連載8回目「購買はモノを買ってXXを売る」~自然災害の多発で思うこと (調達・購買のリスクマネジメント)その5

その3と4では、「想定外」について述べました。今回は、「広域性」について述べます。

自然災害の「広域性」では最近の台風21号と24号,そして2011年の東日本大震災があります。広い地域に大きな被害をもたらしました。とくに東日本大震災は、範囲は広大で、被災の大きさは非常に大きいものでした。現在発生が懸念されている、南海トラフ巨大地震が発生した場合は、東日本大震災と比べてもさらに広域に巨大な被害をもたらすとされています。

自然災害での、「広域性」は、調達・購買取引先の生産活動に大きな影響をもたらし、購買資材の供給が長い期間に渡って止まってしまうという事態をもたらします。これは東日本大震災で、調達・購買の皆さんが経験をしていると思います。しかし、ここでは、自然災害での「広域性」ではなく、経済活動や事業活動面での調達・購買リスクの「広域性」を、特定の例で述べてみたいと思います。

ここで述べる調達・購買資材の供給面での問題面での「広域性」は地理的な広域性ではありません。ここで言う広域性は、「特定のサプライヤー特定の部品」の供給面での問題発生ではなく、「多種な部品・材料の需給逼迫」という広域性で、その部品・材料を使用する業界も広域であることです。

2009年夏から2010年春にかけて引き起こされた、電子部品の全般的な需給逼迫がその実例です。この時は、メモリーをはじめとする半導体,受動部品,外部記録装置,ディスプレイなど、電子機器を支える中核部品が,需要に供給が追い付かない事態が巻き起こったのです。 2010年に入り,機器メーカー各社から悲鳴にも似た叫び声を聞く機会が多くなっていました。例えば,某社は「関連部品の調達遅れ」が原因で,液晶テレビやカーナビ等の発売を延期したのでした。

また、半導体をはじめとした電子部品や大手電子部品などの模造品が出回り、その模造品を組み込んだ多くの機器メーカーが品質問題を引き起こしたのでした。このような状況で、電子部品等のメーカーはウェブ・サイトなどを通じて、模造品への注意をよびかけていました。

この広域性(多種の部品での需給逼迫)での時系列の対応例を、その2で述べた時系列の活動事項に従って、以下の通り、平常時の対応と事態発生後の対応(初動対応から全面普及まで)について説明します。初めに平常時の対応での具体例を述べます。

(1)平常時の対応:

「広域性」での対応は、容易ではありません。しかしながら、平常時からできる限りのことを実施しておくことです。「多種の部品・材料での需給逼迫」での平常時での対応のポイントは、①事態発生の予知方法を検討し認識しておくこと、②事態発生後の部品・材料入手の可能性を高くしておくこと、そして③模造品の使用回避の方法を決めておくこと、です。多種の部品・材料での需給逼迫での平常時の対応の具体例を、以下の通り述べます。

① 事態発生の予知方法を検討し認識
調達・購買取引先との通常の打合せ、業界誌、新聞などからある特定の業界での生産の急激な上昇、新興国など海外での需要の急激な増加などに日頃から留意しておくことが必要です。また、自社が調達・購買している部品の納期遅れの頻発や納期の長期化などがあったら注意が必要です。そのような兆候を認識した場合、どのような対応を取るかを決めておきます。例えば、長期の先行発注、安全在庫の保有開始や数量の積み上げなどがその対応の例です。

② 事態発生後の部品入手の可能性を高くしておくこと
部品・材料の面での対応と調達・購買取引先関連での対応があります。

(ア) 部品・材料の面での対応
特殊性を少なくすることが主な対応です。特殊な仕様を避けたり、特定のメーカーでしか製造していないものを回避したりしてするのが、その具体的な方法です。これは、自社の商品力との関係もあり、容易ではありませんが、開発・設計の初期段階でリスクマネジメントも考慮して、部品・材料選定をすることが勧められます。

(イ) 調達・購買取引先関連での対応
一つには、調達・購買先を複数化することです。メーカー、いくつかの商社などなるべく多くの調達・購買可能な取引先との取引関係を日ごろから改善維持しておきます。このような対策は、取引先絞込みによる取引先関係の強化やコスト低減活動の方針には反する活動ですので、全般的な判断の基での実効性のある対応が必要です。

③ 安全在庫の保有
上記の②での対応が難しい部品・材料に関しては安全在庫を持つ方法があります。どのような部品・材料にどれ位の数量の安全在庫が必要なのか、判断基準を定めて対象となる部品・材料を決めます。実際の在庫数量を毎月チェックするなどの日常の対応も必要です。

④ 模造品の使用回避
部品・材料の不足への対応の最終手段の一つとして、日ごろ取引のない商社や、部品不足の回避をセールス・ポイントにしている商社などから購入せざるを得ない場合もあります。市場全般で部品・材料の需給が逼迫している場合は、このような日頃取引関係がない商社からの購入では模造品が納入されることもありえます。特に後者のような商社からの購入には留意をしなければなりません。自社の生産に投入する前に、どのような受入検査を行うかなどの規定を、品質や生産部門などと決めておくことが必要です。

次回は、「多種な部品・材料の需給逼迫」という広域性事態が発生を認識した後の、初動対応から全面復旧までの対応例について述べます。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

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