連載25回目「購買はモノを買ってXXを売る」~調達・購買のブランド その3

今回は、調達・購買部門のブランドについて述べます。その1とその2でのブランドについての概論を基に考えます。調達・購買機能をサービスとして外部企業へ販売・提供している会社もありますが、ここでは、企業の一部門としての調達・購買部門を対象とします。

企業の一部門としての調達・購買部門は、サービスを外部に販売していません。サービス業のように企業ブランド(イメージ)を優れたものにし、売上目標を達成して目標利益を実現するわけではありません。それで、何のために調達・購買ブランドを向上させるのでしょうか。

1. 調達・購買部門がブランド(イメージ)を向上させる目的

社内連携部門の協力や調達・購買取引先の支援を得やすくし、調達・購買活動の目的である調達・購買品の品質、コスト、納期などの向上を実現するためです。企業組織としての最終目的は、会社の経営ビジョンの実現ならびに経営計画達成に貢献することです。

2. 調達・購買部門のブランド

調達・購買部門のブランドは、調達・購買部門が自社の他部門(特に連携部門)、経営層、調達・購買取引先からもたれているイメージです。

3. 調達・購買部門のブランド形成

その2でサービス業のブランド形成のための成功要因の例として、①人材、②顧客そして、③組織文化の一つとしてのブランド・ビジョンを挙げました。調達・購買部門のブランド形成もこの3つに沿って考察します。調達・購買部門もひたすら仕事をこなすだけではなく、他部門や経営層などが持つ調達・購買部門へのイメージを良いものにすることが必要です。このイメージを良いものにすれば、貢献度も向上するのです。

その2では、人材、顧客、ブランド・ビジョンの順似述べましたが、ここでは初めにブランド・ビジョンとその形成の基盤となるものを述べて、その後に人材、顧客などについて述べます。

(1) ブランド・ビジョン

調達・購買部門のブランド形成の目的は、上記のでも述べましたが、調達・購買品の品質、コスト、納期などの向上を実現するためです。そして、企業組織として、会社の経営ビジョンの実現ならびに経営計画達成に貢献することです。したがって、ブランド・ビジョンの上位概念としての、会社の経営ビジョン・中期経営計画とそれを実現するための、できれば調達・購買ビジョン、少なくとも調達・購買部門の中期計画を作成する必要があります。

しかしながら、調達・購買部門は外部に向けたサービス業ではないのでブランド・ビジョンまで策定する必要はなく、かつ現実として策定するモチベーションも部門長や管理職責任者にあまり湧かないのではと推察します。そこで、会社の経営ビジョン・中期経営計画とそれを実現するための、調達・購買部門の中期計画を実現するために、以下に述べる「人材」と「顧客」などの視点から、調達・購買部門のイメージをどのように向上させるかを考えるのが、現実的・実務的な対応です。

もちろん、調達・購買部門としてのブランド・ビジョンがあれば理想です。ブランド・ビジョンを策定する場合に考慮することは、上記のビジョンや中期計画の他に業界の特性や社風も考慮した表現(言い方)にすれば、多くの人が馴染みやすいものになります。

また、当たり前で良く見られるものではなく、自社・部門の特性が表された絞り込まれて先のとがったものを勧めます。例えば、商人文化のある企業なら、「・・・稼ぐ調達・購買部門・・・」など、ビジョンのなかに稼ぐという言葉を入れるのも一つの方法です。「・・・調達・購買資材のCDQを達成する・・・」だと、当たり前すぎます。また、現在自社の他部門・経営層からもたれている調達・購買部門のイメージを変える表現にすることも必要です。

(2) 人材

調達・購買部門の人材育成を体系的かつ計画的に実施することにより知識とスキルを高めることは基本です。これらは、多くの企業では、主に「知」の教育・訓練となります。その2で述べたように、イメージを高めるには、結果品質を満足なものにするのことは当然ですが、反応性、確信性、共感性という過程品質にも大きな留意が必要です。これは、社員によって実行されるもので過程品質では「心」の働きも重要となります。

これらの反応性、確信性、共感性も教育・訓練で強化する人材育成が求められます。また、組織としては、部門長の他、調達・購買部門ブランド(イメージ)を高める意識と行動力のある管理職クラスのリーダーが必要です。また、一般社員の中に、イメージを高めようとする意欲の高い調達・購買パーソンを複数育てることも良い成果を達成するための鍵となります。

(3) 顧客

調達購買部門にとっての顧客は、自社の営業部門、開発・設計部門、製造部門、品質部門などの他部門、経営層です。考え方によっては、調達・購買取引先も顧客になります。調達・購買パーソンのサービス活動を受けるこれらの部門の人たちの評価が高いものになるように工夫しなければなりません。

これらの部門との日々の連携活動で、目標とした結果を達成するだけではなく、連携活動の過程である会議、メール交信、などで優れた反応性、確信性そして共感性を連携部門のメンバーに示すこともイメージ向上で大きなものとなります。それにより、他部門内や他部門間で良い評価が多数の人たちに伝わり、調達・購買部門のイメージが良くなるのです。

(4) その他

調達購買部門のイメージを高めるには、調達・購買部門のオフィス配置や掲示物などを工夫することも必要です。具体的な方法は、「ある業種の視点で調達購買を活性化する その5」のマーケティング・ミックスの展開方法でのべた「物的環境要素」にのべてあります。連携部門の人たちが調達・購買のオフィスに来た時に専門性を印象付ける工夫をし、信頼感を醸造して、イメージを向上させます。

調達・購買部門のブランドは、他の会社の調達・購買部門との差別化のためのものではありません。ここでは、調達・購買業務という仕事に、自社内で一般的にもたれているイメージを競合とします。例えば、誰でもできる気楽な仕事、机を叩いて価格交渉する以外の特別知識・スキルの必用がない仕事などのイメージを持たれている会社でしたら、そのようなイメージを一掃して、新しいイメージを社内に植え付けることがブランドの目指すものです。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

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