第二回:開発購買の定義・意義ならびにコスト低減の具体的な実行策

1.開発購買の定義・意義

(1)開発購買の定義

ここでは開発購買を次のように定義します。

調達・購買部門が営業部門、開発・設計部門などの社内部門や調達・購買取引先と実効性の高い連携を行うことにより、新規開発製品の原価目標ならびに量産立ち上げ時の調達・購買品の納期要求と品質要求を実現し、さらに新規開発製品のライフ・サイクル全体で調達・購買品のトータル・コストならびに調達・購買品の未納リスク・品質不良リスクを最小化する活動。さらに、現行取引先の材料・部品・工法の活用ならびに新規取引先の開拓をする活動。

(2)開発購買の意義

開発購買は調達・購買の活動を当社製品の市場・顧客まで広げ、製品・機能ベースの考察をもたらし、かつ貢献領域を製品開発の初期、さらに商品企画まで拡大します。これにより、会社の業績向上へのさらなる貢献を実現し、調達・購買部門の存在感を高め、それを推進する調達・購買パーソンの知識とスキルを広げ充実させます。

2.コスト低減の手法

この項目2では、調達・購買のコスト低減の具体策の概要を述べます。そして、次の項目3で、開発購買として製品開発期間の特性をどのようにコスト低減に活かすことができるのかを、コスト低減手法の例を挙げて説明します。

調達・購買が行うコスト低減の主体は調達・購買品の価格低減ですが、次のような手法があります。

  • あい見積もり

複数の取引先候補から価格を入手して、比較や競合を通じてコストを低減する手法。

  • 調達・購買品型番の標準化

特性、規格、形状、材質などの仕様を制限して特定し、型番当たりの数量を増やしコスト低減をする手法。管理コストやロスの低減にもなる。

  • 調達・購買取引先の集約

調達・購買取引先数を集約して、一社当たりの調達・購買金額を増やすことにより、調達・購買単価を低減する手法。

  • VE

機能とコストの比率である価値を高める管理手法。コストに焦点を当てると、コスト低減を実現できる。

  • ティアダウン

自社製品と競合関係等にある他社製品を分解して、新技術・工法・部品・材料等についての比較分析により、自社製品の製造法や部品・材料の合理化を実現する手法。コスト低減に主体をおいたものは、コストティアダウンと呼ばれる。

  • 取引先の生産工程改善

取引先の製造現場での工程改善を取引先や当社他部門と連携して行うことにより、製造コストを引き下げ、当社の調達・購買品の単価を低減する手法。

  • 調達・購買契約

数年単位で購入数量を提示して、毎年の価格低減を明記した契約書を交わすことによるコスト低減方法。

  • 価格交渉

年度単位など定期的に、もしくは必要に応じて、調達・購買品の価格引き下げの交渉をすることにより、調達・購買価格を低減する方法。

これらは全く別々の独立した手法ではありません。例えば、⑤ティアダウンから④VEのヒントを得ることもあります。状況により、①あい見積もりは、⑧価格交渉の手段になります。⑦調達・購買契約を結ぶ(前)段階で、⑧価格交渉が行われます。

3.製品開発初期でのコスト低減活動の有効性

製品開発初期(調達・購買品の仕様決定前、調達・購買品取引先決定前)でのコスト低減活動は、大きな効果をもたらす可能性があります。VEと価格交渉を例に、量産開始後とのコスト低減の可能性と効果を比較すると、以下のようになります。

(1)VE

(ア)VE手段の例            :

*調達・購買品が調達・購買取引先の標準品での例

使用型番の集約、新規低コスト品番の採用、低価格の類似品へ変更、等。

*調達・購買品が当社の図面品、仕様指定品での例

寸法の変更、寸法公差の変更、形状の変更、代替品の採用、加工法の変更、材料の変更等。

(イ)開発初期のVE        :

仕様が決定する前なのでVEへ対応する可能性は大きい。

(ウ)量産開始後のVE     :

型番・仕様が決定しており、VEによる型番・仕様の変更には対応可能性の検討に社内関連部門(開発・設計部門、品質部門等)の評価・検討・合意、また場合により顧客の評価・検討・合意も必要です。そのため、コストがかかり、正味低減効果金額はその分小さくなります。また、評価・検討の期間が必要で、さらに承認されても旧型番・仕様品の在庫がなくなるまで適用は開始できないため、実効適用期間はその分短くなります。

(2)価格交渉

ここで述べる価格交渉には、あい見積もりを活用した価格交渉、調達・購買契約を締結するための価格交渉も含まれます。

(ア)開発初期(調達・購買品取引先決定前)の価格交渉       :

調達・購買品取引先を決定する以前の価格交渉は、新規取引先であれば、参入意欲、また現行取引先であれば取引継続(失注回避)意欲という取引先決定前の特有な誘因(意欲)に働きかけることができます。調達・購買の取引条件(将来の見込みも含めた数量、その他)などの経済合理性誘因に加えて、このような特有な値下げ誘因を活用することができるのです。

(イ)量産開始後 (調達・購買品取引先決定後)の価格交渉:

量産後の交渉による価格低減は、多くの場合、取引先の原価低減や利益削減次第となるため、値下げ交渉の結果は、主として経済合理性によります。

→2018年7月24日(火)に「開発購買セミナー」を実施しますのでご興味があればご覧ください。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

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