これまでの常識③-1・・・努力すれば安くなると思っている「交渉は本当に必要か?」(調達・購買とは何をするのか)

「努力することが大切なんだ!!」

出社すると、未読メールが40通。前日は23時まで頑張ったはずなのに、わずか数時間でそれだけのメールがたまっていました。しかも、そのほとんどが例によって「原価改善のための緊急対策」というもの。早い話が、注文したものを集計してみると、あまりに目標から乖離しているので、安くするための調達品の価格を下げることができないかという主旨です。

そこから私は例のごとく高額発注品リストを作成します。発注予定で10万円以上のもの(あるいはもう発注してしまったもの)をせっせとピックアップし、一件ごとにサプライヤーに電話し、「1万円でも安くできませんか」と繰り返す。「5千円くらいならば」と言われたら、「8千円下げてもらえませんか」と言い、「では、7千円で」と言われたら決着し、次の電話をかける。

ときにはメールし、腱鞘炎になりかけたら再び電話。すると、「またですか」というサプライヤーの正直な感想をもらいます。電話でお願いするのが心苦しくなったら、メールに切り替えてコスト低減依頼。私も嫌になりながら、ずっとそんな交渉を続けていました。この経験のおかげで、パソコン操作が速くなったという効果はあったものの、こんなことばっかりやっていれば、どんなに希望にあふれたバイヤーだって精神的にまいってしまいます。しかも、先輩バイヤーの中には「これ以上サプライヤーを安くすることはできない」とむげに断っている人もいましたが、私は1円でも安くすることが自社の利益に貢献することだと信じていましたので、全ての高額品に対して交渉を繰り返していました。

サプライヤーからの拒否にも似た呆れ声とともに、私はこの仕事に疲れきっていました。

そういう頃のことです。

「調達部員のための折衝技術習得講座」というものを受講する機会がありました。

すると……そこにあったのは、驚きです。本当に驚いてしまいました。講座の内容に驚いてしまったわけではありません。受講しに来ているバイヤーの多くが、「交渉ごとが好きだ」と言っていたことです。誰かは「バイヤーにとって重要なのは、交渉力だ」とさえ言っていました。

そこで感じた違和感は、説明しようもないことかもしれません。私は、常々「交渉など基本的にはない方が良い」と感じていたのですが、どちらかというとそこに集ったバイヤーたちは「好きな交渉を、もっと上手くできるようにスキルを伸ばしたい」と考えているようでした。

私のひねくれた性格のせいでしょうか。「交渉ごとのようなことを、もっとやりたがるということは絶対に間違っている」と強く感じました。そこで、私は講師に質問してみました。

「そもそも交渉をしないで良いようにサプライヤーを誘導することがバイヤーの仕事ではないでしょうか?」。すると講師は、自分の仕事を守るかのように「そんなことはありません。交渉力はいつでも必要なスキルです。そして、そうやって交渉を重ねて、なんとか自社に有利な回答を引き出そうと努力することが大切なのです」と言うだけです。なので、私の悪い癖が出て、つい「それならば、この講座を引き受けるときに、どのようにギャラの交渉をして、どれだけ上がったか教えてもらえませんか」とつい訊いてしまったのですが、講師は「そんな交渉などしていません」と怒ってしまいました。

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