連載7回目「購買はモノを買ってXXを売る」~自然災害の多発で思うこと (調達・購買のリスクマネジメント)その4

今回は、調達・購買経済活動や事業活動でのリスクでの「想定外」の続きです。

事前対策で撤退リスクが高いと判断され、前回その3の(2)の(ウ)”代替取引先の選定“、(エ)”当社製品設計変更“、(オ)”平行発注もしく移行発注“で述べた対策を既に取っていて、撤退を発表した現行取引先ならびに新規取引先に平行発注している場合は、新規取引先への完全移行を実施することになります。

以下の述べるのは、想定外の事業撤退が発表された場合の対応で、事態発生後の対応を時系列の対応例で述べます。事前対策でリストアップした必要なアクションを着実にかつ迅速に実行することになりますが、事前対策で考慮しなかった事態に直面することもあるので、臨機応変な対応も求められます。

2.取引先の事業撤退発表後の対応

(1)初動対応
初動対応の段階で行う主な事項は、対策組織立ち上げ、 影響軽減のための緊急措置、情報収集等です。取引先の事業撤退への初動対応の具体策の例としては次のようになります。

① 対応チーム立ち上げ
関係部門は、法的な対応も必要なので、法務部門もチームの一員とする
② 撤退発表取引先との契約書での、契約終了後の品質保証など残存事項の確認(特に海外取引先の場合は、契約書の精査は重要)
③ 撤退に伴う当社要求事項のまとめ
④ 事業撤退をする取引先との他の事業(撤退する事項以外の事業)での今後の取引関係、法的面での事項、現実対応などをまとめて、メンバーで認識して対応を決定
⑤ 上記②~④を念頭に、事業撤退を発表した取引先の撤退過程、条件、時期等の確認と交渉
⑥ 代替品の取引先への対応確認(設計検討、取引条件交渉、対顧客対応などの時期を計画)

(2)暫定対策
暫定対策は、代替手段による対応、最も優先度が高い業務の実施、経営資源のシフト、
進行状況の確認などです。ここでは、上記(1)-⑤の交渉等の結果が、当社にとって好ましくないものとなった状況を前提として述べます。例えば、事業撤退する会社と他の事業での取引はない、撤退会社は生産終了時期を明確に設定し、それ以降の生産や(契約書に書かれた事項以外の)支援は一切しないとなった前提です。

① 当社顧客(特にB-Bの場合)からの今後の需要数量を把握し、事業撤退する会社へまとめ発注検討開始
② 撤退後にこの取引先製品に起因する品質問題が発生した場合への、この取引先からの事前準備支援の具体化と対応(例:品質専門家への同社による教育訓練、2次以降の取引先との連絡先への適切な移転支援など)
③ 金銭面(例:単価削減)での支援獲得など、撤退前にできる限り良い条件を得る交渉を継続する
④ 代替品の候補取引先製品の技術検討、当社製品の設計変更などの対応継続

(3)復旧対応

復旧対応は、復旧活動の拡大、全面復旧の時期の検討・決定、自社の顧客などへの影響軽減などが対応策となります。

① 今後の必要数量を当社の顧客と確認し理解と協力を得る。
② 撤退事業製品のまとめ発注を開始。
③ まとめ発注(当社顧客への供給数量不足・余剰在庫)への対応
*当社顧客と数量不足が判明した場合の対応決める
*当該部品が残り、死蔵在庫が判明した場合の対応
*当社顧客からの引き取り保障など諸条件を顧客と交渉
④ 撤退後の撤退取引先製品に起因する品質問題への対応
*事業撤退をする取引先経営層からの品質問題発生時への保障を得るか、もしくは
金銭によるあらかじめの補償を獲得し、合意事項を文書化
*当社品質専門家への対応教育・訓練を事業撤退発表会社で実施
*品質面で重要な2次・3次取引先との連絡など開始
⑤ 代替取引先製品の取引条件確定
⑥ 代替取引先製品での設計変更完了および顧客承認完了

(4)全面復旧

平常運営への復旧の段階です。具体的例としては、次の通りです。代替取引先への完全移行と、完全撤退後の撤退取引先製品に起因するトラブル(特に品質)回避が主な対応事項です。

① 代替取引先の製品での平行生産を開始し、最終的には代替取引先製品だけでの生産
へ完全移行
② 撤退後の品質問題発生への対応ノウハウ維持
(ア)当社品質専門家の対応方法の文書化と定期的な社内訓練
(イ)品質面で重要な2次・3次取引先とのコミュニケション継続

次回は経済活動や事業活動での広域性のある事態発生への、調達・購買リスクメネジメントについて述べます。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

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