連載9回目「購買はモノを買ってXXを売る」~自然災害の多発で思うこと (調達・購買のリスクマネジメント)その6

今回は、調達・購買に関する経済活動や事業活動での「多種な部品・材料の需給逼迫」という広域性事態の続きです。

「多種な部品・材料の需給逼迫」という広域性事態が発生し、自社の調達・購買部品・材料で広く納期遅れに直面したら、平常時での対応で決めたことを、確実にかつ迅速に実行することが必要です。時系列で、「初動対応」、「暫定復旧」、「復旧対応」を行い、最終的に「全面復旧」するまでの対応活動例を、以下の通り述べます。

(1)初動対応
初動対応では影響軽減のための緊急措置を取り、対策組織を立ち上げ、状況を正しく把握するために情報収集を開始します。

具体的には、なるべく多くのメーカーや商社にあたり、数量を確保する活動を始めます。平常時の活動で決めておいた、部品・材料ごとにリストを作成して、担当者を決め数量確保の活動を開始します。通常の購買・調達先以外(ブローカー、通常取引先ではない商社など)からの入手も次善策として活動を始めます。また、平常時に決めた模造品購入回避対策を、品質部門などと確認して対応の準備をします。

(2)暫定復旧
暫定復旧では、代替手段による対応、最も優先度が高い業務の実施、経営資源のシフト、そして進行状況の確認などを実行します。

① 優先度が高い業務の実施
納期遅れが発生しているものや自社仕様のもので、他の取引先から購入ができないものを優先的に管理して、代替商社・メーカーなども含めて、調達・購買取引先からの納期を確保するための活動を実施します。また、自社仕様の部品・材料など代替取引先がないものについては、営業部門と連携して、顧客が要求するギリギリの納期を把握しながら対応します。

このような多様な部品・材料の需給逼迫状況では、自社の顧客も他の調達・購買取引先からの部品・材料で納期遅れを被り、自社の生産計画を見直しているものと考えられます。営業部門や生産部門と連携して、当社顧客からの最新のギリギリの納期要求を把握することも重要です。

② 品質部門には模造品の使用回避の品質面での対応をしてもらいます。

③ 進行状況の確認
特に優先度が高い部品・材料について対応事項・経過(納期要求・実際納入日など)を述べたリストを作成して管理します。

(3)復旧対応
この対応活動では、復旧活動の拡大、全面復旧の時期の検討・推定、調達・購買取引先など関係外部への支援などを実施します。活動の具体例は次の通りです。

① 通常の調達・購買取引先との協調による復旧活動を中心に、その取引先の納入復旧状況を把握しながら、数量不足を回避するために複数取引先から調達・購買する活動を継続

② 顧客の生産復旧状況についての情報や、通常の調達・購買取引先からの復旧見込情報を継続的に入手して全面復旧する時期を検討・推定

③ 模造品の生産への組み込みを避けるために、品質部門と協調して受入検査などの実施を継続

④ 当社への納入量が多い取引先などへは、必要に応じその取引先の生産復旧・納入復旧を支援

⑤ 多数の顧客へ納入している重要部品・材料などの調達・購買取引先に対しては、他社と協調した復旧支援活動を実施

(4)全面復旧
通常の取引先からの納入が、遅延なく構造的に正常になるのが、全面復旧です。全面復旧がされたと判断した場合は、社内関連部門と復旧活動の振り返りを行い、必要に応じてマニュアルの改訂を行います。また、主要な調達・購買取引先とは活動の振り返りを一緒に行い、類似事態の回避対策などを検討し対応します。二次、三次取引先なども含めて業界全体で対応策を検討するのが理想です。

しかし、これには業界や会社の上層部の巻き込みなども必要となり、相当なエネルギーと時間が必要です。このような広範囲な検討も念頭に置きながら、まず身近な対策から実行するのが現実的です。

調達・購買部品材料の受給が逼迫している状況では、次のような現実も念頭に置いて、楽観的な見通しを持たないように数量確保の活動をすることが必要です。

*調達・購買取引先は、現状の受給逼迫は一時的な需要増によるもので構造的は需要増だ
とはみなさず、設備投資による生産能力の増強には慎重なのが一般的です。
*調達・購買取引先へ(実際に必要な数量以上の)水増し発注をする買い手の会社もある
と調達・購買取引先が懸念している場合もあります。
*調達・購買取引先が、生産の増強のための設備投資を決定しても、生産数量が実際に増
加するまでは相当の月日が必要です。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

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