評価する側の、評価される論理

「こんな資料、誰が書いたんだ!!」

そのバイヤーは「面白いことになった」と思った。

バイヤーが調達・購買という仕事を始めてからというもの、常に「おかしいと思うことがあったら、それを指摘しなさい」と上司から言われていた。

「おかしい」と思うことなど、そのバイヤーにはたくさんあった。

・年輩バイヤーのパソコンを眺めると常にインターネットで遊んでいるのはなぜか?

・高い見積りなのに、社内にはそれを必死で肯定しているバイヤーばかりなのはなぜか?

・あのバイヤーは、取引先のアシスタント女史と遊びまわっているのに倫理上問題にされないのはなぜか?

・あきらかに精神が狂って使えない人間が「企画課」という名称の姥捨て山で雇用され続けているのはなぜか?

・ある種の人が、自分の英語力を自慢したいだけのために無益な輸入を続けているのはなぜか?

数えてみればキリがない。

こういう「おかしい」と思うことをA4にまとめて配布してみた。最初は部内だけで見せていたが、それを見た部員が面白いと思ったのだろう、部外にも転送し始めた。

すると、部外の人々から「あれって痛快だねえ」という感想をもらえることになった。

反応があることに「面白いなあ」とそのバイヤーは感じたのだった。

しかし、どうやらそれは疑問に感じてはいけない種類のものだったらしい。

回りまわってその書類を読んだ上の人はこう言った。

「おい!何だ!これは、誰がこんな資料書いたんだよ!!」。

純粋なそのバイヤーは、そのときに「疑問を持ってはいけない疑問があるのだ」と知ることになる。

・・・・

そのバイヤーは私だった。

おそらく、「言いたいことは言いなさい」と、あえて言っている組織ほど、「言いたいことすら言えない」組織である可能性が高いだろう。

もちろん、今の私だったら、上記のような暴言は書かない。

せいぜい、私が書いたと絶対に分からないように配布する。冗談である。

それにしても、呆れるのは日々サプライヤーを評価ばっかりしている調達・購買部員の「評価されること」への適応性のなさだ。

社外を評価するのと同時に、社外から評価される、というバランスを保たない限りその感覚は必ず麻痺してゆく。

そこに例外は、おそらくない。

バイヤーが社外から評価される。これは理想論だろうか。

断じて否、と言わなければいけない。一方通行の評価を見直し、購買・調達部門を360°評価していこうという試みは既に広がっている。

サプライヤーからはもちろん匿名形式で良い。日ごろ付き合っているサプライヤーからどのように思われているのか、どのような点を改善希望されているのか、ということを聞くのが有益ではないはずが無い。

年に一度で良い。部門でできなければ自身でやっても良い。

社外というフィルターを通して自分を客観視してゆく機会を持たねばならない。

・・・・

・日ごろのバイヤーの態度はどうか?

・VA/VEの提案を無視していないか?

・交渉には応じているか?

・社内の調整はちゃんとやっているか?

・無理なお願いばかり繰り返していないか?

などなど、考えれば考えるほど項目は出てくる。

当然、サプライヤーが出してくる要望を全て受け入れるかということは別問題である。

まずは、客観的な評価を受ける方が良い。それは、同じ文化に染まりきった上司から受ける評価とは必ず違う種類のものであるはずだからである。

ある程度大企業であれば、一人のバイヤー時間単価は5,000円くらいかかっている。その5,000円レベルの仕事はちゃんと行えているか、という当然の確認が必要なのだ。

のろまに1時間で1枚の資料をダラダラと作っているバイヤーに、時給5,000円を払う奴などいない。

あなたが給料を払う立場だったとして、そのバイヤーに給料を払う必要性はない。意味があるとすれば、無駄な給料を払ってまでも雇用を創出するという社会的意義だけだ。これは皮肉が過ぎた。

そういうバイヤーのとんでもなさは、組織の中にいるがゆえに隠蔽されているだけだ。心よりおめでとう。

・・・・

この話をすると、必ずバイヤーから異論が出る。

「そんな仕事をするなって言われたって、上司からそういう指示をされている」とか、「上司が無能だから、資料ばっかり作らされるのが現状だ」とか、「サプライヤーのために働いても上司から評価されない」とかだ。

なぜだ。なぜ、そんなことを言う?

「上司が無能だから、逆に仕事の本質を教えてやりました」とか、「上司が無能だから、仕事の邪魔をされずにすみました」くらいのことを言ってみろよ。

ああいうバイヤーになりたいです、と後輩から言われるくらいになってみろよ、と若輩者の私は思う。

「バイヤーは社外から酷評を受けろ!!」

 

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい