連載14回目「購買はモノを買ってXXを売る」~学び、飛び立ち、そして独自の世界で永遠の旅を続ける その1

調達・購買パーソンをはじめとした、ビジネスに関与する皆さんは、常に自己啓発が求められています。この自己啓発の基本的な考えや具体的方法論などは、業界やそれぞれの企業によって特徴があり、さらに、一人ひとりの個性でも異なってくるものと思います。

さて、最近ある製造業のレジェンドとも言うべき方から、製造業現場での改善についての講話を拝聴していたら、「守破離」(しゅはり)という言葉ができてきました。「守破離」という言葉は自己啓発に関連したものですが、日本芸術・伝統を引き継ぎ発展させる意味の言葉です。

武道の指導者もしばしば使うものですが、私自身はビジネスの場面でも数回ほどですが聞いておりました。長年この言葉を聞いていなかったので、その方の講話ででてきた「守破離」という言葉は、私には懐かしい響きがありました。

Gooの辞書にはこの守破離の意味が、次のように書かれています。「剣道や茶道などで、修業における段階を示したもの。「守」は、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。「破」は、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。「離」は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階。」

ここからは、この守破離についてこれまで聞いてきたことや、自身で考え実践してきたことを基に、私の解釈を加えて述べたいと思います。はじめに、広い観点からやや一般的に、次に調達・購買の視点からなるべく具体的に述べたいと思います。

1.「守(しゅ)」について :
この「守」の段階で、一番大切なのは師の教えを素直に自分自身に受け入れることだと言われています。自らに色々な考え方があるとしても、初めはそのような自分の考え方をしまいこんで、師の教えを素直に受け入れることだと言われています。そうすることによって、教えられることがすべて自分の頭に入って来ます。スポーツや音楽でも反復訓練するなど、たとえ「守」の重要性が理解できなくとも実際にやってみることが大切だというわけです。

ここからは、私の考えですが、教えてくれる師の個性を冷静に理解して学ぶことが大切です。

2.破(は)について :
「破」とは、 師の教えをマスターした後に他の手法も研究することです。守を修得して行く中で生まれた自分自身の中に生じた様々な疑問、異なる案、つまり自分ならこうするという思いで自分なりの手法を開発してゆくことだということです。別な表現をすれば、師から学んだ型から飛び立ち離れてゆく段階です。師の教えを守り続けると、基本的なことはできるようになります。

そして、同時に自分なら別の方法を取ったほうが良いと思うとか、こうすればもっとうまくやれるというアイディアが生まれてくるものです。ここで大切なことは二つあります。一つは、「守」の段階で得た基本を十分取得しておくことです。もう一つは、師と自分自身の違いを理解して、自分の強みを発揮して「破る」ことです。いうまでもありませんが、師への感情的な反発だけをエネルギーにするのは、賢明ではありません。

3.「離(り)」について :
「離」は、それまでの「守」と「破」の段階での検討や考察をもとに、独創的な世界を拓いてさらに高度な領域を目指すことです。これは終わりのない永遠に続く道のりです。さて、「守」にどれくらいの年月をかけるかは、学びの対象や自身の個性にもよると思いますが、一般的にはあまり長く「守」の状況にいることは避けるべきです。「破」の段階もしかりです。

特に変化のスピードが速い現代では、この「守」と「破」にはことさら長い年月をかけるべきではないでしょう。その後に来るのは、「離(り)」という自己を極める、長い旅です。終わりのない旅です。それは、「守(しゅ)」を始める前のもっていた、夢(ロマン)を実現する旅かもしれません。

今回は「守破離」についての私の考えを、一般的に述べました。次回は、この「守破離」を、調達・購買業務で具体的に考えてみたいと思います。

著者プロフィール

西河原勉(にしがはら・つとむ)

調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士

総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験

・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)

あわせて読みたい