購買と侍の隣には、いつも死が待っている

「上司の価値なんてマイナスだよ!!」

バイヤーは、「自分は実は不要だ」と知りたくないから、会社に今日も行く。

ある会合のことだ。

そのバイヤーは調達・購買のマネージャー職の集まりに呼ばれていた。

なんてことはない。

「60分時間をやるから、何か話してくれ」と言われたからだ。

「何を話せばよいのか?」と、そのバイヤーは尋ねた。「何でもよい」と依頼主は答えるだけだった。「調達・購買のトレンドについて話してもらえるか」と。

そのバイヤーは、コンサルタントではない。さらに、大学教授でもない。

そんな一介のバイヤーに「何か話せ」と依頼するとは、無謀なだけか、あるいはよほど人選に難航したのだろう。と判断したそのバイヤーは、のこのこと出向いていった。

その雰囲気の暗かったこと。

バイヤーは、その場に少しでも刺激を与えようと、こう話した。

「今ほど、調達・購買のマネージャー職の存在意義を問われている時代はない。ほとんどの若手は、あなた方が役に立たない人物と知っている。新しい製品の技術知識もない。高度な概念も知らない。上司の価値はもはやゼロに近づいている」と。

その講演後(講演と呼べるならば、だが)、それを聞いたマネージャーの一人が近寄ってきた。

彼は言う。「さっきの話は間違いだと思う」と。バイヤーは、「やはり言いすぎだったか」と反省する。

しかし、彼は続けてこう言った。

「存在価値はゼロじゃないよ。給料が発生している分、マイナスだよ!」と。

・・・・

そのバイヤーは私だった。

私に話しかけてきたマネージャーは、とある有名企業の資材部門に属する方だった。課長職である。

彼はこう言う。「そりゃねえ、これまで私は現場のバイヤーだったときに、ネゴだけに頼って価格を下げてきたんです。技術的なことも、そりゃ少しは分かるが、最新技術は分からない。それで、部下の管理から、数々の打ち合わせ。そんなのできるはずがない」と。

加えて、こうも言った。「今じゃあ、メールですぐに部長からの連絡がすぐに部下に届く。もう、課長の役割など無いよ。私も現場で担当していた方がずっとマシだ」と。

なんと素直な人だろう、と思った。

なかなか人間は、自分の価値を否定することなど言えない。

 

人は、「自分なんて実はいなくても会社はまわるのだ」ということを知りたくないから、今日も会社に向かうのだ。

その結果、無理を重ね、出世し、そして散りゆく人たちがたくさんいる。

「上司なんて居る意味がない」と部下が言うのはたやすい。しかし、上司本人の口から言うのは非常に重い意味を持っている。

調達・購買職の上司は全く役に立たないのだろうか。

それは、いつしか部下を持ち、上に立たざるを得ないバイヤー全員に投げかけられた疑問でもあるのだ。

・・・・

「人は無能と呼ばれるまで出世し続ける」という卓見がある。

優秀であれば、どんどん出世する。そして、「何でこの人がこのポストまで上り詰めたのだろう」とバカにされたところで出世は終わる、というのだ。

本当に誰からも認められない本物の「無能」は置いておこう。それまで話し出すとややこしくなる。

問題は、出世しつつ、それでいて、能力開発も怠らず、部下にどうやって認められるようになるか、ということなのだ。

前述の話に戻ろう。

上司が無価値で、存在意義が無いのは、「かつての時代であれば、上長しか持っていなかった情報を、今では誰でも共有できるようになった」ということだった。

つまり、今では情報を持っていることが優位性の源泉にはならないということだ。

しかも、もはや経験などは、不要でしかない。

実は、これは「モノからコトへ」という時代の流れともパラレルである。「物質的豊かさを享受したい時代は終わった。これからは、情報を享受したい時代になった」と呼ばれた、例のワンフレーズである。

しかし、もはや「モノからコトへ」という時代も終わりつつある。

この次に来る時代は何か。

それは、「モノからコトへ。コトからカタへ」の時代ではないか。

・・・・

「カタ」とは何か。

それは、「方」である。そして「型」である。

単なる情報ではない。いつまでも普遍で不変な「やり方」である。

それはときに、「調達・購買職として、社内に好かれる方法」かもしれない。「バイヤーとして取引先の女性アシスタントに好かれる方法」かもしれない。「バイヤーとして社内を説得する方法」かもしれない。「バイヤーの生き延び方」かもしれない。

情報には、その人の生き様はにじまない。しかし、「カタ」を教えようとすると、その人の生き様が、生きてきた証が、強くにじんでいく。

上司という仕事を、「部下を管理する仕事」から「部下に生き様を教える仕事」と読みかえた時に、全てが変わっていく。

それは、部長のメールが一瞬で転送されるとか、最新の技術が分からないとか、そんなこととは一線を画した領域なのである。

誰でも教えられることを、教えていてはつまらない。

上司なら誰でも持っている情報を転送するだけでは、もっとつまらない。

その人しか知らない価値を、汗を、涙を。そして感動を伝えたとき。

その伝播によって、何かが変わっていく。

変わった先には、現状の姿以上のものがきっとある。

それは、「最適購買」などという単語で表現される程度のものではない。

その先にあるのは「希望購買」である。いや、「感動購買」。「感銘購買」か。

「バイヤーは、涙を語れ!」

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