連載17回目「購買はモノを買ってXXを売る」~学び、飛び立ち、そして独自の世界で永遠の旅を続ける その4

これまでのその2とその3ではそれぞれ「守」と「破」について調達・購買の仕事での例を挙げて私の考えを述べました。今回は、守破離の最後の「離」について、述べたいと思います。

「離」は、それまでの「守」と「破」の段階での検討や考察をもとに、独創的な世界を拓いてさらに高度な領域を目指すことです。これは終わりのない永遠に続く道のりです。

「独創的な世界を拓く」と言うと、何か新規のアイディアを生み出すとか、発明するとか、いう響きがあるかもしれません。しかし、そこまでの高みを目指さなくても良いのです。この「離」で重要なことは、「守」や「破」の段階で考え、発展させてきたことを基に、自分の価値に基づき、遠い将来の目標を決めること。そして、そこへ突き進むエネルギーを絶やさないこと、です。

ここで言う自分の価値とは、他の人との比較とか、上司や先輩のレベルを目指すとかではなく、自ら決める価値です。それは、自分の基本的な考えや強みを基にしたものです。これを基に、自分の人生の将来を考察して遠い将来の目標を決めるのです。人生の将来の考察の要素は、自分の家族、友人関係のような身近のものから、政治、経済、社会や技術などがあります。自分自身を取り巻く要素をできる限り考察することが必要です。これを基に、遠い将来の目標を決めます。

遠い将来は、あまり遠すぎても考察ができないでしょう。しかし、あまり、近い将来だと現状の延長になってしまう可能性もあります。目安としては、10年先がよいでしょう。

それと、「離」の活動を進めていく過程で、自ら決める価値と自らの強みをめぐる要素が変わったら、目標も変えてよいのです。期限の設定については、ライフ・ステージ(例:結婚、子育て、家のローン支払い等)ごとにするのも一つの方法です。大切なのは、繰り返しになりますが、「自ら決める価値」です。

調達・購買パーソンの場合は、コスト、品質、生産、開発・設計、経営、財務、法務、海外取引、マーケティング、リスクマネジメント、コンプライアンス、等関与する業務要素が多岐にわたっており、そのため連携や討議をする関連部門・関係者も多いと言えます。

それだけ、「自ら決める価値」や「自らの強み」を考える機会が豊富なのです。「守」と「破」の段階でこのような様々な業務要素に関与する経験をして、仕事に対する自らの価値観を築き、強みを発見することを勧めます。

「離」への飛躍の仕方は、いくつかの型があると思います。調達・購買パーソンの場合でこの型の例をいくつか述べると次のようになります。

(1) 調達・購買部門で会社勤務をはじめて、定年まで調達・購買部門に勤める。
例)最終的に、調達・購買部門長となり同業他社異なる調達・購買文化を築いた後も、変化を察知しながら常に新しい姿の調達・購買部門を追い求める。

(2) 調達・購買部門で会社勤務をはじめて、その後別の部門へ異動となる。
例)経営企画部門へ異動となり、調達・購買部門の時の多くの取引先の経営や財務などの分析経験も生かして、経営への自らの価値観を築く。そして、経営コンサルタントとして独立し、多くの業種の企業経営のアドバイス・支援を続ける。

(3) 調達・購買部門で会社勤務をはじめて、その後別の部門へ異動となり、調達・購買部門へ再異動で戻る。
例)営業部門へ異動となり、調達・購買部門の考え方を知る営業パーソンとして大きな実績を上げる。再異動で調達・購買部門へ戻り、バイヤーグループの責任者となり、取引先関係強化の手法を体系化し、深めさらなる飛躍を続ける。

(4) 調達・購買部門以外から、調達・購買部門へ異動となり、その後再異動でもとの部門へ戻る。
例)開発・設計部門のエンジニアから調達・購買部門へ異動となり、不得手だった良好な人間関係の構築や取引先評価・関係強化を学び、開発・開発設計部門に戻った後は、同僚関係、部下育成が優れたエンジニアとの評価を得る。また、市場から得られる技術革新を活用しながら、技術者としてさらなる進化を追及し続ける。

等です。このような型は、沢山あるので、すべてを挙げることはできませんが、上記の例でもすべての型で「離」を達成することができます。

最後に、私が知っている方々の調達・購買部門で活動を基盤にした、「離」の実例を紹介したい思います。

(1)調達・購買部門のある部品カテゴリーのバイヤー部門長となった後、他の部門の部門長として異動となりその部門の業務を体系化し合理化かつ活性化した。その後、調達・購買部門長として戻り、調達・購買部門の業務のより高い合理化・体系化を追及している。

(2)調達・購買部門に在籍中にある経営手法を学び、社外交流などでその手法を深め、勤務中も含め、その手法に関連する書籍を数多く出版。その後、その会社を退職し、いくつかの経験を踏んで、現在はある大学の教授となり教鞭をとっている。

(3)調達・購買部門のある部品カテゴリーのバイヤー部門長だったときに、別会社の調達・購買(IPO)部門長としてスカウトされ、IPO業務の付加価値を高めることに成功して、役員にも就任し、会社経営の中枢で夢の実現を続けている。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

あわせて読みたい