第四回:開発購買での調達・購買品の納期遅延リスクの低減
これまで述べたコスト低減、品質マネジメントそして今回の納期遅延リスクの低減は、それぞれ完全に独立したものではなく、お互いに関連をもっています。例えば、調達・購買価格についての例では、交渉の結果として調達・購買取引先が利益を十分に得られないような、不合理に低い調達・購買価格となった場合は、取引先は自社内のコスト削減のために品質保証・管理に手を抜き、その結果当社への納入品の品質が低下してしまうかもしれません。
また、価格が低すぎる場合、当該品の需給が逼迫した場合、調達・購買取引先が他顧客への生産を優先して、当社への生産が後回しになり、頻繁に納期遅延が発生してしまうことも、考えられます。また、調達・購買取引先で、品質問題が発生した場合は、調達・購買品の納期遅れにつながります。
開発購買の定義で述べたように、開発購買での調達・購買品の納期に関する任務は、「①新規開発製品のライフ・サイクル全体で調達・購買品の納期遅延リスクを最小化すること、そして②量産立ち上げ時の調達・購買品の納期要求を実現すること」です。これを実現するための具体策を、以下の通り述べます。
ライフ・サイクル全体で調達・購買品の納期遅延リスクを最小化するための具体策
これを実現するには、原則的には調達・購買品の納期遵守性の高い取引先を採用し、選定した調達・購買取引先が造りやすい仕様のものや、その取引先が優先的に生産割当をする型番を採用することです。
- 1納期遵守性の高い取引先の採用
(1)現行の取引先候補の中から採用する場合
高い納期遵守性を実現する体制・仕組みがある現行取引先については、すでに実施している体制・仕組みの評価や、納入品の納期遵守実績などを基準に評価の高い取引先を選定の対象とすべきことは、言うまでもありません。体制・仕組みの評価を実施してからかなりの期間が経過していたり、生産拠点や製造工程等が変わった場合は、評価を再度実施することが必要です。
また、納期遵守性のデータが存在しない場合は、量産購買などからこれまでの納期遅れの発生実態をヒアリングして判断します。 さらに、採用する取引先に関して量産後の納期遵守性実績を今後どのように評価するかについて、量産購買部門と連携して対策を検討するようにします。
しかし、体制・仕組み評価に問題があったり、納期遵守実績が高くない調達・購買取引先を、技術の取込み優先などのある意図のもとに、選定する場合は、量産購買部門、生産部門等と連携して、その取引先とも協議しながら、改善活動を行い、量産開始後の納期遅延リスクを低減することが必要です。
(2)新規取引先の採用を検討する場合
新規取引先の場合、候補となる取引先の納期を管理するための仕組みや、緊急注文への対応方法などを取引先候補の製造関連のマネジャーと面談等をし、製造工程などを視察して評価します。評価項目の例としては、工程管理、設備管理、資材在庫管理等です。そして、その評価結果次第では、当社の生産技術専門家や製造の専門家との連携のもと、その新規取引先候補と協力して納期遵守率向上のための改善活動を行うことも必要です。また、そのほかの「経営」、「開発・設計」、「コストダウン」、「品質」等の評価を含めて、当社の取引先として適切かどうかの総合的な評価による判断が必要です。
1.2取引先が造りにくい仕様や生産が縮小している型番の回避
(1)自社設計の調達・購買品の場合
特殊な材用等の指定をしないこと、造り難い仕様を避けることなどがあげられます。これらを回避するために、採用取引先からの提案を検討し受け入れるように開発・設計部門へ働きかけることが、開発購買担当者・マネジャーの任務となります。
(2)調達・購買取引先の標準品の場合
生産が縮小している部品・材料型番を採用することを回避します。このような型番は納期が長期化しやすく、最悪の場合は生産停止となる恐れもあります。
(3)納期遅延リスクが高い材料(納期の長いもの、特殊仕様のもの、供給先が限られているもの)などを認識しておき、対策も含めて量産購買へ伝えておくことも、開発購買の任務です。入手性の低い特殊な部材の指定が避けられない場合は、当社からの支給も検討すべきです。
量産立ち上げ時の調達・購買品の納期要求を実現するための具体策
次のような具体策を取る必要があります。特に、調達・購買取引先の新製品を採用した場合、立ち上がりは納期遅れのリスクが高いので十分な留意が必要です。
- 量産立ち上げに必要な納入時期、開発期間のサンプルの必要時期、ならびに数量を、十分前もって調達・購買取引先に知らせます。これを実現するには営業部門や生産部門との連携が必要です。
- 量産立ち上げ時の調達・購買品の希望納期遅れ回避のために、留意が必要なものは遅れ発生可能性の理由、遅れ回避の具体策、担当者などを記載した管理表を作成して対応します。例えば、次のような調達・購買品が対象となります。
- 調達・購買品自体の納期が長いもの
- 当社の顧客からの頻繁な仕様要求変更等により調達・購買品の納期の確定が量産開始の間際になりそうなもの
- 調達・購買品に使われる材料が特殊で納期も長いもの
これまで、コスト、品質そして納期について述べてきました。これらコスト、品質そして納期についてすべて要求を満たす取引先を見つけるのは容易でない場合のあります。そのような場合は、第一候補取引先の量産後の課題について、開発購買は量産購買部門をはじめとした関連部門などと対応策を策定することが求められます。
→2018年7月24日(火)に「開発購買セミナー」を実施しますのでご興味があればご覧ください。
著者プロフィール
西河原勉(にしがはら・つとむ)
調達・購買と経営のコンサルタントで、製造業の経営計画策定支援、コスト削減支援、サービス業の経営計画策定支援、マーケティング展開支援、埼玉県中小企業診断協会正会員の中小企業診断士
総合電機メーカーと自動車部品メーカーで合計26年間、開発購買等さまざまな調達・購買業務を経験
・著作:調達・購買パワーアップ読本(同友館)、資材調達・購買機能の改革(経営ソフトリサーチ社の会員用経営情報)