連載20回目「購買はモノを買ってXXを売る」~ある業種の視点で調達・購買業務を活性化する その3

前々回と前回のサービス業の概要説明を基に、今回からは、サービス業としての調達・購買部門について述べてゆきます。これまでサービス業の概論を基に、調達・購買機能での例をあげて考えます。

まず、その2で説明したリチャード・ノーマンの「サービス・マネジメント・システム」の5つの要素に基づき、調達・購買業務では、それぞれの要素は具体的には何かを述べます。

この5つの要素は、繰り返しになりますが、「マーケット・セグメンテーション」、「サービス・コンセプト」、「サービス・デリバリー・システム」、「イメージ」並びに「組織理念と文化」です。これらの5つの要素のうち、今回は初めの二つ「マーケット・セグメンテーション」と「サービス・コンセプト」について調達・購買部門での例を挙げて説明します。

1. マーケット・セグメンテーション
調達・購買部門にとって誰(どの部門)が顧客となるのでしょうか。直接的には、開発・設計部門、生産部門、品質部門、営業部門、そして経営層などが顧客となります。顧客として部門名を網羅的にあげましたが、それぞれの調達・購買パーソンが担当している業務や職位で関与の比率の大小が変わってきます。

例えば、開発購買を主たる業務としている調達・購買グループやパーソンの場合は、開発・設計部門の比率は極めて高いものになります。また、会社製品の品質に大きな影響がある資材の調達・購買担当であれば、品質部門の比率はかなり高くなります。さらに職位が高ければ、経営層の比率が大きくなります。別の言い方をすれば、調達・購買パーソンそれぞれの業務内容や立場に沿って、どの顧客に活動資源の重みを置くかを認識することも必要です。

2. サービス・コンセプト
セグメンテーションと表裏の関係にあります。顧客の要求事項に対応して、要求を満たすサービスの内容がサービス・コンセプトです。上記のマーケット・セグメンテーションで述べた部門ごとの調達・購買への要求事項は、明確だと思いますので詳細は述べません。

サービス業一般では、このサービス・コンセプトの種類は膨大なものになります。これらを、いくつかにまとめると次の4つになると言われています。
①特別な能力の提供、
②資源の新しい結合、
③ノウハウの移転、そして
④経営の提供です。

考察を深めれば、これらの四つすべてに調達・購買のサービスを関連づけることができるかもしれません。しかし、ここでは、調達・購買のサービスに最も関連していると考えられる①の特別な能力の提供について述べてみたいと思います。この特別な能力もいくつかのパターンがありますが、そのうちの二つについて説明します。一つは、「顧客が自ら行うことと比較して、より効率的に行うもの」です。美容院、理髪店、クリーニング店が提供するサービスはこの例です。

また、総務や人事などの外注化代行サービスもこの例です。もう一つは、「顧客が持っていないスキルの提供」です。病院、会計事務所、弁護士事務所などがその例です。調達・購買機能でもこの特別な能力である「より効率的に行うスキル」と、「他部門がもっていないスキル」を意識して、調達・購買パーソンの個人単位そして組織として拡大・深化させてゆくことが必要です。調達・購買の業務(サービス)がこの二つのどれに相当するのかを判断するのは、容易ではないかもしれません。

例えば、「より効率的に行うスキル」では、新製品開発での目標材料費の達成活動があります。開発・設計部門の技術者は、調達・購買部門が関与しなくても、自分だけの活動でこの目標を達成できると、考えているかもしれません。そこで、調達・購買部門はあらゆる手法とスキル(調達・購買取引先や型番の選定、VE,開発初期の特性を生かした交渉など)を活用して、目標以上の結果を出して、調達・購買部門が「より効率的に目標を達成できるスキル」があることを開発・設計部門に認識させることが必要なのです。

「他部門がもっていない調達・購買部門のスキル」の例としては、組織的なリスクマネジメントで、調達・購買取引先の倒産や事業撤退の予知・対応、経営層や他の部門も巻き込んだ調達・購買取引先との総会での全社や調達・購買部門を含めた様々な部門の優れた機能を外部へのアピールする企画・実行、調達・購買取引先の評価等があります。このようなスキルは、組織として深化させなければなりません。同時に、調達・購買部門内にこれらの業務に高いスキルを持つ人材を育成することも欠かせません。

今回はサービス業のリチャード・ノーマの「サービス・マネジメント・システム」の5つの要素のうち、「マーケット・セグメンテーション」と「サービス・コンセプト」の2つについ調達・購買部門での例を挙げて説明しました。次回は5つの要素の残りの3つについて述べます。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

あわせて読みたい