連載26回目「品質管理・保証体制問題の多発と調達・購買パーソンの対応 その1」

昨年は日本の製造業で品質管理・保証体制に関する問題が多発しました。大手製造業の材料メーカーの系列子会社、いくつかの自動車メーカー、総合電機メーカー子会社などで品質データ改ざん、検査不正などが次から次へと発覚しました。調達・購買部門も調達・購買製品・部品・材料の品質に責任をもっているため、無関心ではいられません。

2018年は、日本の製造業の信頼が大きく揺らいだ年でした。ある自動車メーカー(複数)は、国土交通省への調査報告書の提出後も不正が続き、膿を出し切ったと経営陣が宣言した後も新な不正が見つかり、自浄能力に疑問を持たれる事態となりました。これらの企業に共通するのは、品質問題の根本原因が経営にあるというとのことです。例えば、経営陣がものづくりの現場とのコミュニケーションを十分にもたずに、品質管理が現場任せになっていることや、品質よりコストや納期を重視する姿勢があるのではという問題提議があります。

法的責任も問われ、部品の交換や回収・無償修理に追われる事態にもなり、さらに供給先企業から損害賠償として莫大な金額を請求されるかもしれません。海外での法的リスクでは、訴訟が起こされると賠償額はかなり高額になる可能性もあります。記憶に新しいエアバッグ・メーカーは集団訴訟を起こされ、高額な和解金の支払いをせまられました。品質偽装をした企業の経営陣は、株主代表訴訟を起こされる可能性もあり、また不正の内容によっては不正競争防止法違反に問われることもあります。

これらの品質問題多発の原因として、専門家等が指摘したことを整理すると次のようになります。

*経営層と製造現場との意志疎通が断絶していることにより、品質改善活動は製造現場任せになっていた。

*事業再編成や工場の海外移転が進み、経営層は品質より売上・利益を優先した。そのため、製造現場は社員の自主性を主体としたQCサークル活動などの小集団改善活動をする余裕がなくなった。

*販売する会社は高品質を営業のアピール・ポイントとして売り込む。また、顧客の買い手側も故障の頻度が低くなれば、交換部品在庫コストや故障対応の人件費を抑制できるため、売り込み企業がアピールする品質が過剰とわかっていてもその品質条件で取り引きをする。

*顧客との取引継続のため品質検査方式、最終品質水準などをかなり高い水準にしている。そのため、納期・コストなどが厳しくなってくると、検査や品質水準が顧客との合意より低いものになっても問題ないと製造現場が認識し、納期やコスト第一で生産を進めてしまう。

*製造現場の人材が非常に不足していて採用難が続いている。特に品質エンジニアなど品質管理・保証に詳しい人材の採用難は極めて深刻である。そのため、品質の作りこみにも影響する作業標準書などが、生産工程の変更にともなって改訂されないという事態も生じている。

*偽装を行った企業では、ISO9000シリース関連の要求事項の一つである力量に関する要求事項を満たすこともされておらず、外部機関による審査でも偽装がされていた。

*QCサークル活動などの製造現場での小集団品質改善活動の数は大幅に減少して、製造現場での品質改善力が低減している。

*高度なスキル・知識を持つ品質関連の専門家の育成にも問題が生じている。専門機関が実施しているセミナーの修了者は減少し続けて、大幅な落ち込みとなっている。

今回は、日本の製造業に昨年頻発した品質保証・管理体制問題の概要と、それについての 専門家の見解をまとめました。次回は、品質保証・管理部門をはじめとして製造業に勤務した身近な人たちとの意見交換などを通じてまとめた、私の見解を述べたいと思います。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

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