連載16回目「購買はモノを買ってXXを売る」~学び、飛び立ち、そして独自の世界で永遠の旅を続ける その3

前回のその2では、守破離の「守」について、調達・購買の仕事の例も挙げて説明しました。

今回は「破」について、具体的な例で説明します。

「破」は、直属の上司・先輩以外の師の考え方や行動について、観察したりまねてみたりしてスキル・知識をさらに発展させる段階です。「守」の段階で出会い、アドバイス等をくれたり、考え方や行動に共感を受けたりする人たちがいると思います。そのような人たちから教えを受け、また自らの考察の場を広げる段階とも言えます。

また、「守」の段階で、自ら考えてきたことを発展させる段階でもあります。この「破」の段階で知識・スキル向上の牽引力の一部となるのは、「自己の強みへの認識」と「将来の希望」です。それぞれ、「押す力」であり「引く力」であるとも考えることができます。

調達・購買の仕事で、例えば、コスト低減について考えてみましょう。「守」の段階での上司・先輩がこのコスト低減を、調達・購買取引先との価格交渉だけで、それなりの成果を上げてきたとします。このような師から、交渉の技法について学び深めることは大切です。

しかし、その段階で触れ合った「原価管理」や「開発・設計」の人たちの考えからもコスト低減の手法を学ぶことが、この「破」の段階では必須です。例えば、「開発・設計」のエンジニアたちはどのようにコスト低減をしているのかを観察し、質問しても良いでしょう。そのようなコミュニケーションで学びが生まれます。開発・設計部門としての低減の手法を知ることができます。部品・材料の標準化はその一つかもしれません。

また、疑問もでてくると思います。いや、疑問をもたないと「破」とは言えません。但し、疑問が開発・設計エンジニアへの非難ではなく、建設的な提案になるように自らも考える必要があります。例えば、標準化した部品でそのエンジニアが採用しようと考えている取引先よりもっと適切な取引先があるというような提案です。

また、エンジニアとのやりとりのなかで、考察の範囲もコスト以外の要因である品質や納期へと広がってゆきます。例えば、そのエンジニアが自らのアイディアを実現するために取引先での開発が終了したばかりの新規の部品・材料を組み込もうとしていた場合、調達・購買の担当としては、品質の安定や納期の確保は大丈夫なのかという懸念が生じるでしょう。そこで、調達・購買担当としては、別の部材メーカーの既存の類似品を代替品として提案したりします。

この代替品の採用が不可能な場合、品質や納期問題発生への対応として、何をすべきなのかを考え実行することになります。これが、「破」における考察の場の広がりです。

また、「破」の段階では、目を社外に向けて学ぶ方法もあります。例えば、外部の会社や機関が開催するセミナーで様々な手法を学ぶことも良い機会です。「守」の段階でも外部セミナーを受ける機会があります。

しかし、「破」の段階でのセミナーは、「守」の期間に考えてきたことの体系化の拡充や、「守」の段階で生じた疑問への回答の探索の場になります。受講姿勢がより積極的になるのです。セミナーの他に多様な業種の調達・購買部門の人たちと交流して、情報交換や意見交換をすることも、「破」の段階の活発化になります。

ところで、「守」と「破」にはどれくらいの期間をかけるべきなんでしょうか。ある大企業の社長は、新入社員に「2年で一人前になれ!」とスピードのある旅立ちを要求していました。何年か前の話なので、その当時と比較して変化が速い現在のビジネスでは、このトップの方は今では新入社員にどのようなスピードを要求しているのでしょうか。

次回は、「離」です。「破」の次にくる「離」では、どのようなことが待ち受けているのでしょうか。実例も挙げて、述べたいとおもいます。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

あわせて読みたい