第三回:開発購買での調達・購買品の品質マネジメント

ここで述べる品質に関連する業務は、品質の専門家が実行する品質管理や品質保証ではありません。調達・購買品(資材)の品質について調達・購買部門のバイヤーの視点から述べたものです。

調達・購買資材の品質を最適にするために、当社の品質部門などと連携し、取引先の協力を得たり、取引先を指導しながら、様々な手法を活用し調達・購買品の品質を改善し維持することです。そのため、ここでは、品質マネジメントと呼びます。

開発購買での品質マネジメントに関する任務は、その定義で述べたように、「一つ目は、当社新規開発製品のライフ・サイクル全体で調達・購買品の品質不良リスクを最小化すること、二つ目には、この新規開発品の量産立ち上げ時の調達・購買品の品質要求を実現すること」です。この二つを実現するための具体策を、以下の通り述べます。

ライフ・サイクル全体で調達・購買品の品質不良リスクを最小化すること

1.1 要求する品質の調達・購買品を提供できる取引先の採用

(1)調達・購買取引先が当社要求の品質水準を実現する体制・仕組みを持っていること

現行取引先については、すでに実施している体制・仕組みの評価や、納入品の品質実績などを基準に評価の高い取引先を選定の対象とすべきことは言うまでもありません。

しかし、新規取引先の場合、候補となる取引先の品質管理体制などを評価し、その結果を基に改善要求と協力体制での品質改善活動を行うことが必要です。

品質の専門家(購買部門の品質関連チームや会社の品質部門)と協力して進めます。取引先候補の品質関連のマネジャーと面談等をしながら、品質改善・維持するための仕組み・緊急対応などの評価をします。評価項目の例としては、「品質部門の位置付け」、「工程での品質検査」、「変化点管理」、等です。

また、そのほかの「経営」、「コストダウン」、「納期」等の評価を含めて、当社の取引先として適切と判断された場合、さらに品質システムの監査をおこないます。

  • 取引先の品質システムの監査

この監査は品質の専門家等が策定した詳細な質問から形成されたもので行います。まず自己評価をしてもらい、その後開発購買(必要に応じて量産調達・購買も含めて)ならびに品質の専門家などからなるチームでその新規取引先を訪問して、書類や現場を見ながら監査評価します。

カテゴリーの項目の例としては①品質方針等の全般事項、②検査項目の文書化などの基本管理、③受入検査等の購入材料管理、⑤定期的保守管理と手順書等の設備、機械、治工具管理などがあります。

  • 品質システムの監査の結果に関する取り扱い

この監査結果が適正水準にある場合は、新規取引先として積極的に取引をすすめる方向で進めます。また、適正水準にないと判断された場合でも、新規取引先として適切という判断を必ずしも取り消さず、品質改善の課題解決を条件として進めるのが良いでしょう。

経営、納期、コストを含めた複眼的な評価で適切と判断されたので、品質という一面だけで、その決定を取り消すのは適切ではありません。例えば、その新規取引先候補会社の高度な技術の導入による当社の商品力の向上等の意図がある場合は、戦略的な判断が必要です。

例えば、新規取引先として仮決定して、品質体制の監査で不十分と評価された項目について、一定の期間(例;1年間)の改善計画を提出してもらい、その期間後に再度監査をして最終決定する方法もあります。

(2)当社の業界の品質要求に通じていること

業界により品質への要求度合いは異なります。例えば、人の健康や安全に関連する製品を開発・製造している会社は、品質保証・管理への取り組みは厳しいものになります。一方、例えばスピードやコスト優先で製品開発・製造をする業界では、品質保証・管理は、前述の業界ほど、厳しいものにする必要性はないと考えられます。

もちろん、どのような業界でも品質への要求は、高いとは言えますが、その要求水準は異なってきます。その調達・購買取引先候補会社がどの業界を顧客にしているかにより、品質保証・管理に対する考え方や実行策が異なるのが通常です。

まず、自社が、調達・購買取引先にどれほどの水準の品質保証・管理を求めているのかをきちんと認識して、調達・購買取引先を選定することが求められます。

1.2 調達・購買取引先が製造に十分な実績のある調達・購買品の採用

選定した調達・購買取引先が製造に十分な実績のある製品や製造法を採用する方が要求水準の品質を満たしやすいと考えられます。当社の仕様指定品であれば、調達・購買取引先の提案・要求に応じて、当社の仕様変更を検討をすることも必要になります。

また、調達・購買取引先の標準品であれば、量産開始後まもない製品・品番ではなく、ある期間にわたり生産の実績があるものの方が、品質は安定していると言えます。これとは反対に、新規開発品で仕様部材、構造を含めた仕様が新規だったり、製造設備が新しく導入されたり、作業員による製造工程がそれまでのものと異なる場合は、生産開始してからある期間は、不良発生のリスクが高くなります。

しかしながら、例えば当社の新規企画商品が、商品力の向上のためや、大幅なコスト低減のため等で、このような新規品を調達・購買品として採用することもあります。

このような場合は、当社の品質専門家やその調達・購買取引先と連携をして、周到な不良発生防止策を取り、かつ不良が発生した場合の緊急対応策をあらかじめ決めておくなどの対策をする必要があります。

量産立ち上げ時の調達・購買品の品質要求を実現すること

特に、次のような調達・購買取引先や調達・購買品を何等かの理由で採用した場合は、量産立ち上げ時には、十分な対策が必要です。

  • 納入品質実績が高くない現行取引先
  • 調達・購買取引先に要求する品質水準を実現する体制・仕組みの評価結果が当社水準に達していない新規取引先
  • 当社の業界の品質要求に通じていない調達・購買取引先
  • 調達・購買取引先が製造に十分な実績がない調達・購買品

この場合は、開発購買担当者・マネジャーがイニシアチブを取り品質専門家などと連携して対応することが必要です。例えば、調達・購買取引先と共に、調達・購買初回納入品の生産現場などに立ちあって、品質の造り込み、工程検査や出荷検査などの徹底を連携して実施するなどの対応が必要です。

→2018年7月24日(火)に「開発購買セミナー」を実施しますのでご興味があればご覧ください。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

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