夢をかなえるバイヤー

「なんで、そんなに真剣なんですか?」

バイヤーは、自分が思っている通りのバイヤーになる。

以前のことだ。

そのバイヤーはとある会合に参加したことがある。

同世代のバイヤーたちが集まる会合だ。いや、「会合」と言ってしまうのは、大げさかもしれない。SNS(その当時は「パソコン通信」に毛が生えた程度のものだった)の集まりだった。

その集まりは、バイヤーを生業としている人たちが参加していた。

そのバイヤーは、「世の中一般のバイヤーのレベルがどういうものだか知りたかった」し、「どういうことを今後学べばよいか知りたかった」から、参加することにした。

会合に参加して驚いた。

軽いオフ会のようなものだったが、飛び交う言葉が全く理解できないのだ。

もちろん、後から考えたら難しい単語ばかりじゃない。でも、そのとき、そのバイヤーは「RFx」という言葉がどういう意味かも知らなかった。「パーチェシングとソーシングの違い」と言われても、どちらの区別もつかなかった。

その会合で、そのバイヤーは自分が世間から後れていることを知った。

「これはヤバい」と素直に思った。通常業務をこなしているうちは支障がない、という甘えがあったからか、学ぶことをしていなかった。

世の中には、もっと学ぶことがある。そして、果てのない世界に似た、広大な空間が広がっている。

そう知った、そのバイヤーは職場に戻ると、同僚たちに「いかに自分たちが遅れているか」を説き始めた。「すごい人は、こんなに勉強しているみたいだよ」とか「もっと頑張らなきゃ、トップからどんどん引き離されていくよ」とかだ。

しかし、周りの反応は芳しくない。

むしろ、「なぜあえて現状を変えなければいけないのか」、という諦観にも似た醒めたセリフばかり。

あまりにそのバイヤーがしつこく説くので、同僚の一人は、こう言った。

「別に、このままでいいじゃん。なんで、そんなに真剣なんですか?」

そのバイヤーはもう話すのを止めてしまった。

・・・・

そのバイヤーは私だった。

現状を否定し、ただただ変革だけを叫ぶ人間。

そういう人間は周囲から見て、ばか者に映るか、冷笑の対象にしかならない。だから、私も周囲から見れば、まさにそうだったのだろう。

私は、この経験以降、あることを知った。

「行動しない人を、行動する人に変えることはできない」「現状に満足してしまっている人を、現状に満足できない人に変えることはできない」「熱意のない人を、熱意あふれる人に変えることはできない」という当然のことだ。

その全ては、おのれから発したものでなければならない。とても他者が協力してあげて変えることのできる種類のものではないのだ。

そういうことが分かった。

「部下のバイヤーたちがあんまり熱意がなくてねえ」と苦情を述べる人がいる。必ずこういうセリフのあとには、「まあ、最近の若者はおとなしいからね」という付けたしがある。

しかし、私は問いたいのだ。

苦情を言っている上司自身は、ちゃんと熱意を持っているのだろうか、と。

上司自身も、おとなしくせず、自分の上司にも意見を活発に述べているのだろうか、と。

他者ではなくて、自分自身は変わり続けてるのか、と。

もやしのような上司からは、もやしのような部下しか生まれない。もちろん、もやしバイヤーはそういう生き方を望んでいるだろうから、「もやしバンザイ」としか言わないだろうけれど。

どうするかは、自分で決めるだけのことだ。

・・・・

ここで困ったことがある。

誰も自分が「もやし」であるということは認めないし、気づかない、ということだ。

「そうだよねえ、もやしみたいなバイヤーたくさんいるよね」と笑って読んでくれているバイヤー自身が、他者からはどう見ても「もやし」である可能性は誰も認めようとしない。

ただ、いつの間にか、もやしバイヤーになっている人は多い。

せめて、上司がそういうバイヤーを減らそうと思えば、どうすれば良いだろうか?

考えるに、そういう種類のバイヤーを増やしてしまう環境がある。

「同僚の誰もが優しくて、仕事に対して厳しく接しようとしない」

あるいは

「上司に、何か自由に言える雰囲気ではなく、必然的にみながもやしになってしまう」

仕事の厳しさでは定評があるところで働いていた人は、やはりその後どんな職場で働いても輝いているように思う。

また、逆にカースト制組織で働いていた人は、やはりその後どんな職場で働いても自由に発言できないような性格ができあがってしまう。

それならば、そういう状況を作らないようにするしかない。

・・・・

私は提案する。

調達、あるいは購買、資材部門のマネージャーは部下にパワハラしろ。

手加減はいらない。これ以上もやしバイヤーが誕生しないようにするには、自らが変わるしかないのである。

徹底的に指導しろ。部下の書類を破れ。気に食わない見積書があったら、5時間くらい拷問しろ。資料にはいちゃもんをつけろ。相談には冷たくしろ。

人は暴力なしには生きていけない。だから、優しく暴力をふるえ。

そして、その後に、部下から反論をさせろ。どんな反論でもよいからさせろ。本音を隠しているようだったら、言うまで拉致しろ。

そして、部下の言い分と自分の言い分のどちらかが正しいか、勝負しろ。

今必要なのは、「言論の自由」ではない。「自由な言論」なのだ。

今日の昼休みに、昼食を顔にぶつけるところから始めよう。

ヒステリィに。

ドリーミィに。

バイオレンスに。

「バイヤーは、部下を殴れ!!」

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