません。
ここで重要となるのが、サービス業企業で働く社員の役割です。サービス品質では、結果品質はもちろん重要ですが、反応性、確信性、共感性という過程品質も重要になります(前回のシリースのその2にある(3)サービス品質の基準を参照)。
つまり、ブランド形成にとって重要なサービス品質では、特に過程品質が大きく、その評価を担うのが社員です。例えば、ホテルのチエックインの時のスタッフ(社員)の応答がスピーディでなく、態度や口調に誠意が感じられなかったどうでしょうか。そのような場合、たとえ宿泊部屋が良くて、料金が手ごろでもそのホテルへの評価は、高くはならずイメージ(ブランド)に良い影響を与えません。
また、サービスの特性の四つのうちの一つである不可分性(生産と消費のタイミングが同時)という点からも、サービスを生産する社員を通して、顧客は提供されるサービスをその場で消費するのです。つまり、サービス企業の社員によって直接顧客に提供された品質のサービスが、その場で顧客に評価されるのです。そして、その評価は口コミで広がります。ネットが発達している現代では、この口コミは極めて速くかつ広範囲に伝わります。
ここまで、サービス業でのブランド形成の成功要因として社員と顧客を挙げました。
ブランド形成の成功要因のキーとなるものは、組織文化の一つとして、「サービス企業としてどのようなブランドを創り出してゆくのか、顧客にどのような約束をするのか」を述べたブランドのビジョンを明らかにすることです。美容サービス業を例として、具体的に述べると次のようになります。
“お客様のイメージするお気に入りのスタイルを実現するために、丁寧で高度なカット技術を発揮し、心を込めたサポートをする。そして、リラックスした空間のなかで、「居心地のいい美容室で美しくなれる心地よいひと時」を提供する。”
今回は、前のシリーズ「ある業種の視点で調達・購買業務を活性化する」での説明を基に、サービス業でのブランド形成の基本を述べました。今回のサービス業でのブランド形成を踏まえて、次回は「調達・購買のブランド」について考えてみたいと思います。
著者プロフィール
西河原勉(にしがはら・つとむ)
調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士
総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験
・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)