連載29回目「品質管理・保証体制問題の多発と調達・購買パーソンの対応 その4」
今回は、調達・購買部門そしてそこで働く調達・購買パーソンとして、調達・購買取引先に品質保証・管理体制での問題が起きないようにするには何をすべきなのかを述べます。
これには、大きく三つあります。一つは、自社の品質保証・管理体制の現状理解と改革を実行することです。もう一つは、調達・購買取引先の品質保証・管理体制の評価内容を、全社経営視点で充実することです。そして、三つ目は、調達・購買部門機能の充実です。
1.自社の品質保証・管理体制の現状理解と改革
どうすれば2018年に発生したような、品質データ改ざん、検査不正、品質管理の不履行、などが自社で引き起こされないようにするかを、調達・購買部門も品質保証・管理部門、開発・設計部門などの関連部門と議論して、不正防止の仕組みづくりに関与すべきです。
調達・購買取引先に要求をするために、まず自社の品質保証・管理体制の現状理解と改革を実行することが前提です。これができて、初めて調達・購買取引先への指導や要求が実効性の高いものになるのです。
また、このような関与をする過程で、調達・購買部門も取引先指導のノウハウを得ることができます。自社の経営層の一人がリーダーとなって、2018年に発生したような、品質データ改ざん、検査不正、品質管理の不履行、などが自社で引き起こされる温床がないかどうかを検証して、そのような問題の発生の芽を取り去る策を講じるのです。この過程で、経営層の意識も高まり、開発・設計、品質保証・管理、調達・購買、製造などの当社品質に関与する部門間のコミュニケーションも深まります。
2.調達・購買取引先の品質保証・管理体制評価の経営視点での充実
新規取引先候補の評価や現行取引先の(実情・実績)評価は多面的にされていると思いますが、ここでは品質保証・管理体制評についてのものなので、品質の評価項目に絞って述べます。
一般的には、工程での品質検査、変化点管理、トレーサビリティ管理、品質問題の再発防止などを評価していると考えられます。これに加えて、品質データ改ざん、検査不正、品質管理の不履行、などの品質の保証・管理の仕組みを規定通り行っているか、それを監視するようになっているか、そして企業文化・社風について評価することも必要になります。
品質の保証・管理の仕組みを規定と遂行ならびに監視体制についての評価方法は、自社の品質保証・管理部門などと協議決めると良いでしょう。品質保証・管理体制以外の経営面などについては次のような事項の評価をすべきでしょう。
これらは、まったく新規な評価事項を追加するという意味ではなく、経営の視点からの評価を少し拡大して、深めるというものです。対取引先にも新規の追加評価という印象をなるべく持たれないようにすることも必要です。さらに、その取引先を疑っているという態度や口調は、避けなければなりません。取引先との関係を損なわないような留意が必要です。
(1)企業文化・社風
同じ人が長期にトップにいる会社は一般的には、管理職・マネジャーが上しか見ない文化・社風があるとの前提で評価する必要があります(必ずそうであるという意味ではありません)。
(2)経営者の品質への関心度
品質部門の位置づけ、品質会議への担当役員の参加、品質部門長の地位、経営トップが開発・設計、品質保証・管理、製造現場に来る頻度などを調査評価します。
(3)中長期経営計画
利益重視の場合、品質を犠牲にする可能性があるとの前提で(必ずそうであるという意味ではありません)、品質の保証・管理の仕組みを規定と遂行ならびに監視体制を念入りに評価します。また、中長期経営計画で品質がどのように位置づけられているかを理解することも重要です。
(4)業績
過去数年の利益が低下傾向にある場合は、利益向上の手段の一つとして、品質の保証・管理に手を抜く可能性があるとの前提で現状を評価する必要があります(必ずそうであるという意味ではありません)。
3.調達・購買部門機能の充実
調達・購買部門の役割について、次の3つの視点から述べます。
(1)調達・購買のマネジメントの任務
部門長は部下の意見を尊重して、どのような意見でも出せるような部門文化をつくることがその任務の一つです。上司の意見だけを見るようなヒラメ文化を部門長が作り上げてしまうと、調達・購買部門の活性化や改革力が乏しい組織となってしまい、最悪の場合は不正を生み出す温床となってしまいます。
また、自社の品質保証・管理体制が健全であることが、調達・購買取引先の品質保証・管理体制を健全にしたり、改革を促したりする基盤であることを、経営者や品質部門が認識するように部門長は意見を発信しづけることも、時間経過による風化を防ぐために有効です。
(2)調達・購買部門の品質感度の向上
無理な価格や納期を取引先へ要求すると、品質データ改ざん、検査不正など調達・購買取引先での品質保証・管理体制への悪影響が生じ、ひいては納入部品・材料の品質不良につながる恐れがあります。このような事態が発生してしまうと、最終的には取引コストの上昇、最終納期の遅延などにつながってしまい、当社の本来の意図とは真逆の結果になってしますこともあります。
(3)調達・購買パーソンの品質保証・管理に関する知識を深める
製造に関する品質の基本知識の強化は、調達・購買部門の品質に関する教育・訓練のOJTやOff JTでも実施されていると思います。今後は、その2のイノベーションで述べたことに関連しますが、特に開発・設計の品質にかんする知識をこれまでより広くすることをお勧めします。例えば、新QC7つ道具、設計FMEA、設計審査などがあります。業界や会社により異なると思われますので、自社の開発・設計部門が活用している手法を知ると良いでしょう。
著者プロフィール
西河原勉(にしがはら・つとむ)
調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士
総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験
・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)