連載30回目(最終回)「調達・購買の仕事が好きでなくても良い」

私が考えるには、調達・購買の仕事を好きになる必要はありません。しかし、得意になることは必要です。調達・購買の仕事が好きであれば、それに越したことはありません。しかし、それより重要なのは、目的・目標を達成するためのスキルや知識です。

調達・購買業務に限らず仕事を遂行するのに必要なのは成果を上げたときの充実感だと思います。ある目的・目標を達成する過程では様々な障害や困難が立ちふさがってきます。これを乗り越えるのは、仕事のスキルや知識です。そして、そのスキルや知識を高めることに必要なものは、それを習得するための能力的な適正です。

好きだけでは、その障害や困難を乗り越えることはできません。「好き」であることは、障害や困難を乗り越えられなかった場合でも、ストレスや挫折感を和らげる効用があるかもしれません。しかし、能力的な適正がなかった場合は、障害や困難を自ら効率的・効果的に乗り越えるのは難しいのです。また、その経験から学んでスキルや知識を高めたりすることも、容易ではありません。

「好きこそものの上手なれ」ということわざがあります。この意味は、「好きでやっていることには一生懸命になり、学習したり工夫したりするので、上達する」ということだと言われています。本当なのでしょうか?上達するには、打ち込んでいる趣味や仕事に関してその人に備わった能力的な資質が必要です。好きでやり続けた人がそのことに上達したのは、能力的な適正があったからで、好きであることが主因ではないと思います。

このようなことを述べると、一部の能力の高い人たちだけが仕事遂行のスキル・知識で上達をすると聞こえるかもしれません。そうではありません。どなたにも、その人に備わった能力的な強みという適正があるのです。

調達・購買の仕事をしているすべての方々には、調達・購買業務の遂行に求められるスキルや知識を高めるための能力的な適正があるのが通常です。だからこそ、調達・購買部門に配属されたり、新規採用されたりしたのです。

調達・購買業務では、その遂行に求められるスキル・知識の幅が広いことが特徴です。経営、コスト(原価)、財務、品質、製造、交渉力、人間関係構築力、情報収集力、法令順守の知識、海外購買に関与している場合は輸出入取引知識、など様々な分野に渡っています。調達・購買パーソンそれぞれの適正に沿ったスキル・知識を強化する分野の選択肢が、たくさんあります。

人により適正は異なりますが、どのように自分の適性を把握すればよいのでしょうか。生まれつき備わっている要素、うけた教育や経験などによって育まれた要素等が適正を決めています。自分の個性を正しく把握して、その個性に合わせて強化することが能力を効果的に高める方法です。学生時代や勤務企業での適正検査の結果や、自分の経験、他の人たちからの意見などを参考に、自分の強みを知る必要があります。

さて、自分の適正を把握したら教育・訓練などによりそれを強化する必要があります。ここで留意すべきなのは、社員一人一人の強みを把握してそれに応じたオーダー・メードの教育・訓練は、企業はしてくれないということです。いや、不可能なのです。自己の強みとして選んだ分野でのスキル・知識の強化は自己学習(仕事を通じての工夫、書籍、学習交流会、セミナー、資格取得など)で、自己投資をして強めるしかないのです。つまり、自己の適正の把握が必要で、その適正に基づいた継続的な学習しかないと言っても良いでしょう。

もちろん、会社や調達・購買部門が実施する教育・訓練は重要で、スキル・知識基盤の全般的な強化で有効です。しかし、みずからの能力に適合した絞り込んだ分野で高みを目指して上り続けるには、自己学習しかありません。自己学習の方向としては、全般に強い優秀なゼネラリストをめざすことも、一つの選択肢です。

また、特定の分野に絞り込んで強化する方法もあります。但し、スキルや知識の向上は、それ自体は最終目的ではありません。その先には、もっと広い海がひろがっているのです。そこにたどり着き泳ぎ、充実感をもち続けることが、終わりのない挑戦となります。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

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