連載27回目「品質管理・保証体制問題の多発と調達・購買パーソンの対応 その2」
多発する品質管理・保証体制問題について、製造業に携わってきた人たちとの意見交換等を基に、私なりの視点から考えてみたいと思います。今回は、日本の製品の高品質を実現して支えてきた環境について述べます。
1.「安かろう、悪かろう」から「メイド・イン・ジャパン」品質へ :
第二次世界大戦後間しばらく日本製品は、「安かろう、悪かろう」と言われていました。日本製品の価格は安いが、故障が頻発し品質はかなり低いものだったのです。戦後しばらく日本製造業は、低いコストで、品質管理・保証の体制や仕組みもなく、高い品質を製品に造りこんでゆける人材もいかなったのです。そのような日本の製造業がどのように高い品質の製品を生み出していくようになったのでしょうか。
それは、製造業が品質の高度化に資金を投じてきたのと、品質の高度化を実現する品質保証・管理エンジニア、製造現場の人材が育ったためでした。また、日本科学技術連盟によるデミング賞の創設などは、業界全体を挙げての製品の高品質化の仕組みづくりの基盤となり、日本の製造業の品質保証・管理体制づくりを推進したのです。この品質強化を後押ししたのが、日本の高度経済成長でした。
この期間に日本の製造業は利益を生み出し、その利益を設備投資、品質保証・管理や製造に携わるの社員の教育・訓練や賃金等に投じてきたのです。品質保証・管理のために様々な手法が生み出され、製造現場には、作業の標準化などの手法や、最新の装置や器具が導入され日本製品の品質向上の秘訣となった品質の造り込みを実現し安定させました。
また、高度成長で人々の日々の生活が毎年向上したことも要因となり、製造現場のものづくり(品質づくり)を与る人たちのモチベーションも上がり、製造現場で高い品質を造りこむ原動力となりました。それを、さらに高めたのがQCサークルなどの小集団活動でした。
2.製品品質の高度化を進めた人たち :
日本の製造業の品質の高度化を支えてきたのは、経営者、品質保証・管理部門の人たち、そして製造現場の人々でした。企業の上層部から製造現場のさまざまな部門・業務の人たちまでが同じ方向を向き、高品質な製品で世界を席巻してきたのでした。
品質重視の経営戦略・方針、品質保証・管理部門による品質保証・管理の仕組みづくりや高性能な検査機器等の導入、そして製造現場での作業の標準化やQCサークルなどの小集団活動による具現化が調和して、あたかも相乗効果を出すように、非常に良いサイクルが回っていたと言えます。
3.当時の欧州のメーカーと日本のメーカーの目標品質実現方法の違いの例 :
この時期に日本の製造業の競争相手だったのは欧米の製造業でした。その欧米の製造業には、品質保証・管理部門や製造現場の人材を活用して、品質を高度化するという考えは日本の製造業と比較するとかなり希薄だったと考えられます。これを象徴するものを体験した記憶があります。
この時期は、日本のオーディオ、TV,VTRがまだ世界のトップを走っていました。このころ私は、欧州の総合電機メーカーと日本のメーカーのVTRの設計、コスト、組み込み部品などを比較するチームの一員でした。そこで、見たのは欧州の某メーカーのVTRのPCB基板には部品が整然と組み込まれている一方、日本の某メーカーのVTRではPCB基板上に配線用のワーヤーや後付けの部品が沢山あり雑然としていたのです。
つまり、欧米の製造業は製品の開発・設計段階で目標とする品質やコスト実現しようとし、製造現場は開発・設計エンジニアが指示した通りに造りこむだけだったのです。一方、日本の製造業では、量産開始後も品質保証・管理部門や製造現場からの造りやすさや品質不良の回避のための提言を基に、後付けの設計変更を頻繁に行い高い品質を実現していたと考えられます。
なぜ、品質保証・管理体制がほころんでいるのでしょうか?2018年にマスコミに取り上げられたのは、体制(経営・管理)の問題で、製品自体の品質問題ではありません。しかし、このような事態の再発防止をする対策を取らないと日本製品自体の品質が悪化して、メイド・イン・ジャパンのイメージが転落することになりかねません。
次回は、日本の製造業はジャパン品質のブランドの転落を避けるために何をすべきかを考察して、調達・購買パーソンの調達・購買品・資材の品質への関与のありかたを述べます。
著者プロフィール
西河原勉(にしがはら・つとむ)
調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士
総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験
・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)